episode.9:桜

 緑の芝生、青い空。そして、淡い桃色をまとった女性。

 後ろ姿の彼女は桜。

 

「人間は私を儚いものというけれど」


 彼女はくるりと回り、僕に顔を向ける。


「君たちの方が儚いよ」


 憐憫のこもった目で僕を見つめる。


「君は明日にでも死ぬかもしれない」


 人間は唐突に死ぬものだ。

 理由は様々だろう。事故、病気、自殺。

 

「私はあと何度、君の姿を見ることが出来るだろう」


 僕はその問いに答えられない。だから、代わりに言う。


「だけど、僕は今、ここにいる」

「そうだね」


 彼女は僕の頭をくしゃりと撫でた。


「だからこそ、君たちは儚く美しいんだ」


 強い風が吹く。

 僕の身体がほどけて、空に溶けた。


 僕は彼女を置いて、刹那的な時を終えた。

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