誕生日の願いごと《竜之介》

「リュウ…本当にお誕生日、こんなふうでよかったの?…外でご馳走食べるとかのが良かったんじゃない?」


いつもどおり一緒にベッドに入ると有栖は尋ねてくる。

朝から晩までこの部屋でふたりきりで過ごしたことを気にしているらしい。

僕が頼んだことなのに……(そして兄のナイスな出張にも感謝)


「有栖、しつこい!俺がそうしたかったの……!」

有栖はやっぱりなんにもわかってない。


でも……

「でも……だったら、日付が変わらないうちに、もうひとつだけ…誕生日の俺の願いを聞いてくれる?」

僕の声色が変わったことに有栖は気づいたのか、少しだけ身を固くした。

「なあに…」

柔らかい布団の中でこちらをまっすぐ見ている。


ずっと、ずっと,思っていたこと。

今日しか、言えない気がした。

「有栖の背中を見せてほしい……嫌かな……」

僕がそう告げると、有栖の身体がピクッと震えた。


有栖の背中には、2年前僕を庇ってできた傷痕がある。

その怪我のせいで有栖は半身にすこし麻痺が残っている。

だから、有栖は絶対に僕に背中を見せようとしない。


有栖は黙っている。

有栖が嫌なら無理強いはできないけれど……

「どうしても……一度ちゃんと見ておきたいんだ……見せるの……つらい?」

僕の隣に横たわって俯いている有栖を覗き込む。

部屋には月明かりと、ベッドサイドに置かれたランプだけだった。

有栖はひどく躊躇っていたようだったが、ややあって

「もっとあかりを暗くして……」

と、小さな小さな声で言った。

僕は照明のボリュームを絞ってサイドランプの灯りを一番小さくした。


部屋がはいっそう暗くなる。

有栖の表情はよく見えなくなっあ。

上体を起こし、僕に背をむけて、有栖がゆっくりパジャマの釦を外し始める。


やがて絹ずれの音がして、パジャマの上着がするりとベッドのシーツ上に落ちた。

彼女はそのパジャマで、胸を隠すように腕で覆って、僕に背中を向けた。


背中が少し震えていて、僕のために勇気を出してくれたのがよくわかった。

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