4-2
一度だけ、別れ話をしたことがある。彼と旅行に出かけた時のことだ。
話を振ったのは私だ。彼が恐ろしくなったのだ。
私へのプレゼントのために、体調を崩すまで仕事を増やしていた。家族との約束を取り消してでも、私を優先した。
そして、私とともにあるために、その夢まで諦めてしまった。彼との旅行に浮かれていた私に、友人が教えてくれた。
どこかで知っていた。あれほど目を輝かせ、夢を語っていた彼が、いつからかその話題を口にすることがなくなった。私はあえて触れなかった。
予約していた廃墟群へのツアーに私たちは一言も交わさず参加する。目的地へ向かうフェリーの中で、その成り立ちを聞いた。人間の都合で作られ、人間の都合で捨てられた島の話を私は黙って聞いていた。そして、島に降り立つ。
人間のためにすべてを捧げ滅びゆく建物と、私にすべてを捧げ失っていく彼を重ねた。このままだと、彼はすべてをなくしてしまう。たまらなく恐ろしかった。
だが、何より恐ろしかったのは、彼が私にすべてを捧げてくれることを、どこかで喜んでいる私自身だった。彼の一番であることに、私は陶酔に似た幸福を覚えていた。
結局、私たちが別れることはなかった。
私は恐怖より、喜びを取ったのだ。
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