episode.20:後部座席

 自動車の後部座席に僕は揺られる。

 窓に流れていく景色を見ながら、ぼんやりとしている。


 後部座席は自由だ。

 何もできない。

 車酔いを避けるため、本を読むことも、スマホを弄ることもない。


 後部座席は自由だ。

 ただただ空想に耽ることができる。


 田んぼ道。

 窓の外では見たことのない生き物が火を噴いている。

 三角の頭に、丸の身体。目はない。

 放つ火に熱さはなく、物を燃やす力もない。

 ただただ、稲穂に青い炎を広げていくだけ。


 あたり一帯が青に染まった。

 めらめらと光をまとい、稲穂が揺れる。

 

 僕は後部座席からそれを見ている。

 だけど、手を伸ばすことはできず、過ぎ去っていく。

 後部座席の僕には目的地を決める権限はない。


 後部座席。

 自由で不自由なそこから、僕はそれを見ている。

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