第141話 私刑① ※ルルカ視点

「おーい、ノノンちゃん、ひよりーん、起きてー」


 ……眠い、なんだか、頭にもやが掛かった感じがする。

 

隆二りゅうじ、二人起きないんだけど」

「声を掛ければ、いずれ起きる」

「本当にー? おーい、ノノンちゃーん! 起きろー!」


 ああんもう、ウルサイなぁ。

 耳元でキンキン叫ばないで欲しい。 

 大体今日はアタシじゃなくて本体ノノンの日だろ……って、そうだ、ノノン。


「……うっ」

「あ、起きた。おはよノノンちゃん」

「……」

「ヤババ、なんか寝起きで不機嫌な感じ? ごめんね、薬で寝かせたりしちゃって」


 ……ノノン、やっぱりいない。

 くそ、こんな奴等に構ってる場合じゃないのに。


「あ、でもでも、安心してね。二人には指一本触れてないから」


 というか、ここどこだよ。

 車の中? あれか、アタシが乗り込んだ車か。

 外はやたら暗いし、もしかして夜か?


「……っ、あいたた」

「ひよりんもおっはー!」

「おっはー……って、そんなテンションじゃないから。なに、どしたの? 今どんな状況?」


 アタシと一緒に寝かされてた日和も身体を起こすと、きょろきょろと周囲を確認してる。 

 

「え、夜?」

「そ、二人とも爆睡だったよ」

「え、マズイじゃん、親に連絡しないと……あれ? スマホ、ない」

「あははー、ごめん、今ちょっち回収させて貰ってる」

「回収って」

「大丈夫だよ、用事が終わったらちゃんと返すから。電源が入ってると追跡とかされちゃうじゃん? ノノンちゃんはそういう系、持ってないっぽいけどさ」


 追跡? さっきからこの女は何を言っているの? 

 ……それよりも頭が痛い。薬で眠らすとか、ちょっと普通じゃないよ。


「アタシ、早く桂馬に会わないといけないのに」

「ごめんね、すぐ済むからさ。実はね、あーし等、ノノンちゃんについて調べたんだ」

「……調べたって、何を」


 まゆらは「にひひ」って、口に手を当てながら、怪しい笑みを作る。

 狭い車内だ、すぐ手が届く位置にまゆらはいるけど。

 手を出さない方が良さそ、運転席にいる彼氏さんが凄い睨みかしてる。

 そうじゃなくたって日和もいるんだ、暴れるのは得策じゃない。


「ノノンちゃん、選定者になる前に、百人以上の男に襲われてるよね?」

「……」

「一生懸命追跡したんだけどさ、全部は追跡しきれなかったよ。特に最初の男が見つけられなかったのは残念だったなぁ。ノノンちゃんが十歳の時でしょ? 情報が全然なくて、ノノンちゃんに聞いても良かったんだけどさ、それだとサプライズ感なくなっちゃうじゃん?」


 ……何を言ってるんだ、この女は。

 アタシの最初の相手? そんなの分かるはずがない。

 家出して、適当な場所で寝てたら急に襲われたんだから。 


「ノノンちゃん、泣きながら帰ってきたんでしょ? 怖かったよね。股間から血を流しながら歩いてたって。あーしがその時側にいたら、全力で助けてあげたのに。本当に悔しい、女の子の純潔を無理やりに奪った男がその辺にいるかと思うと、男全員殺したくなる。許せないよ」


 まるで自分が被害にあったみたいに喋る。 

 やめてよ、急にハグとかしないで。

 背中を叩かれる義理も何もないんだから。


「でもね、ノノン、あーし見つけたよ」

「見つけたって、誰を」

「ノノンを酷い目に合わせた女」


 まゆらは離れると、車の扉を開けたんだ。

 途端、波の音が聞こえて来て、潮の香りが漂ってくる。

 

「一晩で三十人以上……聞いたよ? ヤメテって叫んでも、一生懸命抵抗しても、何をしても誰も助けてくれなかったって。その女は通行人や浮浪者にも声を掛けて、泣きじゃくるノノンを無理やりに襲わせたんだ。酷いよね、終わった後の写真も見たけど、現場血まみれじゃん。そりゃそうだよ、そんな人数を一気に相手にしたら、擦り切れて割けて流血するに決まってる」


 話を聞きながら、ぐらつく身体を日和が支えてくれた。

 思い出すだけで寒気がする、身体が、震える。


「可哀想なノノン……日和、信じられる? それだけの事をした女なのに、警察はソイツを逮捕してないんだよ? 被害者であるノノンが泣き寝入りしたから。役立たずだよね、心の底からそう思うよ。司法は、あーし達を守らない。あーしも似たような経験したから分かるんだ」


 大丈夫? そんな心配をかけながら、まゆらはアタシと日和の手を取るんだ。

 車から降りて、手を繋いだまま歩く。

 

 港……かな。

 コンテナが沢山積まれてる。

 月が高い位置にある、夜の九時とか、そんな時間帯かな。

 

 車を降りて分かったけど、知らない顔の男たちが沢山いる。

 まゆらの味方なのか、アタシ達には近寄らないみたいだけど。


 しばらくして、大きな倉庫の前で、まゆらは歩みを止めたんだ。

 アタシ達を囲むようにして、男たちも止まる。


「日和、そんな女、許せると思う?」

「……私? ……もし、自分がって考えたら、許せないと思う」

「だしょ? あーしも許せない。ノノンの身体と心をズタボロにして、自分はのうのうと平凡に生きてるなんて、許せないんだよ。知ってる? その女、結婚してたんだよ? 幸せそうな顔してさ、新しい旦那には自分の過去を一切伝えないで、女の幸せを堪能してたんだ。だから、あーしらが天誅を下すんだよ」


 まゆらが指を鳴らすと、倉庫の鉄扉が左右に開いていった。 

 倉庫の扉はとても大きくて、機械の力で自動で開いていく。


「見える? あーしから、ノノンへの特別なプレゼントだよ」


§


次話『私刑②※ルルカ視点』


※続きは今日の午後18時に投稿します。

 

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