第五話:畦道、そして、暗闇
5-1
また、ここへ来てしまった。私たちは呪いのようにこの場所へ引きずり込まれてしまう。
薄暗い道に蛙の合唱と雨音が混ざり、静かな夜を作り上げている。
カン、カン、という音がどこからともなく響く。やがてそれは私たちを囲んだ。
小さな、仮面の子供たちが背の高い竹馬を操っていた。私たちを器用に避けながら、飛んだり、跳ねたり、回ったり、と、現実ではありえない動きで、私の目を楽しませてくれる。
俯いていた顔が自然と上がった。
彼が振り返る。
「ここもにぎやかにしてみたんだ」
レインコートの裾から灰が流れていく。それを目に映しながら、私はそのことに触れない。
「どうして竹馬なんですか?」
「君が驚いていたから」
懐かしい話に目を細める。
あの日、私は軽自動車の助手席に座っていた。左手の薬指には指輪が光っている。
「そんなに緊張した?」
「それはもう」
私は大きく息を吐く。彼の両親への挨拶を済ませた帰りのことだった。
私は呼吸を整えながら、窓の外を見る。田んぼや畑、平屋の家など、行きは緊張して見えなかったものが見えてくる。都会に生まれ育った私にとって、彼の故郷は物珍しかった。
この辺りで一番大きな建物が見えてくる。小学校だ。そのグラウンドの大きさに、私は驚き、そして、そこで遊ぶ子供たちの姿に目を見開いた。
「竹馬」
「どうしたの?」
「今の時代にもあるんですね」
感嘆した私に、彼が声を上げる。
「竹馬で遊ばなかった?」
「はい、初めて見ました」
今度は彼が感心したように息を漏らした。
やがて、雨が降り出す。
軽自動車は畦道を徐行する。大きな通りに面した。
坂道だった。雨で視界が悪かった。その運転手は言い訳がましく喚いた。
トラックが軽自動車を跳ね飛ばした。
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