18章 帝都 ~武闘大会~  28

「しかしすげえ盾だな。ヨーザムの斧をあれだけ受けてもビクともしないなんてよ」


「そもそもあの盾を持てるのが信じられん。しかも片手で振り回してるからな。どんだけの腕力があるのか想像もつかんぞ」


「最後は結局一撃だもんな。あのメイスだってたいがいおかしいぞ。巨人が戦ってるみたいに見えるもんな」


「あれ多分、最後当ててから手加減して吹っ飛ばしてたからな。どれだけの実力差があるのか。とんでもない奴だなソウシってのは」


「おいおい呼び捨てはやめとけ。伯爵様だぞ」


「うぇ!? そうなのか?」


「ドラゴンを素手で倒して叙爵されたんだと。ただの噂だと思ってたが、今の見せられると、なあ」


 控室に戻るまでに、観客席のそんな会話が耳に入ってくる。試合の内容について盛り上がるのも闘技大会の大切な楽しみなのだろう。自分の話をされているのは非常にこそばゆいが、それについては多少は慣れてきた気はする。


 控室で『アイテムボックス』に武具をしまう。今日の俺の出番はこれで終わりだ。後は観戦させてもらおう。8試合目はカルマの出番もある。


 貴賓席に向かうと、廊下でモメンタル青年とすれ違った。特に会話もない。互いに会釈をするのみだ。


 やはり彼の姿には妙に違和感を感じる。『冥府の燭台』になんらかの術をかけられたりしているのだろうか? 


 メカリナンとアーシュラム教会の騒動の時は、『冥府の燭台』はどちらも権力者の側にいて、その野心を後押しするような形で協力をしていた。であれば今回も、『冥府の燭台』はファルクラム侯爵やモメンタル青年に仕える誰かになりすましているはずだ。だがそういった者も今のところは見つかっていないという。


 ともかくモメンタル青年がマリシエール殿下との結婚を求めているのであれば、基本的には優勝を目指してまっとうに大会には臨むはずだ。なので何かを仕掛けるにしても、モメンタル青年が試合に負けることをトリガーにしている可能性は高い。もちろんその場合、アンデッドを召喚することなどを想定して、帝室も冒険者ギルドも対策はしている。


 貴賓席に行くと、カルマをのぞく『ソールの導き』の全メンバーが迎えてくれた。


「自らも傷つかず、相手も傷つけず、まさにソウシさまの戦いでした」


「ありがとう。フレイニルの姿は舞台の上からでもよく見えたよ」


 とフレイニルの頭を撫でながら席に着く。


「ソウシ殿が負けるとは始めから思ってはおらぬが、あのように決着をつけるというのは面白かったのう。手加減の仕方も絶妙であった」


「まことに。相手の力を見切った上で十分に余力を残し、それでいて無駄に傷つけずに負けを認めさせるなど、やろうと思ってもできることではない。もっとも、それがしはそのような勝ち方をしようというソウシ殿のお心の方にむしろ感服いたすのだが」


 続いてシズナとサクラヒメが真剣な顔で褒めてくれるのもくすぐったい。俺は「その辺にしておいてくれ」と降参のポーズをとった。


「ふふふっ、恥ずかしがるところもソウシさんらしくて好ましいのですよ」


 スフェーニアはまだ陶酔したような表情を残していて、他の観客に見られたら勘違いされそうだ。


『闘技大会本選、1回戦第2試合を行う。虹竜の方角は「茨と戦乙女」のライエン! 本選出場2回、最高戦績本選1回戦。暁虎の方角は――』


 結局他のメンバーの誉め言葉も受け取りながら、仲間がいることに内心感謝をしたりしていると、次の対戦カードのアナウンスが始まった。


 眼下に広がる八角形の舞台に、魔導師風の若い男と、細剣を二刀流にした背の高い女が向かい合っている。なるほど客席からだとこう見えるのか。


『始めよ!』


 対戦が始まる。


 魔導師の男は距離を取って氷の槍魔法『アイスジャベリン』を連射する。やはり『先制』持ちのようだが、魔法を一斉に放つのではなく、1本ずつ連続で放っているのが面白い。


「あのような魔法の使い方があるのですか。勉強になりますね」


 スフェーニアも真剣な顔に戻ってしきりにうなずいている。


 一方で細剣使いの女は、『翻身』『疾駆』を巧みに使ってかわし、少しづつ距離を詰めようとする。もちろん魔導師の男は舞台を丸く使って距離を詰めさせない。彼も『疾駆』持ちのようだ。魔導師で『疾駆』持ちは珍しい気がするな。


 氷の槍の連射が止まり、女剣士が一直線に距離を詰める。『飛刃』を連続で放って牽制しているのは、相手に次の手をとらせないためか。


 しかし距離を十分に詰める前に、再び魔法の連射が始まった。中途半端に近づいたせいで女剣士はかわすことができず、細剣で飛来する氷の槍を切り裂いて落とし始める。マシンガンのような魔法をすべて防ぐのだから凄まじい剣技だ。


 しかしそこで魔導師が妙な動きに出た。自ら前に出ると同時に懐に手を入れて、そのまま抜き放つ動作をした。なんとその手には鞭が握られている。鞭の先端が女剣士の足に絡まり、一瞬の隙を作り出す。


 そこに殺到する『アイスジャベリン』。女剣士は防御スキルのおかげか貫かれることはなかったが、十数本の槍の直撃を受け、吹き飛ばされて動かなくなった。


『勝負ありッ!! 勝者、「茨と戦乙女」のライエン!』


 なるほどこれは面白い。前世で格闘系の試合は見たことがあるが、Aランク冒険者の技の応酬は、見た目のダイナミックさが別次元である。会場が盛り上がるのも納得できるな。

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