第133話 正義執行 ※岡本まゆら視点

 同窓会なんて、もともと参加するつもりなかったんだけどね。

 タダで飲み食い出来るって言うから、暇つぶしに行っただけなんだけど。

 

「青少女保護観察官とか、マジうける」


 黒崎くろさきの顔なんざ覚えてなかったけど、向こうは覚えてたっぽいね。 

 あーしの顔見るなり驚いてくれちゃってさ。

 そりゃそうか、昔のあーしは、何も知らない純粋無垢なおバカちゃんだったからね。


「保護する前にすることあんだろ、バーカ」


 今よりもマジメぶっちゃって、違う意味で馬鹿だったんだ。

 襲われた恐怖は、被害者じゃなきゃ分からないんだよ。

 女は常に強くないと生きていけない、舐められたら負けだ。

 〝手出ししたら殺される〟ぐらいの気概を持ってないと、クソ野郎に犯されるんだ。

 

「あーね、お前もそう思うっしょ?」


 花見の時の写真を見せてやると、ソイツは怯えてやがった。

 大人の男のくせして、縛られてちぢこまってやがんの。


 まだまだあーし等は十六歳、犯行当時は十二歳か? 未成年淫行の罪は果てしなく重いよ?

 火野上ノノン、あの子を抱いた男は数えきれないほどいるんだ。

 それこそ、ちょっとネットに晒せばすぐに分かるレベル。


「まーね、この子抱いたの、お前だけじゃないけどね」


 ソイツ、鼻水垂らして泣きながら「すいません」とか言ってやんの。

 すいませんとか、謝罪すれば全部許されるとでも思ってんの? 脳みそお花畑じゃん。

 とりま、裸で縛られてる姿の写真を撮ってと。


「そんじゃ、罪滅ぼしに警察、行こか」

「それだけは、それだけは勘弁してください」

「……じゃあ、どれだけなら勘弁されないの?」


 ノノンちゃんの敵討ちなんだよ、これは。

 あの子が受けた傷を、あーし等で報いを受けさせるんだ。

 あーしがそれで、救われたように。


「まゆ、三万しか入ってねぇよ」

「いいっしょそれで。……いいよね? 女子中学生といいことしたんだからさ?」

「は、はい……」

「それと、この子を襲った、馬鹿の連絡先とか知らね?」


 そんなにウチ等が怖いのかね。

 自分のスマホの中身曝け出して、全部教えてくるとか。


 怖くないよぉ? ちょーっと怖いお兄さんが彼氏なだけのギャルだし。

 歯向かったら顔が変わる程度には、痛めつけられちゃうかもしれないけどね。

 

「ぼ、僕が分かるのは、これくらいでして……」

「ふぅん……これで全部? 他にもいるんじゃないの?」

「え、えと、確か、当時のグループがあったんですけど、その情報もあります」


 当時のグループ。

 調べたらノノンの奴、あの有名な事件の被害者だったんだよね。

 グループリーダーの彼氏を寝取ったとかで、一晩で何十人って男に抱かれた事件。

 ネットにも晒されてたし、記事にもなってやがった。

 被害者Hさん……まったく、天誅し甲斐のある奴だよ。


「ありがとー、お兄さん意外といい奴じゃん」

「いえ……どんな事でも協力しますので、これ以上は勘弁してください」

「あーしギャルだから。約束は守るよ。家にも会社にも連絡しない」

「あ、ありがとうございますっ!」


 どんな男でも、これだけの人数に囲まれたらどうしようも出来ないよね。

 車とバイクのライトに照らされた男は、鼻血流しながら笑顔で頷いてさ。


 縄をほどいたら、あの男ぺこぺこ頭下げながらいなくなりやがった。

 これで終わった、解放されたって思ってんだろうね。


 ……許すと思った? 許す訳ないじゃん。

 あーし等が受けた傷は、一生消えないんだからさ。

 安心してね。一生消えない傷、お前にも付けてやっから。



§



 甘ったるい白煙と七色の光、それとDJが奏でる爆裂の音響。

 貸し切りにしたスタジオは、あーしの仲間で埋め尽くされる。


「まゆまゆ、あの男の家と会社に、情報全部送り付けといたよ」

「ありがとー、めっちゃ助かる。はいこれお駄賃」

「うは、超儲かるー。良いことしてお金稼ぐのって気持ちいいね」

「だしょー? あーしも、もっと早く動けば良かったって思ってるとこ」


 あーし自身の復讐は終わっちゃってるからね。

 これからは何でも代行の時代っしょ。

 退職代行、復讐代行、恨み代行……正義がこっちにあるんだ、容赦なんていらない。


「まゆら、金の振り込み、確認したぞ」

隆二りゅうじ君、ありがと。思ってた以上に早かったねー」

「金で解決するなら、それで終わりにしたいんだとよ」


 ノノンちゃんを抱いた馬鹿ども、分かってるだけで数十人いたもんね。

 分厚い封筒、大好きになっちゃいそ。

 一番の好きぴは、彼氏の隆二君だけどね。

 元ボクサーの肩書通り、誰も力じゃ勝てなくて、ほんとスコだね。


「普通なら追い込むけど、今回は加害者の数が多いからね」

「それを向こうも分かってるんだろうな」

「ただ、首謀者の女だけは、きっちり追い込むけどね」

「そうだな。結局、女の敵は女、ってことなんだろうな」


 あーし等の目的は金じゃない。

 ただ、目的遂行のためには金がいる。

 何をするにも、金が必要なんだ。


「それじゃ早速、首謀者の明崎あきざきしいって女のとこに……」

「まぁ待てよ、まゆら」


 隆二の固い手が、あーしの股間に伸びる。

 金もある、好きな人もいる、性欲もある。 


「んっ、もう」

「一仕事終えたんだ、ちょっとは休もうぜ」

「……あは、そだね。それじゃあ、このまましちゃおっか」


 今のノノンちゃんと同じ。

 大好きな人に抱かれるのは、心の底から安心するし、落ち着くんだ。

 

 ノノンちゃん、喜ぶかな。

 首謀者の女、今すぐアンタの前に引きずり出してやるからね。


§


次話『罰ゲーム』

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