誕生日のキス 《有栖》
「リュウ……?」
プレゼントのピアスを竜之介につけてあげたら、急に抱きすくめられる。
抱きしめる腕に力が入っていて身動きがとれない。
私が戸惑いながら竜之介の背中に手を回すと、ふっと彼の腕にこもっていた力がすこしゆるんだ。
彼の体温が愛おしい。
「……ありがとう……大切にする……」
彼は私をしっかりと抱き寄せたまま耳元で囁くので、くすぐったい。
「……うん……」
目の前に、今つけてあげたばかりの小さなフープピアスが光っている。
やっぱりよく似合っている。
竜之介は、そっとつぶやく。
「有栖を必ず守るから……」
私は、彼の真剣な声に動揺して思わず顔を背けようとすると優しく頬を包まれ、上をむかされた。
「こっち向いて」
竜之介は、私をじっと見つめてそう言う。
恥ずかしくて目を伏せようとすると制される。
「だめ……俺をちゃんと見て……」
どうしたんだろう、今日の竜之介はなんだか…妙に男っぽい。
竜之介の顔が近づいてくる。
思わず目をつむると、唇に温かいやわらかな感触が重ねられた。
彼の手のひらが私の後頭部を優しく支える。いつのまに竜之介はこんなに大きくなったんだろう……自分をつつみこむ竜之介の気配。昔は私のが少し大きかったのに。
「俺、もっと大人になるから……」
唇を離して、少し掠れた声で竜之介が言うので、リュウはそのままでいいのにと返そうとすると、彼の唇が再び押し当てられた。今度は深いキスだった。その唇も私の頭を支える指もかすかに震えているのが伝わってくる。躊躇いがちな、優しいキスだった。
竜之介の冷たい鼻の先が私の頬にあたる。
私はプレゼントしたピアスにそっと触れてみた。
竜之介が私のことを大切に思ってくれていることが痛いほど伝わってきて、私はこのキスを受け入れてしまってよかったのか、不安になった。
まるでその気持ちを読み取ったかのように竜之介の唇は離れた。
「誕生日ってことで勘弁して…」
私の肩にかかる髪に鼻先を埋めて竜之介が言う。声が少しくぐもっている。
「中学の頃、寝てるいたいけな俺に勝手にキスしてたやつのお返し。あれ、ファーストキスだったんだから、まだたりないくらいだよね?」
そう言って、顔を上げた竜之介はペロッと自分の唇の端をなめて、ニヤッとする。
いつもの竜之介に安心して、私は少しほっとして頬を緩めた。
でもわかってる。
竜之介は私が困らないように、わざと逃してくれたのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。