守護霊相性
ボウガ
第1話
都内で働く女性、Aさんは、昔から恋愛が長続きしなかった。付き合う男に問題があるというよりは、必ず相手が霊感のある相手と引き合ってしまう。そしてその相手は必ず、君の守護霊が怖い、守護霊が怖いと口をそろえていって、逃げていってしまう。
それだけではなく守護霊は時折夢にあらわれ、仕事や趣味のことをああでもないこうでもないといわれる、それに、時折霊感が多少あるAさんの前に“人影”としてあらわれ、ぼそっと何かをつぶやいていなくなる。言いたいことをはっきりといわないのに文句を言われるようで腹が立っていた。
困り果てたAさんはすぐに霊媒師を探す。というのも、守護霊に心当たりがあったのだ。自分は幼少期に霊媒師に見てもらったことがあり、その時には守護霊はいなかった、子供時代はたしかに怪我や病気が多かったのだ、大学生になり祖母が亡くなったとたん、そうしたこともなくなった。祖母は亡くなり際こういった。
「あんたの事を、死んでからも守ってやる」
普通はありがたい申し出だが、Aさんと祖母は仲が悪かったのだ。顔を合わせては喧嘩をして、お互いの欠点を罵る。小さいころは仲が良かったらしいが、子供の頃、祖母は手芸が趣味で、Aさんに教えるうちにだんだんとうまくなり祖母よりうまくなって、趣味の絵画も同じ要領で教えるとぐんぐんAさんが上達したので、張り合うようになりお互いを競争相手とみるようになった。趣味も好みもあうので実際のところ同族嫌悪である。
霊媒師にあうと、20代半ばといった落ち着いた様子の長髪、しかしいやらしい感じのないさっぱり分けた前髪の芸術家っぽい身なりの青年で、彼はまず初回無料であなたの守護霊を見てみるといってくれた。
「ふむ」
「どうですか」
「なるほど、確かに力のつよい守護霊がついていますね、あなたの祖母だ」
何も説明していないのにきっぱり言い当てたので、この人は本物だとみて、すぐにお願いをした。
「あの、守護霊を変える事ってできますか?」
「え?まあ、できますけど、一度変えると戻ってきてくれるかわかりませんよ」
そこで他に詳しく守護霊についての説明をうけた。彼の解釈する守護霊というのは、守護霊同士で相性があるもので、守護霊同士の相性が悪いと、人間同士がひかれあうことがほとんどないらしい。確かにAさんの守護霊は力が強いしクセも強いが、それがいい事か悪い事かは、彼には判断できないといっていた。
「それでも、お願いします!」
「わかりました、少しお待ちください」
ふと色々な仏具らしきものやら線香やらろうそくなどを用意すると、彼は祈りをはじめた。Aさんは、座布団に座らされ儀式中目を閉じるようにいわれたのでとじていた。いつのまにか意識をうしなっていたらしく、男性が肩をたたき自分を呼ぶ声で目が覚めた。
「どうですか?」
「はあ、なにかすっぽり背中からぬけて、入ってくる実感があって、そのあと私、はっ……寝てしまいました!」
「大丈夫ですよ、これで成功です、今回のお支払はこれで、また何かあればお越しください」
みると、5000円ほどで想ったよりとられないんだなと思った。Aさんはその翌日から、職場である男性に積極的に声をかけるようになった。というのも、件の霊媒師にある頼み事をしたのだ。
「今思っている男性がいるのですが、その人の守護霊と相性のいい守護霊をつけてくれますか」
「ええ、できますよ、その人の特徴を教えて頂ければ、だいたい守護霊もにたような人がつきますから」
思い切ってAさんはその男性に積極的に接していくと、数週間もするうちにすっかり仲良くなった。Aさんはその人が運命の人ではないかと思うようになり、あれよあれよという間に一か月で恋仲に、それからはしばらく幸福な生活が続いたのだったが、3か月ほどしたある日だった。
「別れよう」
「え?」
「君といると僕は幸せだ、けれど、無理している気がする」
「ごめんなさい、私気を使わせて」
「そうじゃない……うまく表現できないが……君のほうがなにか別人がのりうつって、無理をしている気がするんだ……気を使っているのは、君なんじゃないか」
Aさんはドキッとした。そうなのだ。ここ最近顕著だったが、守護霊が変わってから、自分は過去の自分と違う存在になろうとして、無理をしすぎていた。そして彼の事は好きだが、なにか相性の根本的な違いを感じるようになっていた。
「ごめんなさい、あなたは素敵な人だけれど、私、ちょっと無理して好みだとかを合わせようとしていたみたい」
彼女はしばらく落ち込んだが、彼と付き合っていた間に身についた習慣は変わらず、自分が自分でないような感覚にすら襲われた。そのうち夢に祖母が出てくるようになり、自分にひたすらあやまってくるのだ。
「あなたの事が嫌いなわけじゃなかった、自分を見ているようでつらかった、ごめん、ごめん」
しばらくそんな夢ばかりで寝た気がしないし、困り果ててやはり件の霊媒師のところへ向かった。
「ああ、やっときましたか」
「え?」
「必ず来るとおもっていました」
「どういう事です?」
「あなたのようなお願いをする人はいるのです、口でいっても、きっと理解していただけないでしょうから、一度体験していただいたのです……」
ふと、文句をいいそうになったが、しかし、恥を忍んでいった。
「守護霊を、元に戻すことってできますか?」
「ええ、できますよ」
霊媒師は、にっこり笑っていった。そして儀式が終わると、また揺り起こされこういわれた。
「しっくりくるでしょう?」
「ええ、確かに」
「あなたのように、“相性のいい守護霊”に守ってもらえる人は少ないのですよ」
「あなたはうまく行かないと最初からわかっていたの?」
「ええ、人間と人間の相性がそうであるように、人間と守護霊、守護霊同士だって無理やり相性をあわせても、誰かが無理をするだけです、あなたは本当は祖母の事が好きなのでしょう?」
Aさんは少し悩み、深く考えたが決心し、目をそらしながらも本心をうちあける。
「ええ、でも、私たちはいつも喧嘩ばかりで、まるで自分を見ているようで辛くて、自分を反省できない事が余計つらくて、でも、喧嘩ばかりで、きっと祖母もそれが嫌で私を憎んでいるものとばかり」
「いいえ、祖母もあなたと一緒の気持ちのはずです」
「私は怖いんです、相性のいい相手とであってもまた喧嘩ばかりになりそうです」
「それでいいのですよ、世の中には、相性のいい人たちばかりではないのですから、確かにあなたと祖母は似すぎているために、反発する事も多いし気に食わないこともおおいでしょう、ですが生前の事をおもいだしてください、おかしい話ですが、それによって、他人のありがたみがよくわかったでしょう」
「……」
「よく喧嘩をする相手、合わない相手、しかし、そうでない相手の事を考えればきっとあなたにいくらか譲歩をしてくれてきた人のはずです、その事がわかればきっとおばあさんともうまくやっていけるでしょう」
そう諭され、Aさんは自省し、祖母のせいで恋人関係がうまくいかないという想いこみをやめ、ただ単純に自分の問題として相手を尊重できていなかったのかもしれないと考えはじめた。すると不思議なことに霊感のある恋人ができても、守護霊を怖がる事はなくなった。今では素敵な男性と結婚し、子供ができたAさんは思う。
「きっとあの守護霊―祖母は、私に気に食わないところがあっておこっていたのでしょう」
と。
守護霊相性 ボウガ @yumieimaru
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