18章 帝都 ~武闘大会~ 29
3試合目は『睡蓮の獅子』のサブリーダーである槍使いのソミュール女史の試合だった。
彼女は槍の攻撃距離を延ばす『伸突』スキルと、動作の隙をなくす『翻身』、そして一度に複数の刃を発生させる『幻刃』スキルを用いて超高速の連続突きを実現し、最後にそれを放って勝利を収めていた。互いに勝ち残っていけば彼女とは3回戦で当たることになる。
また5試合目は、ファルクラム侯爵の子息のモメンタル青年が登場した。
彼は片手剣と盾というオーソドックスなスタイルで、斬撃を伸ばす『伸刃』、斬撃を飛ばす『飛刃』、高速移動の『疾駆』、慣性を殺して動作の隙をなくす『翻身』といった堅実なスキルを効果的に使って、着実に相手を追い詰めて勝利していた。
隙がない正統派の戦い方は俺の目にはかなり好ましく映ったが、彼は何か隠している技がありそうな気はする。なお、彼の母のファルクラム侯爵は、別の場所の貴賓席で彼の戦いを見ているはずだ。
ともあれ、俺としては二人とも槍や剣を扱う技術にも非常に長けているように見えたのが気になった。恐らくスキルによる技術だけでなく、正式な槍や剣の訓練を受けているのだろうと思われた。
その後試合は盛り上がったまま進んでいき、本日最後の第8試合となった。
「次はカルマか。まあ一回戦は勝てるわよね」
ラーニの視線の先には、オリハルコンの大剣『獣王の大牙』を肩に担いだ虎獣人のカルマがいる。八角形の舞台に上がると、カルマは一瞬だけこちらを振り返ってニヤリと笑った。
カルマの相手は同じ大剣使いの背の高い男だった。細く見えるが、鎧の下の肉体が非常に鍛えられれているのは遠目にもわかる。
『闘技大会本選、1回戦第8試合を行う。虹竜の方角は「黒翼団」のイデラ! 本選出場3回、最高戦績本選3回戦。暁虎の方角は「ソールの導き」のカルマ。本選初出場』
実績からすると相手はなかなかの強者のようだ。
カルマと対戦相手のイデラが、大剣の先を合わせて挨拶をする。その後距離を取って互いに構えると、
『始めよ!』
の声。
二人の戦いは、意外にも中距離からの『疾駆』を使った一撃離脱攻撃の差し合いから始まった。互いの位置がダイナミックに変化し、一瞬交錯するたびに凄まじい金属音が鳴り響く。
『伸刃』や『飛刃』をも使っての、剣士同士とは思えない、舞台全体を使った機動力抜群の戦いが展開される。
「う~ん、さすがに武闘大会に出てくる冒険者は強いわね。カルマとまともに打ち合えるって結構すごいかも」
「向こうの関係者も同じことを思っているかもな。そういえば闘技大会でも俺の『将の器』の影響は受けるのか?」
「多分受けてないと思うわ。ソウシと同じ戦場に立つ、みたいのが条件な気がするから」
「そうか」
まあその方がラーニもカルマもやりがいがあるだろうな。『将の器』の上昇率が本当に3割もあるのなら、それを使って勝っても彼女たちはもやもやしてしまうだろう。
さて、戦いはついに足を止めての打ち合いになった。互いにスキルを多用しすぎて体力が厳しくなったのかもしれない。『衝撃波』や『飛刃』、『疾駆』のような
純粋な剣の差し合いだが、大剣同士のそれなので恐ろしいほどの迫力がある。
今のところは両者の実力は拮抗しているように見える。しかし、数十合と剣を交えるうちに、徐々に差が出始めた。
「やっぱり目の良さと反射神経の差がでるわよね。私から見てもカルマの反応速度はすごいから」
ラーニの指摘通り、カルマの反応が明らかにイデラのそれを上回ってきた。イデラが剣を繰り出してきても、その剣がトップスピードになる前にカルマの『獣王の大牙』が弾いてしまうのだ。一方でそこから素早く反撃に移るカルマの攻撃にイデラは明らかに押され始めた。
さらに数十合、その差は決定的となり――
『獣王の大牙』が、イデラの剣をかち上げた。がら空きになった胴に、カルマが身をひねりながら水平の一撃を加える。
「参った……ッ!」
吹き飛んだイデラの脇腹はザックリと斬られていた。防御スキルがなければ胴体が切断されていただろう。
『勝負ありッ!! 勝者、「ソールの導き」のカルマ!』
カルマが『獣王の大牙』を振り上げて歓声に応える。
一方でイデラの元には係員が向かい、ポーションを使って回復させた。その一連の動きも素早く、対応に慣れているのが分かる。
「初出場でイデラを倒すってのは、またすごいのが現れたな」
「正面から斬り合って力押しで勝つんだから本物だわな。『ソールの導き』ってのは化物揃いなのか?」
「『睡蓮の獅子』に並ぶって噂は本当かも知れないな」
近くの観客席からそんな声が聞こえてくる。
ラーニが耳をピクピクさせて、「私もソウシとカルマに続くからね!」と息まいている。
俺は明日は休みになる。ラーニはもちろん、マリシエール殿下の戦いもしっかりと見ておかないといけない。
彼女の戦闘スタイルがどのようなものであるのか、それを見るのも非常に楽しみだ。
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