第四話 旅立ち

「これからどうする?」


「これからって…普通に帰ればいいだろ」


「でもそれだとこれから先、ずっと《処刑人》の餌食になる人たちを生んじゃうんだよ」


「そんなこと言ったって今俺達にできることなんてないだろ」


「いや…私達にはその本がある」


レイナは案内本ガイドブックを指差した。


「これでどうするんだよ」


「……そうか、この本にはきっと外の世界の事がいろいろ書いてある…はずだから、その知識を使って混沌の使徒カオシアンを倒す。もしくは説得して今奴隷にされてる人たちを解放することができるかもしれない」


「そんなこと俺達にできるのか?」


「分かんないけど、今そんなことができるのは私達しかいないと思うよ」


「なら、他の大人達にでも頼んどけばいいだろ」


「信じてもらえると思う?こんな話」


「じゃあ総合学院アカデミーのやつら…は無理か」


確かに同学年の同級生なら信じてくれるかもしれないが、彼らは幼少期にレイナをいじめていた、もしくはいじめているのを見ていただけだった。

そのせいでレイナと仲のよい自分とカインもクラスで避けられている。


そんな彼らに話したところで信じてもらえないし、例え信じてもらえて一緒に行動してくれるとしても、レイナが過去のことを思い出して傷ついてしまうかもしれない。


「それに俺達の親もどうせ相手にしてくれないしな」


今はもういじめられることも無くなったが、そうなるまでには他の奴らと揉めることが多かった。

その結果、俺達の親は俺達を見限り、何も言ってこないようになってしまった。

例えこの


「だとしても何で行かなくちゃいけないんだよ」


「カインがここに残ったとしても、どうせいつか《処刑人》に拐われるよ。それなら今のうちに行動したって変わらないって」


「そうは言ってもな、ただの子供の俺達がそんな昔の英雄でも倒せないようなやつら、倒せるわけないだろ」


「それは正面から挑めば、の話でしよ。こっそり侵入して魔石コアを破壊するだけなら子供の方が有利だよ」


「……」


「それ以外に行けない理由がないなら、一緒に行くってことでいいでしょ」


「分かったよ…一緒に行ってやるよ」(大体お前ら二人だけじゃ心配だからな)


カインは根は優しいタイプなので、自分が行きたくないというより俺とレイナを行かせたくないという思いから反論していたのだろう。

だから俺とレイナが行くと決断していて、もう考えを変えれないなと思ったので自分も行くことに決めたのだと思う。


「じゃあ行くとしてどこから行くんだよ」


「さっき書いてあったトンネルからに決まってるだろ」


「もしかしてさっきの洞窟がそのトンネルだと思ってるのか?」


「だってコンパスによると、ここが白の国ホワイトランドの中心から見てちょうど真東の位置なんだもん」


「そのトンネルが本物だったとして、その先はどこに着くんだよ」


「それは…」


赤の国レッドランドだよ」


レイナがバックから地図を取り出した。


「家から古い地図を持ってきたの。本当はシーマの家で見るつもりだったんだけど」


その地図によると、白の国ホワイトランドから真東には赤の国レッドランドがあり、その北には大きな山脈があるようだった。


「それならとりあえず案内本ガイドブック赤の国レッドランドの章を見るか」


赤の国レッドランド

狼が支配している国。英雄の戦争で《狩人》と呼ばれた光の使徒と戦った大狼ガルムという 混沌の使徒が玉座についている。


国の半分程が森に覆われており、その森の中心部に大狼ガルムがいると考えられる。

この国の人類は狼の食料のために農業を営んでおり、狼は収穫の半分を納めさせる代わりに人を殺さないとしているため、貧しい生活だがそこまで命の危険があるわけではない。


大狼ガルムの弱点としては、近くにあるものを何でも飲み込もうとする点が挙げられる。

ただ、人も飲み込めるので近付けないという点では脅威でもある。』


「なるほど……そこまで命の危険がないとも書いてあるし大丈夫かな」


「…にしてもこの本見た目の割に内容薄くないか?」


「「確かに……」」


案内本ガイドブックは普通の文庫本ほどのサイズで、ページ数もそれなりにある。

しかし、赤の国レッドランドの章は見開き1ページしか存在せず、全体の13分の1としては短すぎる。


「まぁそんなこと気にしたってしょうがないよ」


現状分からないことをいくら考えても仕方がない。


「じゃあ早速出発……といいたいところだけど、さすがに何の準備も無しに出発はできないから、

各自家から必要なものだけ持って30分後にここに集合ね。」


今俺達は総合学院に向かうときの服装であり、

とても旅ができるような格好ではない。


家に着くと、部屋の電気は消えていた。

どうやら両親は出かけているようだ。


リュックに水筒と携帯食、案内本など必要そうなものを揃え、着替えてから合流地点に戻った。


「おい、遅いぞ」


合流地点には既にカインが待っていた。

背中には結構大きめのリュックを背負っており、服もしっかりと着替えている。

あんなに反対してたくせに一番乗り気なんじゃないか。


「何笑ってるんだよ」


「別に~」


これはいつかからかわれたときの仕返しとしてしっかり覚えておこう。


「おまたせー。遅くなってごめんね」


レイナも水色のリュックと帽子をかぶっており、これから登山しそうな感じの服装になっている。

普通にかわいい。


「似合ってるよ、その帽子。可愛いね」


「!!かわっ……」


普通に服を誉めたら、なぜかレイナは顔を赤らめて硬直してしまった。


「イチャついてないで早く行こうぜ」


「イチャついてないよ。普通に思った通りの感想を言っただけだから」


「おい…それ以上攻撃を続けたらレイナが死んじまうぞ」


攻撃?が何のことかは分からないが、

今はカインの言う通り余計なことを言わない方が良さそうだ。


「ほ、ほら、早く行くよ!」


レイナは相変わらず頬が赤いが、なんとか冷静さを取り戻したようだ。


「良かったな、シーマに誉めてもらえて」


「べ、別に友達から服を誉めてもらえたから普通にうれしいだけだから」


「へえ~嬉しかったことは認めるんだ」


「…………」


レイナは黙って先に進んだ


「悪かったって。そんなに拗ねるなよ」


「拗ねてない」


「はいはい、分かったよ。じゃあ一つだけお願いを聞いてやるから許してくれ」


「本当に?今の言葉取り消さないでね。シーマもちゃんと聞いてたよね?」


「そうだな。俺もちゃんと聞いてたから守れよ、その約束」


「はいはい」


「じゃあ行こうか。この山の向こうに」





第一章 fin










~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「ハッハッハ、やっと面白くなってきたな。せいぜい長持ちしてくれよ、ガキども」



暗い部屋の中、そこには鏡に写るシーマ達の姿を見て、不敵に笑う人物がいた。









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次回は番外編です。

読み飛ばしていただいても結構ですが

読んでいただけると、筆者が喜びます。

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