第132話 三人での取り決め

5/31 金曜日 20:15


「キスの感じが、全然初めてじゃなかった。ノノンが寝てる時、二人で何をしているの?」

「それは……」

「同じ身体だけど、別人だって、けーまは分かってる、でしょ?」

「分かってる、けど」

「浮気じゃないって、本気で思ってるの? ノノンとルルカは別人、だよ?」


 思えば、僕はルルカに対しては本音を語っているけど、ノノンには言ってなかった。

 しかも決まってルルカとの逢引は、ノノンが眠りについたあと。

 ノノンは知らないんだ、僕とルルカが毎晩のようにキスをしているのを。


「……ごめん」

「ごめんって、なに」

「あの……ノノンに言うのは、初めてかもしれないんだけど」


 素直に言うべきだよな。

 ここは何の言い訳もしないのがベストだ。


「僕、ノノンとキスをした日、ルルカともしてるんだ」

「……」

「好きだって、告白も、してる」


 ノノンは僕から離れると、腕組みして椅子にあぐらをかいた。

 片眉を上げて、さもしい奴を見るような目をして、ふんって鼻息荒くする。

 

「でも、一番はノノンだ。ノノンとキスをしたから、ルルカともした。それ以上は何もしてない。ノノンよりも先にしたら、ノノンを裏切ることになるから。一番はノノンだし、一番愛してるのもノノンであって、ルルカは常に二番目というか、なんというか。それに、ノノンとルルカは同じ身体の持ち主なんだから、切っても切れない関係だ。もし僕とルルカが不仲になって、朝目覚めたら違う男と一緒に逃げられたとかなったら洒落にならないし、ノノンと一緒にいる以上、ルルカとも仲良くなった方が良いとか、そんな打算は……別に、ないけど」


 あわあわとしてしまって、自分が何を言っているのか分からなくなる。 


「けーま」

「はい」

「もっと、正直に」


 そんな僕を諭すように、彼女はとても短い言葉で僕をたしなめた。

 正直に言おう、今の僕の心境の全てを。


「ごめんなさい、僕、ルルカのことも、好きです」

「……そうなんだ」

「でも、ノノンのことも好きです。二人とも、好きになりました」


 なかなかに最低な言葉だと思う。

 無言のまま床の上に正座して、自然と土下座をした。 


「お願いします、交際を許して下さい」

「……」

「僕は、二人とお付き合いしたいです」


 この状況、二股、といっていいのだろうか。

 二股、だよな。ノノンとルルカは別人だし。


「……けーま」

「はい」

「いま、ルルカとお話してきました」


 あ、ルルカも見てるんだ。

 無論、僕の味方してくれてるんだよね?

 

「最低、とのことです」


 マジかよ。


「二股の浮気野郎、死ねって、ルルカは言ってます」

「……はぁ」

「でも、そんな正直な所が大好きだ、とも言ってます」


 ノノンは、頭を下げたままの僕のことを、ぐーっと持ち上げるんだ。

 

「そして、そんなけーまの事を、ノノンも大好きです」

「ノノン……」

「これからは、隠れたりせずに、ノノンの見てる前で、ルルカとキスをして下さい」

「……いいの?」


 それって、ノノンからしたら結構辛いことなんじゃ。

 でも、ノノンは目を細めながら、もう一回僕とキスをしたんだ。


「いいんです。だって、ノノンもルルカに見せつけるから」

「……ノノン」

「じゃあ、入れ替わるね」


 長いまつげの瞼が落ちると、開く時には瞳が変わってるんだ。

 最近、ルルカとノノンの違いはすぐに分かるようになった。

 瞳の感じ、口元、それらが全くの別人だって思わせるほどに変化する。


「桂馬」

「……ルルカ」


 変わった瞬間、彼女は僕に抱きついてきた。

 唇を重ねると、ルルカは舌で僕のを強引に開く。

 ノノンは受け身のキスだけど、ルルカは攻めのキスだ。

 舌先で僕のに触れて、まんべんなく舌を舐めまわすと、ゆっくりと口の中を蹂躙する。

 たっぷり数分かけてキスをした後、ルルカは僕に唾液を飲ませてくるんだ。

 口を開けて、わざと唇を離して、糸引く唾液を僕に強引に飲ませる。

 

「……ほら、音立てて」


 ごくりっと、ルルカの唾液を飲み込む音を耳にすると、彼女は満足気な笑みを残す。

 

「はい、良く出来ました」

「……ちょっと、強引じゃないかな」

「浮気男には丁度いいでしょ? ……はい、交代だよ」


 交代? ルルカが瞼を閉じると、今度は瞳が丸く可愛いものへと変わる。 

 でも、眉根がすっごい寄ってる。めちゃ怒ってる感じ。


「あんなの! ノノンとしてない!」

「え、いや、だって」

「ノノンのも飲んで!」


 はむって感じで、唇にかぶりついてくると、ノノンはビクつきながら舌を絡めるんだ。

 レロレロと僕の舌を舐めるんだけど……頑張ってる感じがしてとても可愛い。

 目を閉じずにいるんだけど、ノノンは目を閉じて、なんかもう必死って感じ。

 

「んぇ……」

「ノノンはさ、逆がいいでしょ?」

「……逆?」

「僕の、飲んでよ」

「……んぇぇ……」


 やっぱり受け身だ。

 彼女の両肩へと手をやり、押し倒されていた身体を逆に押し返す。

 天地が逆になると、ノノンはもう、なすがままだ。

 

 触れると心地いい彼女の頬をくんっと握り、舌先で彼女の口をもてあそぶ。 

 唇から頬、歯の一本一本を丁寧に舐めると、自然と唾液は入ってしまっていて。


「……んっ……ちゅっ……ふっぅ……けーま、ノノン、飲んだ、よ」

「うん……でも、ダメ」

「はうぅ……」


 そのまま一時間ぐらい。

 ノノンとルルカの二人とたっぷりといちゃついた後、ちょっとだけマジメな話をしたんだ。


§


「え、いいの?」

「うん。ルルカも、ノノンと一緒だから。閉じ込めてたら、可哀想だよ」


 ノノンは、ルルカを表に出すことを認めたんだ。

 これまで、ノノンはルルカの存在をあまり認めていなかった。

 ルルカの方も、それを何となく理解していたのか、極力表には出ていなかったのに。

 

「ノノンね、桂馬がルルカを愛してくれて、本当に嬉しいの」

「……そう、なの?」

「うん。だって、ノノンとルルカ、絶対に一緒だから。けーまがノノンを好きになっても、ルルカのことが嫌いだと、一緒にいられないから。ノノンのこと、全部好きになってくれて、ノノン……嬉しい」


 ルルカも含めて、火野上ノノンなんだ。

 当の本人が、それを分からないはずがないよね。


「いま、ルルカと決めたんだけど、日和のお店の手伝いもあるし、月、水、土が、ノノンの日ね」

「となると、火、木、金がルルカの日か」

「うん。で、日曜日は、二人でコロコロ入れ替わる日。その日はいっぱいキスしようね、けーま」


 今日みたいのを一日する訳か。

 男冥利に尽きる……って事でいいのかな。

 

「という訳で、ルルカに譲るね」

「あ、ノノン」

「……なーに?」

「いや、なんというか……ありがとうって、思って」


 素直な気持ちを語ると、ノノンはチュっとキスをしてきたんだ。


「それを言うのは、ノノンの方だよ。ありがとう、けーま」


 瞼と閉じて、彼女は入れ替わる。 

 そして、恥ずかしそうに彼女も感情を言葉にするんだ。


「アタシの方も……ありがとう、な」

「これからも宜しく、って感じ、かな?」


 今はまだキスだけど。

 これ、身体を重ねるようになったら、どうなっちゃうのかな。


 なんて、いま悩むことじゃないか。


§


次話『閑話……知られざる真実』

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