第77話 明かされるポイント制。

「あら、お仲間が増えたの?」


 何も知らないまいさんが会場へと戻ってきたものの。

 タイミングが悪かったかもね、ちょうど敵が増えた所だよ。


「初めまして椎木しいらぎさん、七光ななひかり五条ごじょうと申します。いろいろと大変でしょうが、今後とも保護観察活動を頑張っていきましょう!」

「あらご丁寧に、ありがとうございます。椎木舞と申します、こちらこそ宜しく」


 二人が握手しているのを見ていると、なんだか歯がゆい。

 大人な対応とやらが必要なんだろうけど、どうにもこうにも。


『えー、本日お集りの保護観察官の皆さんへ』


 突如響くスピーカーからの音声、見れば会場奥、二段程度に設けられた檀上にスーツ姿の大人が立っていた。綺麗な白髪、けれども不思議なことに、伸びた背筋や表情からは年齢を感じさせない。筋骨隆々な感じは、それだけでまだまだ自分が現役だと物語っているようだ。

 

『ご清聴ありがとうございます、ひと声で状況判断が出来る、さすがだと思います。ご紹介が遅れました、わたくし、保護観察課本部長、武内ぶない鬼甚きじんと申します。以後、お見知りおきを』


 すっと落とすように会釈をしたので、僕もそれに習い頭を下げる。

 武内本部長……渡部わたべさんの上司ってことかな? 

 保護観察課は法務省管轄だから、一番上は法務大臣なんだろうけど。


『さて、今回は事前告知として、成績発表があるとお聞きしているかと思われます。しかし、学校のように一人一人に成績表を渡す訳ではございません。この場で決めるのは三つ、半期最優秀賞、優秀賞、法務大臣特別賞、これらを表彰する場となっております』


 へぇ、そんなの決めるんだ。

 「知ってた?」と神崎かんざき君に聞くも「いや、初耳」と返事が戻ってきた。

  

『基準点は担当課長から聞いているでしょうから割愛しますが、ちなみにこれら表彰には副賞が設けられております。最優秀賞者には二ポイント、優秀賞には一ポイント、法務大臣特別賞にも一ポイント、各々ポイントが付与される事となります』

 

「すいません、ポイントって何に使えるんですか?」


 皆の疑問を誰かが質問してくれた。 

 

『気になりますよね……この武内、焦らす性格ではありませんので、素直にお答えいたします。これらポイントを四点集めますと、希望者は青少女保護観察課への入職が確定になります。三ポイントでも希望就職先への斡旋、及び希望者へは、国公立大学への推薦入学の権利が付与されることとなります』


 入職が……確定?

 それって確実に観察課で働けるようになるってこと?

 しかも三ポイントでも国公立大学、え、国公立の大学って推薦なんかあったっけ!?


 ざわつく会場の中、七光君が興奮気味に挙手をする。


「国公立大学は誰でも平等な選抜ではないのですか!? 推薦はあり得ないはずでは!?」

『……では聞くが、今の君たちは他の高校生と平等である、と言えるかな?』


 僕たち保護観察官は、高校三年間を選定者と過ごし、完全に観察者として生活していかなければならない。他の子のように部活動に入ることも禁止され、習い事の全てを諦め、一人の選定者と向き合って生きていかなければならないんだ。


 毎日報告書を作成したり、休みの日だって、こういう会合の場にも足を運ばないといけない。

 皆が学生生活を楽しんでいるなか、僕たちはそれら全てを犠牲にしてこの場に立っている。

 それが平等かどうかと言われたら、素直に頷く事はできない。


「ポイントが付与されなかった場合、それらの道は閉ざされるのですか?」


 誰かが不安をそのままに質問する。 

 檀上の武内本部長は首を横に振った。


『閉ざされることはない、だが、落とされる可能性が生まれてしまうとだけ告げておく。大丈夫だ、保護観察官として三年間費やしてきた君たちの犠牲を、我々は無下にはしない。可能な限り希望する進路、就職先へと入れる努力を約束しよう。それらがダメであったとしても、無職になることは絶対にない、安心してくれたまえ』


 青少女保護観察をネットで調べると、検索候補に天下りって言葉がくっついてくるんだ。

 多分、いま武内本部長が言ったのは、きっとこの部分なのだろう。

 どのように転んでも、天下り先を見つけてやると。


 ……でも、僕個人としては観察課で働いてみたいかな。

 渡部さんや水城さんのように、救われない子供たちを救っていきたい。


『では、発表は報告会の最後に』


 会場を盛り上げるだけ盛り上げると、武内本部長は檀上を降りてしまった。

 付き添いと共に会場を後にすると、残された学生たちはポイントの話題で持ち切りに。


 そんな賑やかな場で、七光君は強引に僕と肩を組んできた。

 そして、他の人、特に椎木さんには聞こえないように、僕だけに耳打ちするんだ。


「なぁ、黒崎」

「……なに?」

「残念だったな、ハズレを引いたお前に表彰は無理だ」


 こいつ、いちいち突っかかってくるな。

 反対意見を言われたのがそんなに嫌だったのか?

  

「……随分と自信満々だけど、僕は君の選定者がちょっと可哀想だと思うよ」

「可哀想? 冗談、俺は全員の日報に目を通し、その中から有効だと思った手段を取り入れてるんだ。さすがに黒崎みたいに常時鎖っていうのは取り入れなかったけどな、あれは愚策だろ」


 全員の日報。

 確かに申請すれば見れるのだろうけど、そんな事に時間を費やしてるのか。

 だったら一秒でも長く相手と会話でもすればいいのに。


「聞こえちゃったんだけど……私も鎖を付けてるわよ?」

「鎖は俺も取り入れてるぜ? なんだ、黒崎メソッド、活用してねぇのか?」


 舞さんと神崎君が味方してくれたんだけど。

 黒崎メソッドってなに、聞いたことないよそんなの。


「お仲間意識が強いことで。でもまぁ、結果を知ればどっちが正しいか知ることになるさ」


 目にかかる前髪をかき上げると、彼は得意げに語った。

 そんな彼を、空舘そらたち君が小脇に抱える。


「七光、またお前何か揉めてるのか。すまない、ちょっとお説教してくる」

「あ、ちょ、空舘! お前、まだ僕が話してるんだが!?」

「ダメだ、嫌われ者になって終わるぞ」

「そん、あ、まって、ちょ!」


 おお……空舘君が強引に七光君を連れて行ってしまった。

 福助ふくすけ君が「すいません」と謝ってから、会場の奥へと消えていく。


「あの三人、いい感じに釣り合い取れてるのかもしれねぇな」

「……そうだね」


 何はともあれ、彼らだって保護観察官なんだ。

 争うにしても、もっといい方向で競いたいものだ。


 それから数十分後。


 何台ものカメラが運び込まれ、会場の横には投影型のスクリーンが表示された。

 全国中継なのだろう、他の会場が次々に映し出され、皆が驚きの表情を浮かべる。 


 そうか、成績発表って全国か。

 この場には十人しかいないもんな、となると受賞者は百分の三か。


 会場が暗くなると、再度檀上へと武内本部長が登壇する。


『お待たせしました……成績発表、及び表彰式へと参ります』


§


次話『受賞者発表』

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