第144話 私刑④

6/22 18:30


『珍しいな黒崎くろさき、どした、急に連絡して?』

「ああ、ちょっと智文ともふみ君に聞きたいことがあってね」

『聞きたいこと?』

「うん、あの花見の日にいた女の子、誰か一人でも連絡先知らないかな?」


 花見の時、まゆらさんと一緒にいた女の子たちも、全員原付バイクに乗ってたんだ。


 会話の流れからして親友、初めての経験を暴露しても怒らなかったんだから、恐らくまゆらさんがリーダー的存在だろう。


『今送った番号が篠崎しのざき萌美もえみ秋風あきかぜ野乃花ののかだけど、もう一人の花園はなぞの花梨かりんって子は分からねぇな』

「ありがとう、助かったよ」

『なんだ、また何か集まるのか? 今度こそ成功させっから、俺も混ぜてくれよ』

「あはは、そういうのじゃないから。またね、番号ありがとう」


 さすがは女の子目当てで花見を開催した智文君だ。 

 じゃあ早速、まずは篠崎さんから掛けてみるか。


『……はい、ってか誰?』

「ああ、急にゴメン、四月に一緒に花見した黒崎なんだけど」

『黒崎? ああ、どうしたの?』

「ちょっと聞きたい事があってね。篠崎さん、レナトゥスってチーム名、聞いたことある?」

『……あるけど、なに?』

「じゃあ、篠崎さんもチームのメンバーってこと?」

『そうだよ。まゆらと一緒にいろいろしてたけど。何なの? 要件早く言ってよ』


 電話の感じ的に、いろいろと知らないっぽいな。

 なら、現状を伝えた方が、協力的になってくれるかも。


「実はね、まゆらさんと彼氏のおか隆二りゅうじって人に、逮捕状が出てるらしいんだ」

『……は? マジで言ってるそれ?』

「うん、マジ。それに、その二人にノノンが誘拐されたっぽいんだ。ノノンだけじゃない、僕の高校の友達も一人巻き込まれててね、今すぐ助けに行かないといけないんだけど。篠崎さん」

『……なに?』

「レナトゥスのたまり場とか、今回の誘拐事件に関わってそうな情報、何か持ってない?」

『……』

「篠崎さん、僕が青少女保護観察官ってこと、理解してるよね? 僕が所属しているのは法務省だ。警察庁とも密接な関係にある。つまり僕の協力要請に応じない場合、それだけで罪になる可能性が高い。具体的には犯人蔵匿ぞうとく隠避いんぴ罪っていうんだけど」

『分かった! 全部話するから! ただ、私から聞いたって言うなよ!?』

「大丈夫、そこの所は安心して」


 まぁ、罪にならないけどね。

 僕にそんな権限ないし。


『レナトゥスのたまり場は、東京の港湾にあるコンテナ倉庫のひとつ……なんだけど、最近そこのたまり場は使用禁止になってるんだ。理由は分からない、まゆらが禁止って言ったから、みんなそれに従ってただけで』

「そっか、ありがとう」

『……なぁ、黒崎、私たちはレナトゥスでも末端なんだ。今回まゆら達が逮捕されるって話だけど、私たちは逮捕されないようにしてくれないかな? 出来たら、私と花梨と野乃花、この三人だけは黒崎の権限で守るとか、そういうのって出来たりしないのかな……?』 

 

 逮捕……されないんじゃないかな?

 まゆらさんが逮捕されるのって明崎さんの逮捕・監禁罪だし。

 でもま、その方が後腐れなくて楽かも。


「うん、分かった、配慮するよう伝えておくよ」

『本当か!? ありがとう、黒崎って良い奴だったんだな! 今度三人でお礼しに行くから、楽しみに待っててくれな!』

「あ、いいです、来なくて大丈夫です」

『遠慮するな! こう見えてアタシ等結構上手だからさ! じゃあ頑張ってな! 愛してるぜ!』


 え、愛されても困るんだけど。

 どうしようか……まぁ、その問題は後にしよう。


 渡部さんも恐らく、その港湾ってとこに向かってるんだろうな。

 マンションで待ってるよう言われた身としては、渡部さんに頼る訳にはいかない。


 近くで動ける足を持っている大人。

 誰かいないか、誰か……。


 ……あ、そうだ。


『ああ、黒崎君、日和ひより、どうだったかな?』

まことさん、折り入ってご相談があるのですが」



§



「まさか、日和と火野上さんが誘拐されるなんて」


 日和さんのお父さん、誠さんに相談したら一発で車を出してくれた。 

 法定速度ちょい乗せで突っ走ってくれる、これなら目的地に一番乗り出来るかも。 


「誘拐という言葉を使いましたが、犯人の目的は身代金ではありません。ノノンの過去、関わった人への私刑になります。日和さんは恐らく巻き込まれてしまっただけ、危害が加えられる心配はないと思います」


 ただ、日和さんも正義感の強い人だ。

 私刑なんて許せないって、反抗してる可能性は大いにある。


「日和だけが無事じゃダメなんだ」

「……」

「火野上さんも、もうウチのスタッフなんだ。私から見たら守るべき従業員なんだよ。それに、娘の友達でもある。そんな彼女を見捨てるなんて、私には出来ない」


 なんだか、誠さんの言葉が、とても温かくて。


「……ありがとう、ございます」


 感謝の言葉が、素直に出てくる。

 こんなご両親の側にいられることが出来るのなら、きっとノノンも幸せだったろうな。


「高速だ、飛ばすよ」

「はい、宜しくお願いします」


 流星のように、窓の外が綺麗な光となって流れていく。

 ナビにセットした目的地まであと少し。

 細かな場所は篠崎さんに送って貰ったから、迷うこともない。


§


次話『私刑⑤』

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