18章 帝都 ~武闘大会~ 23
翌日は16階からだ。
20階までは昨日と同じなので問題はない。20階のボス戦『オーガチャンプ』率いる軍団は、申し訳ないが俺の『衝撃波』で九割方を吹き飛ばさせてもらった。
メイスを振るたびに巻き起こるとんでもないスプラッターな光景は俺自身どうかと思ったが、精神系スキルのおかげかそれほどの精神的ショックはなかった。他のオーガたちとまとめてバラバラになる『オーガチャンプ』には、多少悪いという感情はあったが。
なお宝箱からは『王者の鉢巻』がドロップした。『不動+3』『鋼幹+3』というもので、少し悩んだが、『精霊』の強化を考えてシズナの装備とした。ものとしては単なる白い鉢巻で、シズナの黒髪には似合っていた。
さて21階からだが、広大なフロアに、ミスリル製岩人形の『ミスリルゴーレム』と、同オリハルコン製『オリハルコンゴーレム』、そして状態異常攻撃が嫌らしい影の獣『ナイトストーカー』がザコとして出現する。
武器が強力になったラーニ達前衛陣は、すでに『オリハルコンゴーレム』ですら易々と切り裂いていく。アンデッドの『ナイトストーカー』はフレイニルの真聖魔法『昇天』で一撃であった。
最下層25階の扉の前で小休止した後、扉を開けてボス部屋に入る。
出てくるのは『ダークデーモン』という、ヤギ頭の悪魔のはずだが――
「あれって両方レアボスじゃない? ラッキーね!」
ラーニが嬉しそうに言う通り、現れたのは2体の黒いヤギ頭の悪魔だった。王都のダンジョンで戦った時に『サタン』という仮名をつけたが、ギルドにてそれが正式名称になったはずだ。
「上級魔法に注意だな。フレイニルは『後光』で、ゲシューラは雷魔法で妨害してくれ。一体は俺がやるが、逃げ足が速いのでスフェーニアとシズナは足止めを頼む。もう一体は4人でかかってくれ。ラーニ達ならスピードでも負けないだろう」
指示を出して、俺は左の一体へと走っていく。『衝撃波』の射程に入ってくれればいいのだが、さすがにレアボスだと10メートルくらいは近寄らないと一撃必殺とはならないだろう。ラーニ達は『疾駆』スキル持ちで、特にラーニとマリアネのスピードは『サタン』よりも上だ。4対1に持ち込めば勝負は見えている。
俺が追う『サタン』は一定の距離を保ちながら炎の槍や岩の槍の魔法を連射してくる。近づかれることをかなり警戒しているようで、知能の高さがうかがえる。
しかし俺を警戒するあまり、スフェーニアとシズナ、そしてフレイニルの『範囲拡大』を使った魔法の範囲攻撃には十分対処できず、ダメージが蓄積されていく。遂には逃げ足がガクリと落ち、俺の『衝撃波』の射程から逃れられなくなり勝敗は決した。
一方でラーニ達は4対1で囲んで、常時優勢に戦いを進めていた。ラーニとマリアネというスピード型2人の連続攻撃の前に、『サタン』は魔法を放つ暇もない。もちろんカルマは重い一撃で、サクラヒメは踊るような連撃で『サタン』追い詰める。
そんな中マリアネが何度か斬りつけると『状態異常付与』スキルの『麻痺』が入り、『サタン』の動きが一瞬止まった。その隙を逃さずサクラヒメの薙刀『吹雪』が首を刎ねて、短くも激しい戦いは幕を閉じた。
「ふ~、Aランクのボスも数の差があると簡単に勝てちゃうわね。途中からちょっと可哀想になっちゃった」
「ウチは全員強いからねえ。ラーニとマリアネがスピード勝負で負けないっていうのは大きいよ」
獣人族二人がそう話している側でフレイニルが回復魔法をかけている。結果として楽に勝ててはいるが、やはり被ダメージなしというわけでもない。
「おお、スキルがきたようじゃ。Aランクのレアボス二体分のスキルは楽しみじゃのう」
シズナの言葉で、全員が静かにスキルの確認を始める。
俺は防御力アップの最上位スキル『神剛体』と、『誘引』の上位スキル『吸引』を得た。『神剛体』はそのままだが、『吸引』は発射されたあとの矢や魔法などを強引に自分に吸い寄せるという、とんでもないスキルらしい。俺の防御力と『不動不倒の城壁』とを合わせると、その効果は恐ろしいことになりそうだ。
フレイニルは上位の回復魔法『生命魔法』と、『二重魔法』の上位スキル『多重魔法』を得た。『生命魔法』は欠損部位の再生までできるようになるらしく、これを使える冒険者は大陸でも5人くらいしかいないらしい。『多重魔法』はそのまま、魔法を何重にも同時発動できるようになるスキルで、やはりこれを持つ魔導師は数が少ないとか。もちろん発動数が増えると消費体力が跳ね上がるので好きに使えるスキルではないが、それでも戦力の上り幅は非常に大きい。
ラーニは『金剛体』と、『疾駆・瞬』という2つの上位スキルを得られて上機嫌だ。スピード型アタッカーである彼女の防御力と瞬発力が上がるのは非常に好ましい。特に怪我をする率が一番高いので、俺としては彼女が『金剛体』を得たのは嬉しく感じるところだ。
スフェーニアは『範囲集中』と『消費軽減・大』というスキルを得た。『範囲集中』は魔法を一点に集中させることで破壊力を高めるスキルとのこと。特に防御力の高いボスなどに有効になるだろう。一方『消費軽減・大』は魔法使用時の体力消費を大幅に抑えるスキルだが、これもスキル重ね掛けで魔法を放つことが多いスフェーニアには価値のあるものだ。もはや大魔導師と言ってもいいスフェーニアだが、さらに実力が伸びるだろう。
マリアネは『急所撃ち』の上位スキル『急所
シズナが得たのは『火属性魔法・上級』と『精霊共鳴』の二つ。『火属性魔法・上級』はそのままだが、ついに上級魔法を得たと本人はかなりご満悦の様子だった。しかしさらに喜んでいたのが『精霊共鳴』で、なんと呼び出せる『精霊』の数を増やせるスキルらしい。とりあえず今のところ追加は1体のみだが、後衛の守りとして『精霊』は非常に有用なので、この強化はパーティとしても大きい。
カルマは『鋼幹』の上位スキル『金剛幹』と、『
サクラヒメは『金剛体』と『大切断』という2つの上位スキルを得た。彼女はすでに斬撃を増やす『幻刃』、連続攻撃によって攻撃力が上がる『舞踏』というかなり特殊なスキルを持っているが、今回の『大切断』取得によって攻撃力がさらに跳ね上がった。これで彼女は間違いなくAランクの実力を得たと言っていいだろう。
ゲシューラについては相変わらず明確なスキル獲得はなかったが、やはり魔法的な力が上昇したような感触はあるという。折角のダンジョン踏破が無駄にならないのはリーダーとしても安心できるところだ。
転送部屋に向かう途中で、マリアネが俺のところに来て、
「これで『ソールの導き』は、Aクラスダンジョンを2つ踏破したことになります。これも非常に珍しいことですので、ソウシさんは承知しておいてください」
と助言をしてくれた。
「それはまた宴会とかになるのか?」
「いえ、帝都のAクラスダンジョンは踏破者はそれなりにいるので、そうはならないでしょう。ただしギルド内の『ソールの導き』の評価はさらに高まります」
「思いあがるつもりはないが、今以上に評価が高まっても対応は変わらいんじゃないか?」
「確かにそうかも知れません。ただAランクより上のランクになる、その理由の一つにはなるでしょう」
「そういえばそんな話もあったな。できればマリシエール殿下が先になってもらえると助かるな。帝国としてもその方がいいニュースになるだろうし」
「グランドマスターは、今度の武闘大会でなにか仕掛けるつもりのようです」
「ああ、タイミングとしてはありそうだな」
すでに『英雄』などと持ち上がられている俺だが、公式にはそれなりに数のいるAランク冒険者の一人でしかない。しかしそれがAランクの上のランクになれば、さらに名が知られるようになるのは間違いない。
名が知られること自体はすでに半ば諦めていることではあるが、自分としては積極的に有名になりたいとも思っていないので、微妙な心持ちになる話ではある。ラーニやカルマなら「これで伝説の冒険者に近づいた」とかいって喜びそうではあるが。
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