第135話 一緒に遊ぼうぜ。

6/15 土曜日 17:00


 岡本さんからの電話は、久しぶりに遊ぼうぜ、という内容だった。

 彼女の希望は「なるはや」だったけど、ノノンはこれで結構忙しい人だったりする。


 月曜はもう遅かったから無理で、水曜日は日和さんのお手伝い兼カット練習。

 他はルルカの日だからそこもダメ、となると土曜日の午後、もしくは日曜なんだけど。

 なるはやの意思を尊重し、約束は土曜日のお仕事後、ということになった。


 土曜日の午後、花宮の駅にて、僕は彼女と待ち合わせをしたんだけど。

 

 仕事上がりの人混みの中でも、一目で分かる。

 金髪ショートの褐色肌、服装が超ミニスカートにキャミソール一枚とか、露出が凄い。 

 しかもかなり胸が揺れてて、もしかして岡本さんノーブラなんじゃ。


「ういういー、黒崎おひさー。ってかめっちゃ遠いし、ここまで来るのダルー」


 僕を見つけるなり、よろよろと倒れ込んできた。

 迷わずキャッチ、そして揺れる胸。

 ダメだ、視線は目線に合わせとこ。


「岡本さんお住まい藤島ふじしまですもんね」

「うん。電車で四十五分とか、遠すぎっしょ」

「あはは……あれ? 今日はお一人なんですか?」

萌美もえみ花梨かりん野乃花ののかも、花宮まで行けるかって怒っちゃってー。黒崎がハーレム好きって知ってたんだけどさー、ごめんよー」


 いいえ、僕は別にハーレム好きじゃありませんよ?

 純愛が好きです。寝取られは好きじゃありません。


「ほんで、ノノンはー?」

「ノノン、水曜日と土曜日はバイトしてるんですよ」

「バイト? お金困ってるの?」

「いえ、バイトというよりは修行ですね。ノノン、美容師になりたいって、クラスメイトの親御さんが経営しているお店で、週二日だけお手伝いさせて貰ってるんですよ」

「そーなん? ノノンにも夢があるんだね。偉いなぁ、あーしとは大違いだ」


 腕組みしながらうんうんしてる。

 岡本さん、なんだか嬉しそうな顔してるな。

 

「で、まだそのお店で働いてるってこと?」

「はい、六時に終わりますので、ゆっくり歩いていけば丁度だと思います」

「歩くのかぁ……最近バイクばっかりだったから、歩くのつらたん。黒崎ぃ」

「なんですか」

「おんぶ」

「ダメですよ。それに岡本さんミニスカートなんですから、下着見えちゃいますよ?」

「……」


 なんだ? 人差し指上げて、手を左右にふっちゃって。

 

「つまり、あーしの下着が見たいと」

「なんでそうなるんですか」

「ごめんよぉ、黒崎ぃ。あーしのパンティは彼氏専用なんだ」

「見たいなんて言ってません。というか、彼氏いるんですね」


 ぴょこたんと両足揃えてジャンプした後、岡本さんはテクテク歩き始めた。


「いるよー、困ったちゃんなあーしを救ってくれた人」

「……そうなんですか」

「うん。この世で一番しゅきぴ。だから、黒崎は頑張っても……十番目ぐらい?」

「妙に数字が生々しいですね」

「ギャルだから。嘘は嫌いなの」


 その方程式はちょっと理解に苦しみますが。

 でもまぁ、変にからかわれるよりかは良いかも。


「岡本さん」

「なにさ? 九番目にしてほしかった?」

「いえ、ノノンがいるお店、逆方向です」


 何も分からずに歩き始めるとか、ちょっと天然入ってるっぽいね。

 岡本さんの彼氏さんか、どんな人だろ。


§


「わぁ! 待ってて、くれたのー!?」

「うん、待ってたよー。ノノンちゃん会いたくて、何時間も待ってたよー」

「何時間も! ありがとう、まゆらー!」


 何時間も待つ訳がないだろうに。嘘が嫌いのギャルの信条はどうした。

 まゆらさんの手を取ってぴょんぴょん跳ねた後、ぎゅーってハグしてる。

 おお、まゆらさんの顔がノノンの胸に沈んで消えたぞ。


「ああ、あの子が例の?」

日和ひよりさん……はい、彼女が岡本まゆら、僕の地元の友達ですね」


 日和さん、以前と同じ制服の上にエプロンスタイルだ。

 お手伝いしてる時はこの格好なのかも。


「へぇー、桂馬君、地元に女の子の友達とかいたんだ」

「いえ、いませんでした。この前の花見の時に、ノノンを助けてくれまして」

「あはは、うん、まぁ、そんな感じはしてたとこ」


 どんな感じでしょうか。

 うむむ、最近、僕の立ち位置が微妙に分からん。

 

「ほらノノンちゃん、そろそろ離れないと、岡本さん窒息死しちゃうよ」

「あ、そか、いけない。まゆらー、大丈夫?」


 おっぱいで呼吸困難だったまゆらさん。

 酸欠のせいか頭をクラクラさせてたんだけど。

 横に立つ日和さんを見て、一気に覚醒した。


「おお! インナー染めてるん!?」

「お? 気づいた?」

「あーしも金髪に染めてるんだけど、今度インナーをピンクにしたいんだよね!」

「ピンクかぁ、出来なくもないけど、結構時間かかるよ?」

「マジ!? やってくれるん!?」

「あはは、もちろんお金かかるよ」

「あーし髪痛みすぎて、断られるんだよね。まずはリペアしろって言われててさー」 

「リペアしないと切れちゃうからね。どんなもんか触ってもいい?」

「いいよぉ、頼むよぉ」


 ……なんか、井戸端会議が始まった後に、即席美容室が開店しようとしている。 

 ノノンも日和さんも「これは酷い」とか言いながら岡本さんの髪を触ってるし。


「あっそーだ。あーし遊びに来てるんだった。この辺遊べる場所ないん?」

「遊べる場所っていうと、ここら辺の子は大体グランメッセだよね」

「じゃあ今からそこ行こ。アンタ、えーと」

小春こはる日和だよ。私も一緒に行くから、ちょっと待ってて」


 どうやら、日和さんも一緒になって遊ぶらしい。

 ノノンと日和さんと岡本さんか、なんか珍しい組み合わせだこと。


§


次話『桂馬の知らない世界。』

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