青少女保護観察官に任命された僕と、保護された彼女~幸せを知らない彼女との日々はドキドキすることばかりで、僕はそんな彼女に振り回されっぱなしです~
第115話 どこの場所にも味方がいる。たとえそれが、ギャルだったとしても。
第115話 どこの場所にも味方がいる。たとえそれが、ギャルだったとしても。
「
「……いや、思わねぇが。しかしよぉ
「ある、僕は彼女が選定者であることを恥じていない」
共に食事の場を囲む必要はない、立ったままで十分だ。
「君たちが知っている選定者に対する知識は、きっと半分以上が間違っていないと思う」
事実、ノノンは何人もの男に抱かれてしまっている。
金で春を売り、時には恨みを買い、一晩で何十人もの相手をする羽目になったんだ。
でも、それだってしたくてしてる訳じゃない。
ノノンに両親がいて、ちゃんとした場所で生活出来ていれば、する必要のない事だったんだ。
「それらに至るには理由があるんだ。何人もの選定者と呼ばれる女の子を見てきたけど、彼女たちの全員が、それら暴力から逃げることが出来る状況になかった。選定者って言葉よりも、被害者って言葉の方が正しい。僕は、そんな彼女の過去も含めて、愛しているんだ」
僕の言葉だけで、世間の風潮が変わるとは思えない。
だから、この場で全員が変わることを求める必要はないと思うんだ。
ただ、伝えなくてはならない。
この場でそれが出来るのは、観察官である僕だけなのだから。
「とはいえ、なぁ?」
智文君は近くにいた同級生の男へと視線を送る。
ソイツもまた、困った表情のまま、何も言わずヘラヘラと笑うんだ。
しまいには、ノノンをいやらしい目つきで見ているようにも見える。
チャンスがあれば、金さえ払えば、とでも考えているのかもしれない。
その恣意的な目が、自分勝手な目が、とても嫌いだ。
「分かったよ、別に理解してくれと頼んだ訳じゃない。ただ、伝えたかっただけだから」
言いたいことは言ったんだ、これ以上この場に残る理由もない。
「ノノン、行こうか」
繋いだ手を引こうとするも、彼女は動かず。
不思議と佇んだままのノノンは、僕よりもさらに一歩踏み込んで語り始めるんだ。
「わたしは、選定者、です」
彼女は自分のことを、ノノンと言わず。
でも、どこか引っかかる感じで喋る。
「貴方の言うとおり、何人の男の人に、だかれたか、わかりません。おぼえても、いません。でも、そんな私、でも、けーまさんのことが、好き、です。私も、普通に、女の子として、恋愛がしたいん、です。私は、恋愛をしては、ダメなんです、か? 大好きで、大好きでしょうがないのに、けーまさんを愛しちゃダメ、なんですか?」
「そうは、言ってねぇけど」
「だったら、私たちのことも、受け入れて、下さい。選定者、だからダメと、決めつけて欲しく、ないです。……うまく、喋れないのも、したくてしてる訳じゃ、ないんです、から」
恐らく、ノノンは吃音症だ。
喋るだけでストレスを感じてしまう、心の病。
その彼女が、必死になって自分自身を肯定しようとしている。
僕は、彼女との手を繋ぎ続ける。
ずっと、そんな彼女のことを応援したいと思っているから。
「ちょっちいい?」
すっと、手を挙げた女の子がいた。
金髪のショートヘア、ミニスカートなのにあぐらをかいて座る褐色肌の女の子。
「あーね? いきなりやってきて選定者言われても、ウチ等理解できねーんだわ」
とろんとした緑色をした瞳、凄まじいまでにゴテゴテに装飾されたネイルをした指で、自身の頬をとんとんと叩く。雰囲気からして強者、そんな彼女の言葉に、智文君は賛同した。
「まゆらちゃんの言う通りだよな! 桂馬たちも、急に何言い出すんだか!」
まゆら……
え、嘘だろ、あの子僕と同じぐらいオタク気質だったはずなのに、なんでこんなギャルに!
「智文、うるさい」
「……え」
「お前がなにか言ったから、桂馬たち怒ってんだろ? 会話から察するに、選定者が男に抱かれた回数とかで、どーこーいったみたいだけどさー」
ぐいっと、彼女は自分のことを親指で指さしした。
「あーしさ、五人とセックスしたことあるよ?」
「……へ?」
「初体験は小五、もえみは中二だっけ?」
岡本さんは隣に座る、黒髪ロン毛の子に視線をやった。
すると、彼女も気怠そうにしながらも、苦笑して答えるんだ。
「そーそー、テニス部の部長さんと部室でやったー、てか、バラすなし」
「カリンは高校一年の時に彼氏と家デートでしてたし」
「うん」
「のっちは春休みに桜の木の下でしたって、さっき嬉しそうに言ってたよねー」
「そだね、去年の話ね。もう別れたけど」
あははーって笑いながら女の子同士で笑ってるけど。
この場にいる全員が非処女ってことか……え、なんでこんな事を暴露して。
岡本さんはとろんとした瞳のまま、じぃっと智文君を見るんだ。
「智文、全員処女だと思ってたっしょ」
「そ、そんな訳じゃ、ねぇけど」
「くさ、んーなのありえねーし。ノノンって言ったっけ、こっちこー」
岡本さんに手招きされて、ノノンは僕のことを見た後に、彼女の隣に座る。
「ほい、三色だんご」
「あ、ありがと、ござい、ます」
「ういういー」
赤白緑の三色団子を、ノノンは申し訳なさげに受け取るんだ。
しかし岡本さん、かなり良い性格してる。
あけっぴろげに会話してるのに、全然嫌味が感じられない。
「花より団子、いいよねー」
「……はなより、だんご?」
「そうそう……あは、あーしの団子、桜が乗っちった。よくね?」
自撮り棒使って撮影してる人、初めてみたかも。
「智文も、こっちこー」
「……わかったよ」
「さっきまでノリノリだったじゃんねー、経験済みなお姉さんでショックだった?」
「別に、俺だって経験済みだし」
「マジ? 智文相手する女いるとか、
「どういう意味だよ!」
「マジ怒ってんの、くさ」
智文君を言い負かした岡本さんだけど、彼女はそんな智文君のことも誘うんだ。
ギャルってこんな感じの子なんだ、なんか、全然思ってたのと違う。
もっと怖い存在かと思ってたけど……凄く、良い人じゃないか。
「桂馬も、大好きなノノンちゃんが寂しいって泣いてるぞ?」
「わ、わたし、泣いて、ません!」
「あはは、かわいい、すこだね」
岡本さん、ノノンのことを頭いいこいいこしてて。
こうまでされちゃ座らない訳にもいくまいと、僕も花見の席についたんだ。
数分もしたら険悪な雰囲気はどこにもなくて。
旧友たちとの談話を純粋に楽しんでしまう、僕たちの姿があったんだ。
「さっきはすまなかった。彼女が選定者だと思わなくてさ」
「それだけ、ノノンが可愛いって事でしょ?」
「……まぁ、そういう意味だけど」
「あはは、でも、言ってくれて良かったと思う。言われないと気づけないことって、結構あるからさ」
最良の解決策では無かったかもしれない。
岡本さんがいなかったら、あのまま智文君とは喧嘩別れで終わっていたかもしれないんだ。
もっと模索しないといけない、選定者という存在を、どのように世間に伝えるべきか。
「選定者って、言うけどさー」
僕たちの会話に交じるように、岡本さんが甘酒片手に隣に座り込んだ。
白い頬を朱に染めて、甘酒で酔うってことはないと思うけど、なんかちょっと色っぽい。
「別に、特別な存在でも何でもないんじゃね? あーし等だって、一歩間違えたら保護されてた口だし、たまたま踏みとどまっただけっていうかさ。それにノノンを見れば分かる、この子が悪いんじゃない、この子をこんなにした大人が悪いんだってな」
そう言うと、岡本さんはノノンの前髪をぐいっと持ち上げたんだ。
隠されていた額の傷が露わになると、ノノンはとっさに自らの手で傷を隠す。
「この傷だって、この子自ら付けた傷じゃない。女の子が自分の顔に傷なんか、つける訳ないだろうに……ほんと、殺したくなるよね、こういうの見ると」
冷え切った殺意は、間違いなく本物だった。
でも、ほんの一瞬で、彼女は先ほどまでの笑顔に戻るんだ。
「そんな感じ、これからも仲良くやろー」
「……あ、ああ」
ピースサインして目を細める岡本さんだったけど……さっきの殺意、凄かったな。
にひひーって、指をカニみたいにチョキチョキしてる。
こうしている分には、普通の女の子なんだけどな。
§
次話『始まる二年生、ノノン、放課後に活動する』
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