第17話 勘違いが爆発する

「おじさん! 高橋さん! 待ってたよー!」


「野々花ちゃん! 俺のこと最初嫌いって言ってたけど、やっぱり思い直してくれたんだね!」


「高橋さんのそういうところは嫌いかなあ」


「ご、ごめん。ちょっと調子に乗りすぎた。嫌われてても、ダンジョンで見返すからさ! 見ててよね、俺の力!」


 そんな会話を聞きながら二人に近づくと、野々花がぱあっと顔を明るくさせて俺に近づいてくる。


「おじさん! 来てくれたんだね、信じてたよ」


「そりゃ、の……天城さんの誘いなら断れないだろ。今日コラボ配信なんだからさ」


「は? コラボ配信? あんた配信やってたのか?」


「あ、うん。一応、十五万人のチャンネル登録者ができたよ」


「はあ!? 嘘だろ!? チャンネル名は!?」


「自殺チャンネル」


 酔った勢いでつけた名前だけど、恥ずかしいな。このコラボ配信が終わったら変えなくちゃ。


「……マジかよ……」


「ガチもガチ、おじさんは有名配信者なんだから! ね、おじさん!」


「いや、そこまででは……でも、十万人いくの大変だろうから。変に謙遜してもね」


「俺のチャンネルだって七千人くらいなのに……。何かの間違いだ! お前、チャンネル買ったんだろ!」


 俺は若干イラっとしたが、まあそう思われても仕方ないのか。つい一昨日まで何のとりえもなかった底辺窓際族のおっさんがいきなりチャンネル登録十五万人とか言われたら俺でも疑うし。


「高橋さん、おじさんに奢らせたんでしょ? そんなお金ないことくらいわからないかな?」


「なっ、なんでそのことを野々花ちゃんが知って……」


「あんまり財閥の力を舐めないことだよ、高橋さん。野々花、高橋さんのことならなーんでも知ってるんだから」


「野々花ちゃんに……俺のすべてを……? やっぱり運命だよ野々花ちゃん! 結婚しようよ!」


 だからどうしてそうなる。さっき野々花が嫌がってたのを聞いてなかったのか? 野々花の額に青筋が一本入ったが、笑顔は崩さない。


「野々花さっきも言ったと思うけど、そういうのは嫌いなの。だから、ごめんなさい」


「野々花たんに振られた……この俺が!? おいおっさん、お前のせいだぞ」


「えぇ……。それは自業自得だろ」


 なんでもかんでも俺のせいにすればいいと思っているらしい。まあ、会社ではそれで通用するからな。でも、野々花はそんな会社の事情など知らないただの高校生だ。


「そのおじさんのせいにするのをやめたら、ちょっとは好きになれそうなんだけどなー」


「なに!? わかったよ野々花たん! こいつのことは空気でいこう!」


 ああ、また野々花の逆鱗をめくれる勢いで逆なでしてる。まあ俺は高橋の視界から消えられるならなんでもいいけど。かといって野々花がブチギレそうなのも放っておけないし……。


「二人とも、そろそろダンジョン入ろう。あんまり遅くなるといけないから」


「そうだね、おじさん」


「野々花たんにいいところ見せて惚れさせちゃうからね~!」


 高橋、お前はもう口をつぐめ。


 野々花の高級配信機材と俺のスマホで配信を始める。今回は野々花も配信してるから俺の同接は五百人ほど。こっそり野々花の配信を覗いたら四十万人という格の違いを見せられる。


 俺もいつかはこんなに集客できるようになって生計を立てられるようになるんだ。高橋には悪いけど、今回だって本気だ。


 高橋も配信を始めたらしく、リスナーとやりとりしている。その中でも、野々花の声はよく通った。


「そう! 今回は例のおじさんとコラボ企画です! 本気なのかって? そんなわけないじゃん。愛してるのはリスナーのみんなだよ」


 リップサービスも上手だ。あんな見た目で愛してるなんて言われたら、俺だってちょっとどきっとしてしまう。


《おっさん、今回のダンジョンはどこ?》


 そんなコメント通知がきてやっと自分も配信をしていたことを思い出す。慌てて自分の配信管理画面に戻ってコメントを返す。


「ご、ごめんなさい。ちょっとよそ見してて……。今回は新緑の森林っていうらしいです」


《新緑の森林かあ。あそこ簡単って言われてるわりには攻略者が出ないんだよね。まあ、おっさんが解明してくれることを願ってるよ。今回は野々花ちゃんもいるみたいだから》


 初めて野々花【たん】呼びでない人を発見した。ということは、純粋に俺目的のリスナー? 嬉しすぎる!


「はい! 頑張ります!」


《昨日のダンジョン攻略は痺れたよー。やっと本物が出てきたって感じでさ。その調子でこれからも頼むよ》


「ありがたいです! 精一杯頑張って、みなさんが楽しんでもらえるようにします!」


《無理しすぎないようにねー。野々花ちゃんも十分強いから頼れるときは頼るんだよ》


 なんて優しいリスナーなんだろう。俺目的というだけでも感激なのに、俺の身の安全も心配してくれる。こういう人を大事にしていかなきゃ。


「おじさーん! 準備できたー!? 入るよー!」


「あっ、うん! 今の聞こえましたよね? 天城野々花さんです。大人気ライバーさんとご一緒できるということですごく緊張してますが、いってきます!」


 俺は片手で頬をぺちぺち叩いて気合を入れる。野々花と高橋を守りつつ、どんなダンジョンかわからないが攻略しないと。


 そうして俺たち三人は、それぞれの思惑を胸にダンジョン内に入っていった。

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