閑話……膝枕ロシアンルーレット ①※三人称です。
※時間は本編少し前、旅行直後、桂馬君が眠ってしまったシーンになります。
※
※三人称です。
――――・――――・――――
マンションへと戻った
室内には
ただ一人、舞だけは「本当は手伝った方が良いのではないか?」という思いに駆られているのだが、自身の荷物はまだ到着せず、部屋の脱臭も未だ終わっていない。この家はあくまで舞から見たら桂馬とノノンの家であり、勝手は許されないと判断し、彼女も手伝わずにいた。
「あ、そうそう、私今日水着持ってきたんだ」
そんな
小麦色の肌をした日和は、既に数回は着用したであろう水着が入った小袋を皆に見せる。
「みずぎ?」
「だってノノンちゃん家ってサウナあるでしょ? 裸で入るのもいいけどさ、水着だったら桂馬君も一緒に入れるじゃん? そう思って持ってきたんだ」
シャトーグランメッセは事前申請が必須のセキュリティレベルが高いマンションだ。
入れるかどうかも分からないのに水着を持ってきていた事に対して、古都が呆れ顔をする。
「だから今日はムダ毛処理に時間かけてたのか」
「そうだよぉ? って、桂馬君いるのになに言ってんの!」
「あはは、大丈夫だろ。桂馬の奴さっきからずっと動いてるし、多分聞こえてねぇよ。アレだよな、家の中に女子が四人もいるのに我関せずで動き続けてる辺り、あーゆータイプ、マジで一家に一台欲しいよな」
そうだねーって日和が頷き、舞も口に手をあて頬を綻ばせる。
唯一ノノンだけが「けーま、ノノンの」と反論したが、頭をぽんぽんされて終わった。
「っていうかよ、そもそもこの家ってサイズフリーの水着があるんじゃねぇの?」
「……そうね、観察官の住居にはどんな観察官と選定者が来てもいいように、あらゆるサイズの衣服が収納されているから、あると思うわよ?」
古都の言葉に舞は補足し、日和の準備万端の意味があまりなかった事を主張する。
だがしかし、日和はそれらに反することなく一人何も言わず沈黙した。
なぜなら以前宿泊した時に彼女は気付いてしまっていたのだ、自分のバストサイズに合う下着がこの家には無いことに。まな板のどこが悪い、下着はいらぬと申すのか。あの日、唯一サイズの合うスポーツブラを着用し、一人闘争心を燃やしていたのは皆には内緒だ。
「それじゃあよ、自分に合う水着があるか、見に行こうか」
古都の提案に皆が賛成し、女性物の衣服が収納されている最初期のノノンの部屋へと向かう。
部屋の中はベッドやデスク、ワーキングチェア等が置かれているものの、生活感はゼロ。
唯一稼働している空気清浄機だって、先ほど桂馬が起動させたに過ぎない。
無駄な物が一切ない部屋は、ファッションショーをするには申し分ない広さを誇っていた。
「お、これなんかアタシにちょうどいいじゃん」
「保養所の時にプール入らなかったから、着損ねたのよね」
「……ちっ、やっぱり……」
「どした日和?」
「ううん、何でもないよ。あはははは (怒)」
皆が皆、自身にあった水着を着用し、姿見鏡で見たり互いに見せ合ったりしている中、ノノンだけは一人何もせずベッドに座っていた。羨ましそうに皆の綺麗な肌を眺めながら、無意識に一人、自分の腕をさする。
そんなノノンに気付き、日和は彼女の隣に座り話しかける。
「ノノンちゃんの水着姿、見てみたいな」
「……ノノン、みずぎ……」
「大丈夫、ここにいるのは、全員ノノンちゃんの味方だから」
「…………うん」
保養所で着替える時も、ノノンは自分の身体が他の人に見えないように、部屋で水着に着替えていた。傷だらけの身体を見られるのは、見た人も、何よりノノン自身をも傷つかせてしまう。それが分かるからこそ、ノノンはどんなに暑くても長袖を着用し、半袖の時にはファンデーションやコンシーラーを駆使して、自分に残る傷跡を極力見せないようにしてきたのだ。
しかし、ノノンだってまだ十五歳の女の子だ。
可愛いは至上であり、最近の自分自身がとてつもなく可愛いというのは、ノノンだって理解している。鏡に映る姿は以前とは違う、健康的であり、雑誌に出てくるモデルにだって負けていないと思っているのだ。
更には常日頃、大好きな桂馬から「可愛い」と言われている。
自然と自信だって身についてしまうもの。
つまり、ノノンは水着を着てみたかった。
そして桂馬に見て欲しかった。
「うわ! ノノンちゃんヤバ!」
「予想はしてたが、洒落になってねぇな」
豊満な乳房を隠しきるには何とも頼りのないビキニの水着は、ノノンの肩に食い込むようにして必死に支えている。女性の胸は桃やリンゴに例えられる事が多いが、まさにノノンは袋詰めされた巨大な桃のように見えた。
この家に来た当初は浮いていたあばら骨も、お陰様で肉付きが良くなりもちもちの肌に生まれ変わっている。腰回りもほどよく、けれども贅肉とは呼べぬ程に丸みを帯び、女性らしいお尻は小ぶりながらも、ノノンの魅力を増す要因の一つとなっていた。
「……ノノンちゃん?」
「ノノン、けーまに見せてくる!」
絶対に桂馬なら可愛いと言ってくれる。可愛いと言って欲しい。
絶対的な自信と計り知れない安心感と共に、ノノンは水着姿で部屋を飛び出し、リビングへと向かった。
「けーま! ノノン、みずぎ……」
だがしかし、可愛いの言葉は頂けなかった。
片づけに疲れてしまったのだろう。
先ほどまで皆が座っていたソファで座り、うたた寝をしている桂馬の姿を見て、ノノンは言葉を止める。そして静かに近寄り、腕組みしながら瞼を閉じる、大好きな人の寝顔を眺めるのだ。
「あんだよ、桂馬の奴、寝てんのか」
「……でも、片付けは終わったみたいね」
古都と舞の二人もリビングへとやってきて、桂馬の仕事っぷりを嘆息と共に眺める。
先ほどまで出しっぱなしになっていた洗濯物や旅行で使用した衣服類は既になく、お土産の紙屑も捨てられ、使用したお皿も洗い終わっており、リビングからキッチンは彼の性格そのままを表したかのように綺麗に片付いてしまっていたのだ。
眩しい物を見るように目を細めた後、静かに眠る桂馬を見て、古都はこう言った。
「ご褒美にさ、皆で膝枕でもしてやろうか」
「みんなで、ひざまくら?」
「ああ、そんで、膝枕した時に起きちゃった人の勝ち」
「ゆっくり寝かせた方が……」
舞も常識的観点から意見を述べるが、悪くはないと思っていた。
彼の寝顔を見るのはこれで二回目だが、膝枕までは出来ていない。
彼の髪に触れてみたい、寝てる頬をつんつんしてみたい。
「……でも、楽しそうだからいいかもね」
数秒の逡巡を経て、舞も参加者に加わる。
ノノンはもちろんのこと参加だが、意外なことに日和も即参戦だった。自分の肉体でも果たして男は喜ぶのだろうか? もしかしたらそれが分かるかもしれない。
勝者が得られるものは桂馬の寝起きが見られるのみ。
水着を見て欲しい、寝顔をみたい、自分の魅力を確かめたい、様々な思惑が繰り広げりる中、静かに膝枕ロシアンルーレットが開催されるのであった。
§
次話『膝枕ロシアンルーレット②』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます