強い力

資山 将花

***

 これまで僕たちは、何があっても一緒だった。


 雨の日も風の日も、嵐の日も雷の日も、僕たちは離れなかった。もし、突然巨人が現れて僕たちを無理矢理引きはがそうとしても無理だっただろう。


 それだけ、僕たちが寄り添う力は強かったのだ。


 しかし、とある日。


 僕と彼女(仮にSとしよう)は離れることになった。


 それはまるで、不思議な力が僕たちの間に生じているかのようで、どれだけ近づこうとしても彼女は僕から離れていくばかりだった。


 全力で彼女に近づいた。すると、その全力の力分、彼女は勢いよく僕から離れていく。ある一定の距離まで、毎回毎回離れて行ってしまうのだ。


 一体、何が起きているというのか。


 僕は分からず当惑した。そして、泣いた。これまで僕の中に流れ込んでいた彼女の感触が、全くなくなってしまった。ただただ空気に触れ、そこにそれ以外の感触はない。


 何度も何度も彼女に近づこうと不思議な力に抗う僕を見て、彼女がある日言った。


「貴方に触れて私は変わってしまったの」


 僕はどうしてSがそう言ったのか分からなかった。彼女の何が変わってしまったのか、見当もつかなかった。


 僕が悪かったなら言ってくれ。Sのためなら直してみせる。


 僕は彼女にそう言ったけれど、彼女は何も言わずそのままじっとしていた。僕は彼女を抱きしめたい衝動に駆られたけれど、やはり結果は同じだった。


 この不思議な力の正体は何なのだろうか。


 それが分からないと、彼女に近づくことも出来やしない。


 そう思い立った僕は、彼女に力の正体が分かるまで待っていてほしいと告げた。しかしどうやら、Sの方は既に力の正体を知っていたようだった。


「貴方が貴方である限り、この力はどうにもならないの」


 どういうことだ。問い詰めても彼女の返答は不得要領だった。


「私がそうなったように……貴方に触れて変わってしまったように、貴方もまた変わらなければいけない。けれど、そうするにはあまりにも貴方の力は強すぎるの」


 何を言っているんだ、S。僕はそう叫んだ。


 僕の叫びを聞いた彼女はどこか悲し気で、少し苛立っているようにも見えた。


「私はもうSじゃない」


 そう言った彼女は、最後に一言付け加えて、僕のもとから自発的に離れていった。


「さようなら、N君」

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強い力 資山 将花 @pokonosuke

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