第140話 動き始めた大人たち。
6/22 18:00
「え? ノノン、もう帰ったんですか?」
「ああ、調子悪いみたいで、早めに帰らせて欲しいって言っていてね」
ノノンの調子が悪い? 今朝までそんな素振り全然なかったのに。
というか、ノノンを一人で帰らせるとか。
ん? そういえば僕、
……あ、してない。
お店に来た初日の終わり間際、
福助君め……なんて、考えている場合じゃないな。
「すいません、僕、ちょっとノノンを探してきます」
とはいえ、今のノノンが僕から逃げ出すとは到底考えられない。
サプライズで僕を驚かしている可能性もあるけど、彼女は分別の付く子だ。
自分が選定者である以上、一人きりの行動が罰せられると分かっているはずなのに。
「お連れ様ですか? いえ、こちらにはお見えになっておりませんが」
マンションのコンシェルジュさんに聞くも、ノノンを見ていないという。
入れ違いの可能性もない、下層階のショッピングセンターにもいない。
どこを探してもいないなんて、一体どうなってるんだ?
こういう時には、
……ん、着信?
『
「いえ、まだ見つかっていません」
『そうか、実はね、火野上さんとウチの日和が、見慣れない車に乗り込んでるのを見たって言っているお客様がいてね』
「見慣れない車、ですか?」
『ああ、凄いウルサイ車だったからね、私たちも気づいてはいたんだが、まさかそれに乗り込んでいるとは思わなくてね。ただ、乱暴されたとか、そんな雰囲気では無かったらしい。何か会話をして、自分から乗り込んでいたと言っているんだが。黒崎君、心当たり、あったりしないかな?』
凄いウルサイ車といえば、
そうか、ギャルな岡本さんが絡めば、無理なサプライズもあり得るかもしれない。
「一点だけ、心当たりがあります」
『おお、そうか。なら、日和に自宅に連絡するよう伝えてもらえないだろうか? 妻が心配してしまってね』
「わかりました、ご迷惑をお掛けして申し訳ありません」
『いやいや、こちらこそ……では、宜しく頼みます』
なんか、ちょっとだけ安心した。
日和さんと岡本さんが一緒なら、大きな事件にはならないだろう。
ただ、車で移動って……岡本さん、二人をどこに連れまわしてるんだか。
「えっと、確か岡本さんの連絡先はっと……」
……岡本さん、電話に出ないな。
サプライズを意識してるのなら、出るはずもないんだけど。
さてと、どうしようかな。
このままマンションで一人待つ、これが正解なのかもしれないけど。
……ん? 着信、今度は渡部さんから?
「はい、黒崎です」
『ああ、黒崎君か、いま電話大丈夫かな?』
「はい、大丈夫です」
『急に済まない、今、火野上さんは近くにいるかな?』
「あ、えっと、実は今、側にいなくてですね」
『側にいない? 小春さんのご両親のお店〝リビュート〟にまだいる、という事かな?』
「いえ、それがですね――――」
僕は、渡部さんへと現状を伝えたんだ。
岡本さんの性格上、強引なサプライズがありえると付け加えて。
「――という訳でして、恐らく岡本さんの彼氏さん、隆二さんという方と一緒に行動しているのだと思います。丁度これから連絡を取ろうと思っていたのですが」
『……そうか、分かった。黒崎君』
ん? なんだ、声の雰囲気が変わった。
受話器の向こう、渡部さんの周りが慌ただしく動いている感じがするぞ。
『不安にさせるかもしれないが、君は観察官だ、一人の大人として全てを伝える』
「……はい」
『今、君の友人である岡本まゆら、及び恋人関係にある丘隆二に対し、逮捕状が発行された』
「逮捕状ですか!?」
『ああ、逮捕・監禁罪の疑いがあるとのことだ。被害者の名は
……身上書にあった、ノノンが家出をしていた時のグループの件か。
『被害者は現在、一人の主婦として生活しており、過去の付き合いは全て清算している状態にあった。言い換えれば、張本人だが、法的な罰は何ひとつ受けていない状態にある。恐らくだが、岡本さんは明崎さんに対し、火野上さんの為に私刑を行おうとしているのだと考えられる』
「私刑……」
『ああ、調べたところ、彼女の属する〝レナトゥス〟というグループは、火野上さんのような不幸な事件で、泣き寝入りしている女の子たちを救済する活動をしていたらしい。活動範囲は関東一円、基本的に勧善懲悪を行っているせいか、あまり被害届が出されていないんだ』
「でも、そんなの認められるはずがないですよね」
『無論、認められるはずがない。日本は法治国家だ、罪は全て法が裁く。今回被害届を出してきたのは明崎さんの旦那さんなのだが、誘拐から既に三日が経過しているらしい。何でも誘拐の時に明崎さんの過去を聞かされ、黙っていなかったら会社や近隣へと情報をばら撒くと脅されていたみたいでね。ネットと違い顔や住居が割れている分、動けなかったんだとか』
「……分かりました。それで、岡本さんの居場所は?」
『警察もまだつかめていない。自動車ナンバー自動読取装置……通称〝Nシステム〟にも引っかかっていない現状を察するに、普段と違う車で逃走しているのだと考えられる。だが、先の黒崎君の言葉を聞くに、彼等は〝リビュート〟付近にて火野上ノノンさん、及び小春日和さんを乗車させた、とのことだよね?』
「はい、小春さんのご両親からお聞きしましたので、それは間違いなく」
『ならば、付近の監視カメラから車両の特定が可能だ。後は警察が対応する。黒崎君はこのままマンションにて待機、何かあれば我々の方から連絡を入れる。では、私も動かなければいけない、これにて通話を終わらさせてもらうよ』
「あ、あの! ……あ、もう、切れてる」
一方的に切られてしまった。
ノノンの過去の相手、そんなのを前にして、ルルカが黙っていられるのか?
どうにかして居場所を突き止められないものか、何か方法は……。
……あの人に、聞いてみるか。
§
次話『私刑※ルルカ視点』
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