第74話 二学期の始まり。
二学期に入り、予定通り
「へへ、やっぱり綺麗だよな、あの二人」
「そうだけど、なんで
「え? だってアレだぜ? 俺たちはゲームセンターで一緒に遊んだ仲なんだぜ?」
だから何なのだろうか。
関根君や石田君も「だよな」と同調していて、なんだかご満悦な顔をしている。
ノノンを見るも「?」といった感じで、やっぱりよく分からない。
二日目から、舞さんと依兎さんの二人は僕たちのクラスに遊びに来るようになった。
そしてなぜか僕達の前に座る小平君が「
「小平君と仲が良いんだ?」
「ううん。全然。っていうか小平っていうんだ、名前忘れてたよ」
おぉ……名前覚えられてないぞ。
この展開、
そういえば上袋田君、夏休みで相当にダイエットをしたらしく、すっかりやせ細ってしまっていた。多分、二十キロ近く落としたんじゃないかな。顔の輪郭から変わっているし、どこはかとなく女子の視線を集めているように見える。
僕の視線に気づいたのか、彼はこちらへと手を振ってきた。
どういう意味なのか分からないけど、とりあえず会釈。
「今の手を振ってたのって、誰なの?」
依兎さんが興味ありげに彼を見ている。
「上袋田君っていって……んーと、御曹司だよ」
「御曹司? 金持ちってこと?」
「うん。親御さんがIT企業の……なんだったかな、忘れちゃった」
「へぇ、ひと昔前のアタシなら、アピールしてたかもね」
ノノンに惚れてるっていうのは、彼の名誉のために伏せておいた。
伏せる必要もないかもしれないけど、念のため。
「でもまぁ、今はそういうのよりも、別の方を好むかな。舞もそうだろ?」
「そうねぇ……」
舞さんは口元に手を置き、僕のことをじぃっと見つめる。
見れば、依兎さんも同じく、真剣な顔をしながら僕を見ていた。
ちょっと前に二人から告白めいた事を言われてる身としては、なんとも居心地が悪い。
「なになに、転校生さんって、もしかして桂馬君たちと同じ感じ!?」
「舞さんは久しぶりだな、そっちの子が舞さんの?」
クラス委員代表であり、コミュニケーションお化けの日和さんが早速割って入ってきた。
セットで古都さんも一緒に入ってきて「こんちわ」と軽い挨拶をする。
古都さん、夏休みは金髪だったけど、どうやら髪色を元に戻したらしい。
日に焼けた茶髪をポニーテールにまとめた感じは、一学期の頃そのままだ。
対して日和さん、黒髪の肩までセミロングなんだけど……インナーカラー入れてる? なんか、髪の内側だけ金髪に見えるんだけど。
「日和さん、それって」
「あ、気づいた? ヤバイなぁ、もっとちゃんと隠さないと」
日和さん、手に取って金髪部分を僕たちに見せてくれた。
ここまで完全に色が抜けてるのって凄い気がする。
聞けば、夏休みの最中に古都さんの影響を受けて、一人で毛染めに挑戦したんだとか。
古都さんは落ちやすい毛染めにしてたのに対し、日和さんは何を思ったかブリーチをしてしまったらしい。ブリーチ、つまりは脱色だ。完全に髪の毛の色が落ちてしまい、地毛が伸びるまでどうやっても元には戻らないんだとか。
「アタシ、髪色青だけど地毛で通ったよ?」
「本当? そういえばノノンちゃんも赤髪だけど、何にも言われてないよね」
「うん。ノノン、うまれたときから、かみ、まっかっか」
「いや、さすがに日和のは通らねぇだろ。一学期は黒髪で二学期金髪とか、あり得ねぇから」
日和さん、うぅぅ……と頭を抱えて悩んでいる素振りをしていたけど、二秒でやめた。
「まぁいいや。怒られてもしょうがないし。っていうか自己紹介しよ!」
日和さんと古都さんと舞さんは、すでに顔なじみだけど、依兎さんは初顔だ。
僕たちからしたら依兎さんも変わらないけどね。
そして僕の周囲には常に五人の女子がいることになった。
お昼の時間には必ず二人は遊びにくるし、放課後も僕たちは部活がないから一緒に遊んだり。
うーん、中学生の頃からは想像も出来ないくらい、女子に溶け込んでいる気がする。
ノノンがいてこそなんだろうけど、この状況、また不安にならなければ良いんだけど。
§
一週間が過ぎ、舞さんと依兎さんも花宮高校に慣れてきたころ。
僕たちの元に渡部さんから一通のメールが届いていた。
「半期報告会か……そっか、もう半年になるんだね」
「ほうこくかい?」
「うん、多分、ノノンは
「きれい? ……きれい?」
「ほら、保養所にいた、ノノンが最初苦手だった、体の大きい」
「きれい……きれい! おー! きれい、ひさしぶり!」
この反応、綺麗さんのこと忘れてたのかな?
今は神崎君と一緒に運動してるみたいだから、もしかしたら激変してるのかも。
学校へと到着すると、朝礼前に僕たちは舞さんたちにつかまり、廊下で立ちながら話をすることに。
「良かった、桂馬君のところにも来てたのね」
「はい、ということは、舞さんたちも一緒ってことですね」
うんって、舞さんは嬉しそうに頷いた。
「ってことは、アタシはノノンと一緒ってことだな」
「よりと、いっしょにおはなし、いっぱいしようね!」
報告会の場では、選定者と観察官は完全に分かたれてしまう。
しかも各々の報告内容は完全秘匿とされ、互いに何をしていたのかは不明だ。
でも、ノノンと依兎さん、それに綺麗さんまで一緒なら、なんとなく想像がつく。
仲良くやってくれるに違いない、そんな絵面しか想像できないよ。
「じゃあ、車も一緒に出来ないか聞いてみましょうか」
「そうだね、四人で向かった方が出費も減るだろうし。僕から渡部さんに聞いてみるよ」
「もしそれで一緒がOKならさ、今日は久しぶりに桂馬の家にお泊まりにしないか?」
「よりととまい、ひさしぶりに、いえにくるの!? きゃったー!」
まだ聞いてないんだけどね。
ノノンは喜んでるし、まぁ多分許可されるんだろうけど。
朝早いけど、善は急げということで、さっそく電話。
『そうか、ならば大型車を用意しておこう。黒崎君の家に行くだけで済むのなら、こちらも助かる。そうだ、今回の報告会は成績発表も兼ねている。皆の服装は私服ではなく制服で向かうよう、宜しく頼むよ。では、少々立て込んでいてね、これで通話を終わらさせてもらうよ』
お、珍しく渡部さんの方から電話を切られてしまった。
少々立て込んでる、か。
やっぱり大変なんだな、青少女保護観察課って。
「どうだった?」
「ああ、うん、大丈夫だって」
やった! と、依兎さんとノノンはぴょんぴょんしながら手を合わせてる。
「どうしたの? 他にも何かあった?」
「舞さん……いえ、成績発表も兼ねているから、制服でって言われたんですよね」
「成績発表、そっか、結構わかりやすい感じにするのかしらね」
「分かりやすい感じって、何をですか?」
舞さんは両手を腰に当てながら、それしかないだろうといった顔をした。
「保護観察官としての成績発表よ」
§
次話『保護観察官半期報告会』
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