国中の女性から愛されていた王子、既に公爵令嬢との婚約が決まっていた彼はある日身分違いの町娘と恋に落ちる。王子が真実の愛に目覚めたことを知って、公爵令嬢は身を引き、町娘は森の動物たちに助けられて、王宮の舞踏会に参加する。王子はその場で町娘との結婚を発表し、二人は幸せに暮らしましたとさ、めでたしめでたし……。
というのが、本作の世界で伝わっている大人気の御伽話。しかし、この御伽噺に隠された真実を、王子から身を引いた公爵令嬢アリエノールの視点を中心に語られるのだが、まあこの内情が実にドロドロしている!
立場を無視して、身分違いの恋を進めた王子がアレなのは仕方ないとして、彼と結婚することになったソニアがとにかくヤバい。何がヤバいってやってることはかなりの悪女なのに本人に悪いことをしている何一つ自覚がないことである! 全く悪気を持たず自分の本能に忠実に生きる彼女は、ある意味この物語で一番純粋なのだが、その純粋さゆえに周囲の人間を次々に地獄へと落としていく……!
その一方で婚約解消となっても自分に有利に事が運ぶように立ち振る舞い、冷静に新しい結婚相手を探すアリエノールの姿は強くたくましいが、あまりに冷静すぎて少し恐ろしさすら感じてしまう。全く正反対のタイプながら二人の女性の恐ろしさが描かれるお伽噺の裏話だ……!
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎憲)