第三話 混沌の使徒

「まあとりあえず最初の章を読んでみるか」


案内本ガイドブックの目次にあった

0.混沌の使徒カオシアン白の国ホワイトランドの章を開く。


混沌の使徒カオシアン


この世界を乗っ取った集団は自らを混沌の使徒カオシアンと名乗った。

彼らは世界を乗っ取った後、死や老化を避けるために魔石コアと自らの命を繋げた。魔石コアとは元々自然界に存在した物質で、世界に14個あったとされているが、現在では13個しか確認されていない。


魔石コアには所有者の願いを増長し、周囲に影響を及ぼす力を持っている。つまり混沌の使徒カオシアン達の望む姿に徐々に変化していってしまうということだ。


魔石コア混沌の使徒カオシアン達の結び付きは強く、魔石コアを破壊するか混沌の使徒カオシアン自身が望まない限り切れることはない。また、魔石コア自体は通常の物体では破壊不可能であり、光の使徒ライティアンが使用したような神器が必要である。


魔石コアを破壊することができれば、混沌の使徒カオシアン達は老いを逃れた年月全てが畳み掛け、一気に歳を取る。その状態になれば倒すのも可能となる。逆に言えば魔石コアとの繋がりがある状態の混沌の使徒カオシアンは不死身であり、倒すことはできない。


現状我々が分かっているのは以上だ。混沌の使徒カオシアン達は魔石コアの力で強力な力を得ている。繋がっている状態で戦いを挑むことだけは避けてほしい。


白の国ホワイトランド

…』


「♪♪♪♪~」


その時、五時を示す音楽が流れた。


「もう五時か」


「私ももう帰らなきゃいけない時間だ」


「じゃあ続きはまた今度にするか」


「じゃあね~」「じゃあな」


キリのいいところで時間になってしまった。

自分だけ先に見るのもどうかと思い、今日は早めに寝ることにした。


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夜中の2時になぜか目が冴えてしまい、眠くなるまで歩こうと思い散歩していると、前から一人の女性が走ってきた。


「…っ…」


何かをしきりに叫んでいたが、声が出ておらず聞き取れなかった。

その時、黒いフードを被った5人組がその女性を一瞬で拐い、そのうちの一人がこちらに手を向けて何かを唱えた。


『△✕◯□』


そこで記憶が途切れ、気づいたら家のベッドにいた。


改めて思い返すと、夜中に目が覚めてから散歩に行くまでの記憶もなく、実際に歩いた形跡もなかったので、これはリアルな夢だったのだろうと思うことにした。


この奇妙な夢をレイナとカインに話すと、二人も同じような夢を見たと言った。


多少の差があったが共通していたのは、黒いフードを被った5人組が女性を拐ったことと、そのうち一人がこちらに手を向け、何かを唱えたところで夢が終わっていることの2つだった。


三人で夢の内容について考えていたとき、北の方から何やら煙が立っているのに気づいた。


「あれ何かな?」


「わかんねーな。でも何か近付いてきてるように見えるな」


その煙は段々こちらに迫ってきており、なんとなく嫌な予感がしたのでとりあえず建物の影に隠れることにした。


頭だけ出して様子を伺うと、そこには燃え盛る狼が宙に浮いていた。しかし、他の通行人はそれに気付いていないようだった。


「…何だよあれ…」


小声でカインが呟いた。


「分かんないけど、とりあえず良いものには見えないからあっちへ逃げよう」


「でも…あの山脈に近づくのは禁止されてるし、このままだと総合学院アカデミーにも遅刻しちゃうよ…」


「先生に怒られるのと今あの狼に見つかるのとどっちがいいの!」


レイナが指差したのは東の山脈だった。

この国では周囲の山脈に近づく事は禁止されていたが、今現在自分達は最東端の町の東側にいるため、逃げ場としてはそこしかなかった。


東の山脈に入ると、ちょうどよさそうな洞窟があったため、三人でそこに入り、様子を伺った。


しばらく経っても追いかけてこなかったので安全だと判断し、外に出た。


「ったく…何だったんだあの狼」


「分かんない。もしかしたらまだ町にいるかもしれないし、ここでしばらく過ごした方が良さそうだね。シーマ、あの本持ってる?」


「いや…家に置いてあるままだったと思うよ」


「そうか…じゃあしばらく暇だけど仕方ないかな…あれ?シーマそんな本持ってたっけ?」


「そんな本って何?」


「だからその右手に持ってる本だってば!」


右手を見てみるといつの間にか一冊の本が握られていた。しかもそれは例の本だった


「この本を家から持ち出した記憶が無いんだけど」


「まぁとにかく本もあるんだし、早く続き読もうぜ」


引ったくるように本を奪ったカインは続きを読み始めた。


「待ってよ。私達も読むんだから」


白の国ホワイトランド

他国の説明をする前にまず人類にとって唯一の自由統治地区である白の国ホワイトランドについて説明する。


この世界には大陸と呼ばれる一つの島しかなく、それ以外は海という水で満たされている。

白の国ホワイトランドはこの大陸の中心にそびえ立つ母なる大山マザーマウンテンの頂点が堕ち窪んだカルデラの中に存在している。つまり周囲の山々は母なる大山マザーマウンテンの一部に過ぎない。


母なる大山マザーマウンテンは大きな魔力を持っており、その魔力を利用することで混沌の使徒カオシアンの侵入を防いでいる。


ただ、陥没した白の国ホワイトランド部分は崩落する際に魔力の性質が反転し、魔力を吸い込む作用が生まれている。

魔石コアは魔力が枯渇しても壊れるため、これも混沌の使徒カオシアンを退ける理由の一つであり、どんな生き物でも使えるはずの魔法を使えない人が生まれる理由でもある。


しかし、この防御も万能ではなく、東西南北の4ヶ所に防御の薄い部分がどうしても発生してしまう。混沌の使徒カオシアンがそこを見逃すわけもなくそれぞれの場所にトンネルを掘ってしまった。


当時の魔術師達のおかげで昼の間は閉じられるが、夜になると開いてしまう。それを受け、そのときの白の国ホワイトランドの国王が混沌の使徒カオシアンにある提案を持ちかけた。毎月3つの家族を奴隷として差し出す代わりに侵攻をやめてほしい、というものだ。


混沌の使徒カオシアンはその提案を受け入れた。以降、白のホワイトランドでは夜中に黒いフードを被った《処刑人》という者達によって拐われ、東西南北のいずれかのトンネルから混沌の使徒カオシアンに捧げられている。


《処刑人》達はかなりの魔術の使い手で、特に人の記憶を操作する能力に長けている。そのため、拐われた者達の事を知っている人間からその記憶を排除している。』


「私達が夜中に見たのってこの《処刑人》だったのかな?」


「多分そうだろうけど、それなら何で僕らの記憶は残ってるの?」


「確か前持ってきた古代語の魔術書によると、古代語を使える者には魔法が効きにくくなるって書いてあったと思う」


「じゃあそれだろ。俺達だって記憶は残ってるけどそれを夢だと勘違いしてただろ」


これで夜中の不審な集団の正体が分かったが、先程の狼についてはまだ分からない。

謎は深まるばかりだ。





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