episode.15:水

 川辺。

 僕が意地悪で設置した障害物も難なくすり抜けていく彼は水。


「君はいいなぁ」

「なにがだい?」


 僕の言葉に、彼は問う。僕は答える。


 どこまでも柔軟で、何ともぶつかることがない。

 ただ、穏やかに流れていく。


「本当にそんなものが羨ましいのかい?」


 彼の眉が下がった。

 伸びてくる彼の手が僕の首にかかる。だが、それは真っ二つに割れて襟を濡らしただけ。

 

「僕は一人じゃ何もできない」


 彼は言った。

 たくさん集まれば人に脅威を与えることも、この世で一番固い石を削ることだってできる。


「だけど、僕だけじゃできない」


 彼は僕を見た。


「君はいいなぁ」


 空に向かって呟いた彼。


「君は一人でなんだってできる」


 何が出来るのだろう。


 僕は石を拾い、川に向かって投げた。

 落ちた石が川の流れを変えた。


「いいなぁ」


 もう一度、彼は言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る