第96.5話 その時の椎木さん。

1/11 木曜日 02:15


 桂馬けいま君が私をノノンちゃんの部屋にしてくれようとしていた理由がハッキリ分かった。


 何これ、声も音も全部聞こえてくるじゃない!

 シーツがこすれあう音とか、なんか水滴の音とか、悲鳴みたいな喘ぎ声とか!


 なんなの、壁一枚向こうで一体何が起こっているの!?  

 大体、性行為って男と女でする事でしょ!?

 なんで女の子同士でこんなに激しく愛し合っているのよ!


 ああああああああああ! 聞こえない聞こえない! 

 私には何も聞こえない! 明日は平日だし学校なの! 

 なんで深夜二時に布団にくるまりながら耳をふさいでいるの!? 

 え、無理じゃない!? こんな状態で桂馬君は寝てたの!? 私には無理よ!


「だ、ダメだ、眠れない」


 生まれて初めて「うるさい!」って壁を叩きたくなった。

 絶対に出来ない、隣にいるのは依兎よりとさんと灰柿はいがきさんなのだから。


 どうしよう、このままじゃ一睡もできない。

 いつになったら終わるのよ……。


 ……そうだ、別の部屋で寝よう。

 リビングのソファでいい、あそこならきっと静かだから。


 あ、いけない、扉を開けたら廊下の照明が自動で点いちゃった。 

 大丈夫、よね? 他の部屋が明るくなるとか、ないよね。


「あら、これは」


 桂馬君の部屋、張り紙がしてある。

 

――舞さんへ、眠れないようなら、僕の部屋に空きベッドが一つあります。みーこちゃんもおりますので、静かに入室してください――


 彼の優しさに、思わず泣きそうになっちゃった。

 さっそくお邪魔します。うわ、すっごい静かな部屋。

 それに部屋が暖かい……そっか、みーこちゃんがいるから他よりも暖かいんだ。


 薄明りの中、確かにベッドが空いてるのが見える。

 でも、すぐ側に寝ている桂馬君がいるのよね。


「あうあ」

「あら、みーこちゃん」


 起こしちゃったというよりも、起きてたっぽいわね。

 みーこちゃん、私の方を見ながら、手は桂馬君の方を指さししているわ。


「あう」

「行けって、言っているの?」

「あうあう」

「……そう、分かったわ」


 心臓どきどきさせながら、寝ているの桂馬君がいるベッドへと足を忍ばせる。

 毎晩ノノンちゃんはこうして眠っているんですもの、一晩くらい、良いわよね。

 寝顔の桂馬君が目の前にいる……やだ、すっごい緊張する。

 とても、安心しちゃうな……あったかいし、なんか、凄い眠くなって、きた……。


 zzz……


§


次話『二人だけの家なのに』

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