第45話 四宮君が盗撮していたもの。
8/2 水曜日 07:30
肝試し翌日、この旅行も残すところあと一日になった。
食堂でもそれは変わらない、もちろん僕達も繋がったままだけど。
なんていうか、レベルが違う。
「はい沙織、あーん」
「バカ、やめろよ。そういうのはいいって」
「うふふっ、照れちゃって。帰ったらもっと仲良くしようね」
「わぁったから、今はやめれ」
必要以上に仲良くなったみたいだ。
まぁこれも、青少女保護観察プログラムの醍醐味かな。
「けーま、あーん」
「あーん」
「おいし?」
「うん、美味しいよ。ノノン特製、ハチミツミルクのコーンフレークだね」
「にへへー」
ウチも負けてないね。
しかし、ノノンが怖いの苦手だとは知らなかったな。
ホラー映画とかは普通に見てた記憶があるけど、気絶とか……やっぱり、鎖が外れてたからかな?
「朝から
遅れてやってきた椎木さん。
一緒に食堂行こって誘ったんだけど、する事があるって断られたんだよね。
「マイも、あーん」
「あー……って、なんで私まで火野上さんに食べさせてもらわなきゃいけないのよ!」
「あははっ、椎木さん結構ノリいいね」
「まったくもう。あ、そうそう、神崎君と黒崎君、後でちょっと話があるんだけど、いい?」
何を改まってと思いながらも、朝食を終え、二人鎖を外してから202号室へと向かう。
諸星さんもノノンも鎖を外すの嫌がってたけど、そこはごめんなさいだ。
昨晩から腹痛に襲われていて、起きれないらしい。
「いいの? こっち女子部屋でしょ?」
「誰にも聞かれたくないの」
「なんか、重そうだな」
「ええ、結構重い話よ」
椎木さん、自分のバッグの中から壊れたデジタルカメラを取り出してきた。
「え、ごめん、修理代払うね」
「それは大丈夫、所詮は型落ちの支給品だから。修理に出すか交換かは知らないけど」
「……じゃあ、何が重い話なの?」
はぁ、と椎木さんはため息をひとつ吐いた。
椅子に腰かけると、腕組みしながらテーブル上のデジカメを睨みつける。
「これね、壊れたのはモニターだけであって、データは生きてたのよ」
「するってーと、そのデータに何か問題があったのか?」
「……見れば分かるわ」
デジカメとタブレットを繋げると、そこには撮影したであろう写真が何枚も表示された。
普通の風景画にしか見えないけど、何か問題でもあるのかな?
「……容量と使用量があってねぇな」
「そうなの。これ、シークレットフォルダがあったのよ」
「これの持ち主って四宮だろ? 何か隠し撮りしてたって事か?」
「……溜息出ちゃうよね、私の隠し撮りが何百枚もあったんだから」
それってかなり不味い話なんじゃ。
「それだけじゃないの。この旅行に来てからも彼は隠し撮りしてたみたいでね」
「あ、これ、僕が毎晩諸星さんと会ってた時のだ。えー、一体いつ撮られてたんだろ」
「彼、寝てるフリしてあちこち行ってたみたい。もう、どうしようかなって……」
見る訳にはいかないけど、椎木さんの写真って、やっぱりそっち系だよね。
盗撮は立派な犯罪だ、見逃すわけにはいかない。
「とりあえず、管轄の法務省の人に相談するのが一番なんじゃないかな?」
「だな、俺達だけでどうこう出来る話じゃないぜ?」
警察沙汰になるという事は、生半可な事ではない。
けれども、思っていたよりも自然な表情のまま、椎木さんは僕達を見る。
「でも、それって四宮君の青少年保護観察が終わるって意味でもあるのよね。言い換えれば私の監督不行き届きって意味でもあるし。こういう部分を更生するのも、私の役目だったんじゃないのかなって、そう考えちゃうのよね」
そう言われると、そうなのかもしれない。
最初からマトモじゃないって分かってる相手なのだから、こういうのも予見しないとダメなのかも。
「黒崎君だって、ノノンちゃんの裸見てるわけでしょ?」
「……ま、まぁ、許可されてますし」
「神崎君だって、諸星さんの下着姿とか見てるわけでしょ?」
「そりゃ当然」
「男女が一つ屋根の下なんだから、これぐらいは受け入れないとなのかな……と言うのが一点」
強い人だ、女の子の立場だったら盗撮なんか許せなそうだけど。
「二点目は、多分これは偶然撮影出来たものだと思うんだけど」
「……なにこれ、サムネイル画面に何も映ってないけど」
「なんだぁ、心霊映像かぁ?」
「その類に近いかもね。何はともあれ、一回聞いてみて」
そのファイルは、激しい衝撃音から始まった。
撮影しようと思って撮影したものじゃないって、そこだけでも分かる。
駆け足で人が近寄る音、そして叫び声が聞こえてきた。
『こ、壊れてる!? おいお前! これ政府から支給された大事な物資なんだぞ!?』
『うるせぇ! テメェが盗み撮り重ねて、本体を壊しちまったのが原因だろうが!』
……なんだ、いまの会話。
一人は四宮君だろうけど、もう一人の声って。
「記録されてたのはこの会話だけでね、映像も録画出来てないんだけど……これ、ノノンちゃんの声よね?」
繰り返し音声を確認する。
確かにノノンの声だ。
でも、ノノンはこんな喋り方を絶対にしない。
「ノノンだけど……ノノンじゃないと思う」
「喋りからは全然ノノンちゃん味を感じねぇけど、声の質感は間違いなく彼女だぜ? どうなってんだそれ」
「分からないの。四宮君は部屋から出てこないし、多分、ノノンちゃんに聞いた所で分からないで終わりそうな気がしてね」
「もう一度、聞かせて貰ってもいいですか?」
「ええ、どうぞ」
タブレットの再生ボタンをタップする。
『こ、壊れてる!? おいお前! これ政府から支給された大事な物資なんだぞ!?』
『うるせぇ! テメェが盗み撮り重ねて、本体を壊しちまったのが原因だろうが!』
言葉の後に、更に何かを叩いた音が聞こえてくるような。
でも、すぐにデータが消えて、何がなにやら。
「……本体って、デジカメのことかな」
「盗み撮りを重ねてデジカメ本体が壊れるかぁ? そんな話、聞いたことねぇわ」
「私も、それは流石にないと思う。でも、確かに引っ掛かるわね、本体か……」
沈黙が僕達の間に流れる。
「んま、こうして考えるだけ時間の無駄だろ」
「神崎君」
「こういうのは答えを知ってる奴に聞けばいい。隣の部屋にいるんだ、行こうぜ」
ごもっともな意見と共に、僕達は201号室へと向かう。
そこにはベッドで横になる四宮君の姿があった。
「おう四宮、ちょっと話があるんだけどよ」
ドスの効いた声で神崎君が問いかけると、彼は閉じていた瞼を開いた。
尋問が、始まろうとしている。
§
次話『許す精神と燻る感情』
黒崎君がキレるまで、あと二話。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます