第143話 私刑③ ※ルルカ視点

「ふぅん、変なの。素直に観客席にいればいいのに……隆二? どしたの?」

「まゆら、そろそろ空港に行かないと」

「マジ? そっか……じゃあ、時間惜しいから、始めちゃうね」

 

 周辺にいた男たちが服を脱いで全裸になっていく。

 本当なんだ、本当にあの日の夜を繰り返そうとしているんだ。

 逃げたくても、どうにもならなかったあの地獄を。


「じゃあ、バイバイ、あーし等も逃げないとだからさ」

「待って! 待ってまゆら!」

「……なに?」

「日和は、日和だけは襲わないで欲しい! この子は無関係だ、そうでしょ!?」


 この子はアタシが心配で付いてきただけ。

 そんな子を、こんなものに巻き込ませる訳にはいかない。


「……それもそだね、隆二」

「ああ、分かった」


 まゆらの彼氏が日和に近づくと、強引に彼女を担ぎ上げた。 

 

「ちょ、ちょっと! 触らないでよ! ルルカちゃん一人じゃ無理だって!」

「ルルカ? 誰よそれ。隆二、早く行こ」

「ルルカちゃん! ルルカちゃん!」

 

 日和ったら、最後までアタシの名前を呼んじゃってさ。

 どこかに出口があるのかな? ここから出るって事はそういう意味なんだろうけど。


 三人の姿が見えなくなると、服を脱いだ男たちがにじり寄ってくるんだ。

 年齢層はバラバラ、多分ネットか何かで集められた闇バイトって奴等だろう。

 匿名性が故に、罪の意識はない。

 何をしても許されると考えてる、最悪の集団だ。


「じゃあ、そろそろ始めるぜ」

「お前さんは予定にはなかったが、志願したんだ、恨むなよ」


 裸の男か。

 こういうの、いつぶりかな。

 でも、あの時もそう。


「んがっ!」

「コイツ、玉を潰しやがった!」

 

 アタシは最後まで抵抗したんだ。

 何人襲い掛かってきても、限界まで抵抗してさ。


 走って、逃げて、追いかけられて。

 でも、どこにも逃げ場なんて無くてさ。

 

「おい捕まえろ!」

「所詮は女だ、全員で抑え込め!」

 

 人数多すぎなんだよ、両手両足抑えるとか。

 痛いし、重いし、臭いし、気持ち悪いし。

 

「おい、どうせ縛られてんだ! そっちはいい、コイツ先に仕込むぞ!」

「へっへへ、人妻もいいけど、女子高生も悪くねぇなぁ!」


 ああ、また負ける。

 また知らない男に抱かれるんだ。


「さてさて、女子高生の生おっぱい、お披露目といきますか!」

「面倒くせぇからボタンなんか強引にとっちまえよ!」


 逃げられないのかな。 

 運命なのかな、アタシが死ぬまで、こういうのが続くのかな。


 着ていた服も脱がされて、下着も全部脱がされてさ。

 痛いんだよ、ブラのホックが壊れてるじゃん。

 女の子なんだから、もうちょっと優しくするとかねぇのかよ。


「おい、コイツの身体」

「全身傷だらけじゃねぇか……んだよ、そっちの人妻よりも緩いかもな」


 アタシの裸を見て、文句言ってんじゃねぇよ。

 お前らみたいな奴がつけた傷だよ。

 傷つきたくて傷ついた訳じゃねぇよ。


「とりあえず、俺から行くぜ」

「……いや、いやだ」

「なんだ? ここに来てようやく女らしいこと言いやがったな」

「やめて、お願いだから、やめて」


 こんな身体でも、桂馬は綺麗だって言ってくれたんだ。

 桂馬だけは、どんな仕草をしても可愛いって言ってくれるんだよ。


「やめねぇよ、むしろ興奮してくるわ」

「避妊もいらねぇって話だからな」 


 やだな、どこかに隠れてたいよ。

 怖くない、痛くない場所に。


「桂馬……助けてよ、桂馬」

「なんだぁ? 彼氏の名前か?」

「へへ、すっげ興奮してくる」


 なんで、こんな。

 

 辛いのは、もう、嫌だよ。


 やだよ……。


 桂馬の側に行きたい。

 

 こんなのばっかり、嫌だよ。



(……うん、そうだよ、ね)



「……?」



(ルルカは、怖がりだから、隠れてた方が、いいよね)



 ノノン? なんで、今になって。


 ぐんって、アタシが体の中に消える。

 視界が俯瞰になって、身体の感覚が消えるんだ。



「……ん、あはは、男の人、たくさん、だね」



 この感じ。

 

 子供の頃も、こんな感じだった。


「なんだぁ? コイツ、抵抗しなくなったぞ?」

「ははっ、妙に素直になりやがって」


 襲われて、どうにもならなくなって。


 怖くて、逃げたくて、隠れる場所を探してて。 


 それで、アタシは自分の中に殻を作って、そこに逃げ込んだんだ。

 


「……うん、ノノンは、ずっと素直、だよ?」 



 身体を、ノノンというもう一人の自分に託して。


 ……本体は、アタシだったんだ。


 痛いのとか、怖いのは、全部ノノンが引き受けててくれてたんだ。


「なんだよ、もっと早くに素直になれば、痛い思いしないで済んだのにな」

「ずっと、素直だった、よ?」

「……? 何を言ってるか分からねぇが、まぁ、頂くとするか」


 服を脱がされる感覚、強引に顔を掴まれて、髪を引っ張られて。

 開きたくもない足を無理に、こういうのは、全部ノノンが引き受けてくれるんだ。


 アタシは、俯瞰な映像で見てるだけ。 

 他人が酷い目にあう、映画を見てるみたいに。


 でも、それじゃダメだ。

 また同じことの繰り返しになっちまう。

 ノノンが犯されて、アタシが忘れるくらい奥深くまで逃げるのとか。


「相手が、けーまだったら、良かったのに、なぁ……」


 ごめん、ごめんノノン。

 アタシが全部間違えてたから。

 アンタにとんでもない事を、全部任せちゃったから。


 助けて。


 お願いだから助けて。


 もう嫌だよ。



(……え、ルルカ? 出ちゃったら、ダメ、だよ)



「こういうのは、もう嫌なんだ!!」



(そっか……)



「お願いだから!」



(ルルカにとって、ノノンはもう……)



「助けてよ、桂馬ぁ!!!」






――






「まったく、探したよ」



(……けーま)



「何があったのかは知らないけど、この場にいる全員、許さないから」


§


次話『私刑④』

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