5-2
竹馬に乗った仮面の子供たちはいつの間にか姿を消していた。
私たちはあの日と同じ暗転した世界にいる。
闇の中に、私と彼の姿が浮かび上がる。彼の左手で燃え盛る松明が、暗闇に降りしきる雨を映す。それが、この世のものとは思えないほど、美しい。
彼が暗闇の中に、腰を下ろす。
「あと三十分くらいかな」
私たちは、今まで三度、この暗闇で静かに別れの時を待った。だけど、今回は違う。
「どうして、この街を造ったんですか?」
私の問いが暗闇に吸い込まれていく。沈黙が訪れる。
答えに詰まったのか、答えを探していたのか。私には分からない。
彼は前を見つめたまま、声を発する。
「君が震えていたから。君が泣いていたから」
そして、私を見上げた。
「僕は君に笑ってほしかった」
この空間は私たちの理解を超えていた。暗く果てのない闇だった。ただ、雨と私たちだけが存在していた。
私たちは歩き、叫び、助けを求めた。何も起こることはなかった。
時計は意味をなさず、電波も届かない。空腹を感じることもなく、雨の冷たさに震えることもなかった。それがなおのこと恐ろしかった。
ことの異常さに、私の心は蝕まれていった。足を動かすことさえ億劫になった。
私はその場に蹲る。彼は私を元気づけようと様々な言葉をくれた。暗闇の中、明るい声が空しく呑み込まれていった。
どれくらいそうしていただろう。その空間に変化が起こった。白い人影が現れたのだ。
黒い仮面をかぶったそれらが手に掲げた松明は、どこまでも神秘的で私の心を捕らえた。
私は一言呟いた。
「綺麗」
彼の動きは速かった。白い影に飛びつき、抵抗するそれを振り払い、松明を奪い取った。なおも縋りつく影を蹴飛ばし、踏みつけた。やがて、それは灰になり、形を失った。ほかの影は何事もなかったかのように、果てのない闇に消えていく。
あれほどまでに獰猛な彼を、私は初めて見た。
彼はすぐにその松明の使い方を理解したようだった。
口の中に火を含み、吐き出す。そうすることで願いが叶うことを知ってしまったのだ。
元の世界に帰ることを、私たちは何よりも願った。だが、それが叶うことはなかった。それだけは叶わなかった。それ以外のことはすべて彼が望んだ通りになった。
雨を避けるための家を作ってくれた。二人の思い出の地を作り、私を笑わせようとしてくれた。寂しいと言った私のために、人に似た仮面の何かを作ってくれた。
そのうち、彼は口から灰を吐くようになった。それでも彼は止まらなかった。
私は悟った。彼は私にすべてを捧げてくれる。その命でさえも投げ打とうとしている。
止めることはできなかった。彼の顔を曇らせる気がした。私は、私に笑顔を向ける彼の隣にいたかった。
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