第23話 プレゼントの送り主。

「と、言う訳なの……ノノンちゃんのリュックの奥の方に入ってたから、忘れてたっていうのは嘘じゃないと思う」


 帰宅するなり泣き叫ぶノノンがいて、日和さんと古都さんが彼女のリュックの中に入っていた物を僕に見せてくれた。ほぼ全ての物が未開封であり、スマートフォンに至っては起動すらしていないらしく、試しに通電してみると充電はゼロ%だった。


「二人ともありがとう。観察官である僕が確認すべきことだったのに。リュックか、完全に見落としてたな」

「けーま、ノノン、ごめっ、えぐっ、ごめんなさいっ、ひっぐ」

「……泣かせちゃってごめん、ノノンは何も悪くないよ」

「けーま、けーまぁ!」


 目を真っ赤にしてこんなに泣いて、そんなに怒られるような事してないのに。

 ノノンは僕に抱き着いたまま、ぎゅーっと離れようとしない。

 背中をぽんぽんしたあと、日和さんと古都さんにお願いして、彼女を引きはがして貰う事に。

 

「さて、このプレゼントだけど。誰から貰ったか、ノノン覚えてる?」

「ひっく……ちょっと、身体の大きい人」

「名前は?」

「ノノン、名前覚えっの、苦手」

「同じクラス?」

「うん」

「ファミレスでご飯食べた時に、隣にいた?」

「うん、スマホの、ヒック……ゲーム、見せてくれた」

 

 なるほど、上袋田かみふくろだか。

 二人も誰だか分かったらしく、各々リアクションを取る。


「アイツか」

「ごめん、私がファミレスに男子もOKにしちゃったからだ」

「お願いしたのは僕だよ、というか誰のせいでもないさ」

「凄い、ノノン、ヒック、まだ誰だか分からないよ、みんな、分かったの?」


 これだけアピールして苗字すら覚えて貰えてないって、男として可哀想な気もする。 


「黒崎君、これ、開けちゃっていい?」

「うん。中身見て、盗聴器とか盗撮とか、そういう機械がないか一応チェックしないと」

「OK、じゃあ開けるね。……おお、ネックレスだ」

「こっちはピアスだよ。3℃、えぇ!? 3℃ってあのブランドの!?」

「さすがに偽物じゃない? 高校生が買える値段じゃないよ」

「それを言ったらスマホだってそうだ。本体価格、中古でも九万円するよ」


 どれもこれも万単位、相当ノノンにお熱だったんだな。

 変なお金に手を出してなければいんだけど。


「ノノン」

「うん」

「貰ったのはこれで全部? 開けて使ったのとかない?」

「ない」

「本当? 全部返さないといけないから、後から出てきたら困るよ?」

「……ノノン、リュックの中、もう一回見てみる」

「あ、じゃあ私も一緒に見るよ。ノノンちゃん、一緒に見よっか」

「うん。ひより、ありがと」

「いいよ、それじゃ行こ」


 貰ってた事すら忘れてたんだ、中にまだ残ってるかどうかなんて記憶にないか。

 全部が本物だとして、大体総額二十万。ノノンって貢がせる才能はあるのかもしれないね。

 でも、そのせいで彼女は人生のどん底に行く羽目になったんだ、こういうのは止めさせないと。


「……で、どうするの?」

 

 古都さんがネックレスを手に持ち、僕に問う。 


「どうするって、上袋田君にこれは全部返すよ」

「それだけで彼の行動が収まるとは思えないんだけど」

「でも、言葉でお願いするしかないと思う」


 かかった費用が費用なだけに、彼も暴力的な態度を取るかもしれない。その暴力を僕が受け止めるしか、多分方法はない。むしろ、それで解決してくれるのなら、どうぞ殴ってくれって感じだ。


「……本当なら、男女の問題に他人は不要だと思うけど。ノノンちゃんじゃそういう訳にもいかないか。うん、分かった。明後日学校に行ったら流河先生にお願いして、しばらく私達二人でノノンちゃんの送迎してあげれないか、相談してみるよ」

「送迎?」


 茶に染めた髪を持ち上げて、ネックレスを首に当てる。

 古都さんの仕草って賭場の姉御って感じで、なんか無駄に様になってる感じがするな。


「教室から別教室の移動のさ。また上袋田の奴がプレゼント作戦に出るかもしれないだろ?」

「いや、そういうのは僕の役目だから」

「トイレの中にも潜んでるかもしれないだろ? ノノンと一緒にお風呂は入れても、学校のトイレはさすがに許されないぞ?」

「それはそうだけど…………え、ちょっと待って、今なんて言った?」


 古都さん、いじってた上袋田のプレゼントを置いて、僕の横に座って足を組んだ。

 目が座ってる、蛇に睨まれた蛙みたいに変な汗が体中から溢れるのが分かる。


「黒崎の変態」

「待って、本当に待って」

「私も全身洗って貰おうかな?」

「無理だから、僕捕まっちゃうよ」

「ノノンは洗ったのに?」

「ノノンを洗うのは認められてるの」

「だからって同世代の子とお風呂とか、ねぇ?」


 ずいずい迫ってくる、完全に玩具にされてる感じがするんだが。

 ソファの隅に追いやられてるのに、更にずいずい迫ってきて、古都さんの胸が当たる。

 硬い下着で頬にずいずいされている時に、リビングへと二人が戻ってきた。


「あれ? なんか古都ちゃんと黒崎君、仲良しになったんだね」

「あー日和っち、コイツ呼び捨てでいいってさ」

「へ? コイツって、黒崎君? あ、てゆーか、みんな名前で呼んでるんだから、私達も桂馬君って呼ぼっか。桂馬君もそれでいい?」


 日和さんの悪意のない笑みが心に刺さる。

 いや、僕は何も悪いことしてないぞ? 一体何が刺さってるんだ、何が。


「あ、あと黒崎、アタシ達今日泊まるから」

「……へ?」

「断らねぇよな?」


 ずんって腕を肩に置かれて、スリーパーホールド並みにぎゅっと首を絞められた。

 良い匂いだけど、古都さんの胸が、硬い下着が顔に当たって痛いです。


「ちょ、ちょっと待って、この家に入るだけでも申請が必要で、上限時刻が二十一時設定なんだ。だから急に泊まるとか言われても無理だよ」

「じゃあ、その上限を変えようか」

「出来るのかな……一回聞いてみないと」


 泊まる? そんなの聞いてないよ。そもそも男女混合の高校生だけのお泊り会なんて許されるはずがないと思うんだけど。うん、そうだ、渡部さんに連絡して、大人の力でダメって事にしてもらおう。そうすればこの姉御さんもご帰宅してくれるはずだ。


 そうと決まれば即連絡。

 三人が見守る中、スマホで渡部さんへと連絡してみる、すると。


『お、そうか。では、こちらから親御さんへと連絡を入れておくからな』

「え、宿泊OKなんですか。僕達高校生なんですけど」


 嘘だろ、速攻で許可が出たんだけど。


『高校生だが、黒崎君は青少女保護観察官として選定されている、国家権力に従事するものだ。既に保護者として認定されているも同義、普通の高校生とは訳が違う。もし、火野上君以外を相手にして間違いが発生した場合、問答無用で実名報道されるから、そこは気を付けるんだぞ? なに、全ては火野上さんの交友関係の為だ。友達と仲良くなるのにお泊り会は最適だと、我々も認知しているという事だよ。では、頑張ってくれたまえ』


 マジか。全てはノノンの為と言われれば、そうなんだけど。


「けーま、落ち込んでる? ノノン、いい子いい子する?」

「ノノン……今日、お泊り会出来るってさ」

「本当!? やったぁ! ノノン、ジャンガする! 日和! 古都! あそぼー!」


 ノノンが楽しそうにしているのなら、それでいいか。

 四人分のご飯もあるし、買ってきたお菓子とか飲み物もあるしなぁ。

 しかし、女子三人とお泊り会かぁ……気が重い。


§


次話『男女の友情。』

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