第6話 神憑き
「そんなことって、ある?」
「俺にはわかんねーよ。見たことも聞いたこともない」
「もし本当に実在するなら、神、ということになりますね。そして貴方は、都市伝説にある神憑き、ということになります」
やっぱりか……。あの人は神様だった。でも、なんで俺を? 助けても見返りが薄そうな一般人に賭けたんだ? というか神憑きなんて言葉初めて聞いたぞ。そんな都市伝説があるのも初めてだ。
考えるとこんがらがってくる。この際何も考えないほうがいいのかもしれない。俺はダンジョンでの力を授かった。これを機にライバーとして兼業をするのもいいかもしれない。
会社を辞めるか辞めないかは後回しにして、俺は野々花に疑問をぶつけた。
「なあ、野々花」
「んー?」
「俺のチャンネルがゼロから十万人になったこと、お前が関係あるんじゃないか? 俺だけの力でここまでのし上がれるとは思えないし、アーカイブのコメントもお前一色だぞ」
「ああ、それかあ。野々花ね、自分で言うのはなんだけど人気ライバーなわけ。登録者は……もうすぐ一千万かな」
「いっせ……!?」
俺の百倍じゃないか! そんな化け物を助けて、それで一部が流れてきたのか。これはアンチの言動にも気を付けないといけないな。
「ちなみに玲奈は二百五十万だよ。アキラは百万。まあ男性ライバーの宿命だよねー」
「うるせー! 俺は絶対に日本一の男性ライバーになってみせるんだよ!」
「目標が小さいのが伸びない証拠だよ」
アキラはぐぬぬ、と歯ぎしりをして野々花を睨む。野々花は笑うと、俺を見た。
「疑問は解消した?」
「ああ、チャンネル登録人数については。あとは、これから俺がどうするかだな」
「会社? やめちゃいなよ。養うよ? 野々花が」
「いや、さすがに年下に養われるというのは男のメンツが許さないからやめてくれ。そうだな……。生計が立てられるようになるまで配信をして、あとは会社は続けるよ」
「あのクソナンパ男がいるところに?」
それを言われると弱いのだが、今の俺でダンジョン探索者をやって食っていけるかわからない状態で会社を辞めるというのはリスキーだ。なら、二足の草鞋を履けばいい。
野々花たちのところに行く前に就業規則を確認したら配信に限っては副業に値しないと書かれていたので、大手を振って配信できるというわけだ。
だが、金銭がそこに大量に発生すればその限りではない。いずれ会社を辞めるときが来る。それまでに新井田課長や高橋、お茶くみの事務を見返してやらなければ。そう思うと、しぼんでいた心が膨らみ始めた気がする。
そのためには野々花のリスナーでも足がかりにしてのし上がって、会社の中でも認知される存在になってから辞めてやる。それが、俺にできる復讐だった。
「ああ。このまま舐められたままじゃ終われない。それに……」
確か課長もちょっと前に噂でライバーをしていると聞いたことがある。どこかで鉢合わせるだろう。そのときにちょっと力を見せてビビらせるというのも面白いかもしれない。
課長がどれくらい強いのかわからないが、それで生計を立てていないということはそこそこかそれ以下ということになるからだ。
「恩返ししたい人もいるしな」
「本当にそう思ってるー?」
「思ってるよ。返しきれない借りがあるんだ。全部返してあげないと不平等だろう?」
「あはは、おっさん面白いこと考えるね。社会的に抹殺されるとか考えないの?」
「もう窓際族で社会的に抹殺されているようなものだからね。捨てるものが何もないってある意味無敵だろう?」
「無敵の人とか草なんだけど。俺も無敵になりてー」
アキラとそんな雑談をしているうちに、頼んでいたチーズたっぷりの魚介ピザが届いた。いいものを使ってるんだろう。薫り高い小麦の匂いにチーズの濃厚な匂いが合わさって食欲をそそる。
「いただきます」
「はーい、熱いうちに食べてね」
一口食べると、そこは天国だった。トリュフとかいうのも初めて食べたが、嫌な味じゃない。ここ最近まともなものを食べていなかったからがっついていると、三人が微笑む。
「お腹空いてたんだね」
「ここのピザはうまいからな。たらふく食いなよ」
「おいしい……」
「おじ様、チーズの油が口についていますよ」
鈴村さんがナプキンを持って口を拭いてくれる。野々花は顔を真っ赤にして反応した。
「なっ……! ハレンチ! ハレンチだよ玲奈!」
「これぐらいなら普通では?」
俺もそう思う。もうちょっと綺麗に食えよ、って話なんだけどな。
それでも野々花はお嬢様育ちでそういうのに免疫がないのか、顔を真っ赤にしたまま手をばたばたさせて否定する。
「ちっ、違うよ! おじさんは純粋無垢なの! そういうハレンチなことしたら恥ずかしがっちゃうの!」
「別にハレンチではないかな……。行儀が悪いのは認めるけど」
野々花の口から魂が抜けて行ったような錯覚を覚える。それを見たアキラがスマホを取り出して連射で野々花を撮りまくる。
「野々花の呆け顔マジおもしれー」
「なっ、撮るな! データ全部消して!」
二人がぎゃーぎゃーしている間に、俺はピザを平らげた。うまいピザだった。もう二度と食えないと思うと物寂しいが、おかわりを要求するほどの関係性ではないと俺は判断して我慢する。
「ああ、鈴村さん、俺のことはいいから。アキラと野々花の仲裁に行ってくれると嬉しいな」
「わかりました。二人とも、いい加減やめなさい」
鈴村さんは今にも取っ組み合いになりそうな二人を止めに入った。
俺に力を授けてくれた神様の存在。そんな存在に選ばれた俺。謎は深まるばかりだ。
でも、これであの窓際族の生活から脱却できるかもしれない。俺の直感はまだあてにならない。でも、やらなければ。登録者数をもっと自分の力で増やし、会社のカーストを上げる。それが第一目標だ。
「あ、そういえば」
「え?」
「スマホ壊れそうなんだった」
「もっと早く言ってよ! スマホなら買ってあげるから!」
「いやいや、そういうわけには……」
「野々花は助けられた、逸見おじさんは助けてくれた。それでスマホくらいなんて安いと思わない? 死んじゃったらお金なんていくらあっても意味ないんだよ!?」
それはそうだ。昨日奢って金も正直底をついているし、ここは野々花の言葉に甘えるとしよう。
少しお互いのことを話して連絡先を交換し合ってから、野々花が運転手の牧野さんに言って一緒に車に乗り、スマホを買ってもらった。さすがに恥ずかしいので同行はしないでもらったが。
その後俺の住んでいるアパート近くに到着し、野々花は帰っていった。
明日の帰り、ちらりと見た警察が警備しているダンジョンに入れないか試してみよう。入れなかったら別のダンジョンを探せばいい。
能力に目覚めたからか、ダンジョンをカモフラージュする結界の存在も感じ取れるようになっていた。本当に探索者として覚醒したんだな、俺。
今日は夜遅くまで話して疲れたし、明日の準備もある。さっさと風呂に入って寝よう。
ダンジョン初攻略は成功するのか。それこそ、神のみぞ知ることだ。
もし応援してくださる方は、☆や♡、フォローをお願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます