第二話 案内本

「何だこれ」


その古びた本は表紙に「案内本ガイドブック」とだけ書いてあった。

1ページ目を見てみると、


『この本を読んでいる君にとっては、もしかしたら大昔のことかもしれないが、元々人類はこの世界の頂点に君臨していた。

しかし、この世界には世界を手に入れようと考えていた者達がいた。彼らは同じ望みを持っている者達で混沌の使徒カオシアンという名のもとに同盟を結び、世界を奪おうとした。

もちろん世界を奪いたい者がいれば反対に世界を守ろうとする者達もいた。彼らは混沌の使徒カオシアンに対抗して光の使徒ライティアンとして同じく同盟を結ぼうとした。

ところが、混沌の使徒カオシアン達も馬鹿ではなく、同盟が締結されるのを妨害した。そのせいで光の使徒ライティアン達の同盟が結ばれるまでに時間がかかり、やっと結べた頃には人類のおよそ3割が奴隷として捕まってしまった。

光の使徒ライティアン達は捕まってしまった人々を助けるために、英雄の戦争ラグナロクと呼ばれる戦争を起こすが、人質をとられている状況だったため苦戦し、最終的に敗北してしまう。

人類は最後の抵抗として周囲を山に囲まれた天険の地に白の国ホワイトランドを築き、この案内本ガイドブック英雄の戦争ラグナロクを記録した。

奴隷として捕まっていた人々は、混沌の使徒カオシアン達のリーダー格だった13人が治める土地に振り分けられ、君がこの本を読んでいる現在も子孫が奴隷として働かされているはずだ。


なお、この本は本を開いた君が死ぬまで君しか読むことができない。

また、混沌の使徒カオシアンに悪用されるのを防ぐため、読むには章ごとに混沌の使徒カオシアンの命とも言える魔石コアの破片を使わなければいけない。

始めはサービスとして1つだけ魔石コア無しで見れるようになっている。よく考えて選ぶこと。

君がこの本をいい方向に使ってくれることを祈る。』


と書かれており、下に目次があった


『目次

0 混沌の使徒カオシアン白の国ホワイトランド (魔石コア不要)

1 白の国ホワイトランド

2 赤の国レッドランド

3 青の国ブルーランド

14 桃の国ピンクランド


衝撃的だった。この白の国ホワイトランドの外にも世界があるとは考えたこともなかったし、外の世界にも人がいるが奴隷にされていることも初めて知った。混沌の使徒カオシアンという言葉も聞いたことがなかった。


「おい遅いぞ!!何時間待たせる気だ!!」


「20分も何してたの?心配で迎えに来ちゃったよ」


本の内容に衝撃を受け固まっていたところに、二人が来た。


「二人共!この本見てみて!!」


「落ち着けよ」


二人は不思議そうにしつつも本を覗いてきた。


「何だ?ただ落書きが書いてあるようにしか見えないぞ?お前が書いたのか?」


「この暗号みたいなのがどうしたの?」


「え?暗号なんてどこにもないで…」


その時、『この本は本を開いた君が死ぬまで君しか読むことができない』という一文の意味ではないかと気付いた。

どうしようかと頭を抱えていると


「急に黙り込んでどうしたんだ?」


「実はこの本は俺にしか読めないみたいで…」


「そんなわけないだろ。中二病か?」


「とりあえずシーマの家に行こう。そこで改めて説明してもらえばいいよ」


という訳でみんなで俺の家に行く事になった。


家に着くと、レイナが鉛筆と紙を持ってきた。


「じゃあシーマはこの本を声に出して読んでもらえる?私は紙に書き写すから」


「どうせ読めないだろ。嘘なら早めに白状した方がいいぞ」


「…うるさいなじゃあ読むからちゃんと聞いといてよ。『この本を読んでいる…』」


「『…使ってくれることを祈る。』これでおしまい」


「「…」」


二人とも驚きで声も出せないようだ。


「こんな本どこで見つけたんだ?」


総合学院アカデミーのグラウンドに一ヶ所色が違うとこがあってそこを掘ったら出てきた」


「多分これ古代語で書かれてるんじゃないかな?家から古代語の魔術書持ってくるから待ってて」


そう言ってレイナは家を出ていった。

数分後、戻ってきたレイナは一冊の本を持っていた。


「あったよ!古代語の魔術書!」


この魔術書の内容を要約すると、

古代語とは様々な国が存在した時代に、同じ国の住民であることを示すために一部の読む権利を持つものしか使えないようにした言葉らしい。


魔術書には権利を与える魔法も書かれており、

案内本ガイドブックと書かれた本にはこの魔法を応用して、最初にこの本を開いた人に自動的にその権利が与えられるようになっていたようだ。


「つまりシーマがその権利を与える魔法とやらを使えば俺たちでも読めるようになるってことか」


「でも俺魔法使えないよ…」


「それは大丈夫。古代語自体に魔力があるから読める人なら誰でも使えるよ」


そんなわけで俺は人生で初めて魔法を使うことになった。


『我は汝を友と認める』


といいながらカインとレイナの手を握ると、

部屋の中が光で満たされる…事はなく、何も起こらなかった。


「何も起こらないけどこれでいいのか?」


カインも不審そうに聞いてきた。


「実際に読んでみれば分かるよ」


と言ってレイナは案内本ガイドブックを開いた。


「あっ読めるよ!」


「本当だ!ちゃんと読めるな!」


「よかった。ちゃんと魔法使えたみたいだね」


「でもよくよく考えるとさっきの地味な魔法が人生初の魔法だと思うとかわいそうだな」


「うるさい!」


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