第150話 ついに明かされる、夏の大会内容

6/30 日曜日 09:00


桂馬けいま君、退院おめでとう!」

日和ひよりさん……なんか、いろいろとありがとうね」

「いいよぉ、それにノノンちゃんも、お帰り」

「日和、ただいま! ……ただいま? まだ、病院だよ?」

「にへへ、いいの、お帰りであってるから」


 日和さんはノノンに抱き着くと「あー、落ち着くぅ」とノノンに甘えた。


 日和さんは、ノノンが消えたことを知っていた。

 あの日、ノノンは本当に消えてしまっていて。

 慌てるルルカに、日和さんは協力してくれてたんだ。


「本当は古都ことちゃんも一緒に来たかったんだけどさ、説明したら長くなりそうだし、桂馬君の負担にもなりそうだったから……実は、まだ何も教えてないんだ」

「そうなの? なんか、後でこってり絞られそうだね」

「あはは、多分。でも、その時は三人……ううん、四人一緒に絞られようね」


 苦笑しながらも、その笑みには良かったって思いが溢れてるんだ。

 ルルカはあの日以降、ノノンが寝ている時にしか現れなくなった。

 自分が表に出ているのが原因なのではないか? そう考えると怖くて出れないらしい。


 ルルカとしてもノノンのことが大好きらしく、失いたくないと言ってくれた。

 それが聞けただけでも安心する。

 二人で一緒になって、ノノンを全力で支えてあげるんだ。


「お、時間通りだな、さすが黒崎くろさき

神崎かんざき君、それに諸星もろぼしさんも」

「退院おめでとう、これ、お見舞いの品だったんだけどね」


 メロンとかイチゴとかが入った籠をもって微笑む。

 諸星さん、もはや以前の貫禄は完全に消えてなくなっちゃったな。

 もとより高身長だったんだ、痩せたことにより、もうモデルさんにしか見えない。

 

「ちなみに、彼女も来てるぜ」

「彼女って……あ、九条くじょうさん」


 病院を出たところに制服姿の女子高生が一人。

 腕を組み足を開いている辺り、仁王立ちしているようにしか見えない。


「九条さん、この度は助けて頂き、本当にありがとうございました」


 九条鞘華さやか、東京の観察官。


 長い黒髪を飾りの付いたかんざしでまとめ、耳には鈴付きのピアス、鋭い切れ目をした彼女は、腕組みしたまま無言で僕を睨んでいる。茶色いリボンに薄手のスクールワイシャツにチェックのスカート、確かこれ、都内のお嬢様学校の制服だ。

 

 頭を下げしばらくすると、リン……と鈴の音が聞こえてきた。

 

「なに、そう頭を下げずとも良い。我も真剣での実戦を経験出来た。この世の中、人を斬る機会なぞそうそう無いからの。こちらからも礼を言わさせて頂く。人斬りの場を設けて頂き、誠に感謝じゃ」


 そんなつもりは無かったのですが。

 そういえば九条さん、刀で人を斬ってたよな。

 あれって事件にはならないのか? と思い聞いてみると。


「む? 我はか弱い女子高生じゃぞ? 女子おなごが屈強な男子に襲われたんじゃ、どんな獲物を用いたとしても正当防衛じゃよ」


 かっかっかっか、と口に手を当てて軽快に笑う。

 刀で斬るのも正当防衛なのか、初めて知ったよ。


 彼女が笑うと、リン……と、耳に付けた鈴が風に揺れて音色を奏でる。

 それを聞いたノノンが興味津々に九条さんに近づくんだ。


「……可愛い」

「……む?」

「これ、ピアス、ですか?」

「うむ、そちにもくれてやろうかや?」

「え、本当、ですか! 嬉しい、です!」

「耳穴はあるようじゃからの、付けても問題あるまい」


 ノノン、九条さんからの鈴付きピアスを貰ってニッコニコだ。

 耳に付けてリンリン鳴らしている。 

 これで猫耳付けたら完全に猫だな。

 後でチョーカーとセットで買おう、何となくそう思った。


「お、皆さんお揃いで」

藍原あいはらさん、暑いのにありがとうございます」


 赤髪のショートカット、僕とノノンの新しい担当の藍原のぞむさん。

 観察課員らしく、ワイシャツにタイトスカートで、水城さんを彷彿とさせる。

 嬉しいな、退院ってだけで一体何人が来てくれるんだろう。


「うん、黒崎観察官の言う通り、暑いからお店の中に移動しようか」

「お、観察課員殿から言ってきたということは、奢りですか?」

「君は神崎観察官だったか。バカをいうな、新任なんだ、懐事情ぐらい察しろ」


 観察官の時のお給料とか結構あると思うけど。

 ま、それを言ったら僕たちの方もか。


 藍原さんの案内で涼しいお店へと移動したのだけど。

 一人、なんか付いてくるワイシャツ姿の薄気味悪いのがいるな。


 黒くて長い髪を下ろし、四角い眼鏡をかけている。

 猫背で姿勢がSの字みたいに歪んでいて、あからさまに不審者だ。


「あの」

「……?」

「貴方、なんで付いてくるんですか」

「……」


 無言か、なんか、薄気味悪い感じがする。

 身体はボロボロだけど、ノノンを守る為なら何でもしてやるさ。


「これから僕たちは大事な話があるんです、聞かれたら困る内容だってある。ナンパが目的なら他所にいってもらえませんか?」

「黒崎の」

「九条さん大丈夫ですよ、僕に任せて下さい」

「いな、それ、ウチの下僕じゃ」


 ウチの下僕。

 下僕? 下僕って、なに?


「ほれ、挨拶せんか」

「……すんません。俺、恋継こいつぐ蓮司れんじ……です」

 

 なんだ、物凄いか細い声で……って、え? あの暴走族の? 

 ひゃっはー! な感じじゃなかったけ?

 

「かっかっか、あまり我の下僕をいじめてくれるな黒崎の」

「いや、えと……え? 多重人格者、とかですか?」

「いんや、元からコヤツはこの有様じゃ、仲間の前だと張り切ってしまってのぉ」


 すいませんって消えそうな声で語る。

 嘘だろ、そんなの分かる訳ないじゃん。

 普段これで仲間前に出たらひゃっはーじゃ、確かに制御が難しい。


 あ、でも確かに、腕の筋肉スゴ。

 これは間違いなく恋継君だ。


§


「さてさて、私がこの場に来たのにはお見舞いの他にもう一件用事があってだね」


 ファミレスに入り、皆の飲み物がテーブルに並んだ辺りで藍原さんが切り出した。


「七月十五日からの一週間、君たちは南国の島に行くことが決定となった」

「七月十五日って、まだ学校がありますよね?」

「ああ、君たち保護観察官は学業よりも、青少女保護を優先させる義務が生じている。言い換えれば学校よりも我々が開催するイベントの方が優先されるのさ。そして七月十五日からの一週間は、かねてより計画されていた夏の一大イベントに強制的に参加となる訳だが」


 ついにその時が来たのか。

 渡部さんや水城さんが来れないって言ってたのって、これが絡んでるのかも。


「ちなみに、種目は?」


 誰もが気になるところだ。

 実力が必要であり、運も絡んでくる。

 それでいて誰でも優勝者になれるという競技。


 皆の注目が集まると、藍原さんはご満悦そうに表情を歪めた。

 そして、皆の顔を一通り眺めたあと、彼女は競技名を明らかにする。


「観察官と選定者の諸君には、殺し合いをしてもらう事となった」

「え?」

「ふふふっ、分かるだろ? バトルロワイアルだよ」


§


次話『執筆中』

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