18章 帝都 ~武闘大会~  22

 翌朝、朝食の時心なしか『ソールの導き』のメンバーがそわそわしていたように見えたが、その後は特に変わったこともなく、その日一日はゆっくりと休むことができた。


 明けて翌日、再度Aクラスダンジョンに挑戦をした。


 15階までを一日で一気に踏破するということで、5階と10階のボス戦は俺の『衝撃波』で瞬殺した。それぞれ3体ずつのボスだったが、メイス3振りで3体のボスが潰れて吹き飛ぶ様には、『ソールの導き』のメンバーも苦笑いをするしかなかったようだ。実際には数名とろけるような顔でうっとりしていた気もするが、怖がられるよりははるかにマシだろう。


 15階の霊体型ボス『エレメンタルフェニックス』はスフェーニアたちに魔法で蹴散らしてもらい、その階のセーフティーゾーンで一泊をした。


 夕食を食べ終わり、各自テントの内外で自由に過ごす時間となる。


 トランプの他にリバーシも試作しているほか、帝都で流行っているという前世のバックギャモンに似たボードゲームなども買ってあるので、ラーニやカルマ、スフェーニアやシズナなどはそれらに興じている。ゲシューラはこんな時でも魔道具を取り出して熱心にいじり回していて、それをサクラヒメが興味深そうに眺めていたりもする。


 俺はコンロ型魔道具の前で湯沸かし番をしていたが、フレイニルが俺に寄りかかってうつらうつらとしはじめた。『アイテムボックス』から毛布を出してその肩にかけてやっていると、テントからマリアネが出てきて俺の隣に座る。


「ソウシさん、少しいいでしょうか?」


「どうした?」


「しばらく考えていたことなのですが、帝都に家を買ってはいかがでしょう」


「家?」


 いきなりの提案に俺は少しばかり声を大きくしてしまった。離れたところで遊んでいるラーニとカルマの獣人族ペアの耳がピクッとしたのが見える。


「武闘大会まで2カ月ほどありますし、宿に泊まるより、中古の物件を買って住んだ方が都合がいいような気がするのです」


「帝都に中古物件なんてあるのか?」


「ええ。貴族や商人というのは動きがそれなりにあるものですから、我々が全員住めるような大きな物件もいくつかあると思います。ソウシさんは帝国の伯爵ですから、買う許可も簡単に下りるでしょう。むしろ喜んで買ってくれと言われるほどだと思います」


「……そういうものだろうか」


 少なくとも皇帝陛下は俺との関係を保ちたいと考えているようだから、マリアネの言う通り俺が帝都に家を買うのは喜ばしいことになるだろう。ただ俺の場合、権力者にとっては特大の爆弾みたいな側面もある。単純に考えることはできないとも思う。


 もっとも、それならば俺たちにとってのメリットだけで考えればいいことだ。


「家を買えば財を投下することにもなりますし、それに将来的にも必要になると思います。ソウシさんが今後帝国領内の領主となったとしても帝都に家は必要ですから」


「確かにそうか……。いや、今のところ領主とかは考えてないけどな」


「なになに、なんか面白そうな話?」


 耳聡みみざとく聞きつけたラーニ、カルマ、スフェーニア、シズナたち4人がやってくる。俺に寄りかかっていたフレイニルも目を覚ましてしまったようだ。


「帝都に家を買ったらどうかという話が出たんだ。武闘大会まではまだ長いし、中古の家を買って住んだ方が都合がいいんじゃないかって話さ」


「へえ、それいいんじゃない! やっぱりキチンと自分の部屋とかあった方が気が楽だしね。高級宿は楽なんだけど、ちょっと肩がこるのよね」


「そうだねぇ。獣人族はやっぱり自分のナワバリみたいなのが欲しいって感覚はあるからね。ワタシも家を買うのには賛成だよ」


 ラーニとカルマは互いにうなずき合っている。


「しかし家で生活するとなると色々自分たちでやらなきゃならないぞ。野営で慣れてるといえば慣れているが、洗濯とか掃除は面倒ってことはないか?」


 元庶民の俺としてはやるのが当たり前のことだが、この世界では、特に貴族はそうではない。『ソールの導き』も高級宿に慣れてきているので、そこは確認しないとならないだろう。


 と思って聞いたのだが、スフェーニアやシズナに首をかしげられてしまった。


「ソウシさん、大きな家を買うのであれば使用人を雇うのが普通ですよ。ソウシさんは伯爵なのですから、ご自分で掃除をするということはありえないと思います。そういう風に考えないところがソウシさんらしくて好きですけど」


「そうじゃの。ソウシ殿はソウシ殿しかできないことをしなければならぬしの。それに人を雇うのも上に立つ人間としては大切なことであるからのう」


「ああそうか……、勉強になるよ」


 なるほど2人の言う通りだ。やはりこのあたりの感覚を更新していくのは俺にとっての急務かもしれない。前世で言えば管理職、いや社長とかの感覚になるのか。


「マリアネ、家を買うとして、まずはどこに相談すべきだ? 貴族である以上勝手にやるわけにもいかないと思うが」


「グランドマスターに相談しましょう。グランドマスターも爵位持ちで帝都内に家を持っていますのでお詳しいと思います。使用人関係もそちらで聞くことができるでしょう」


「じゃあ戻ったら相談してみよう。と、その前に、全員賛成ということでいいか?」


 いつの間にか俺の周りに全員集まってきていたので、一応確認を取る。


 サクラヒメは「それがしに異論はござらん。とても良いことだと存ずる」とのことで、ゲシューラは「我にとってもありがたい。やはり魔道具の研究にアトリエは必要だからな」と全面的に賛成の様子だった。


 フレイニルは寝起きでまだ少しわかってない感じだったが、説明をすると、


「家をお買いになるのは賛成です。ただソウシさまが本当にお住みになるのは帝都ではない気もいたします。ソウシさまにはもっと相応しい、約束された地があると思うのです」


 となぜか祈りのポーズ付きでそんなことを言われてしまった。


 そんな大層な地が俺を待っているかはともかく、どうやら帝都に家を買うのは満場一致で賛成となるようだ。


 しかし家か。まったく考えていなかったが、言われてみれば家を買うという選択は悪くない。


 その上、家を買うとなったら楽しみになってくる自分がいるのも確かであった。つくづく庶民だなと思わずにはいられないが、皆も楽しそうなのでこの辺の感覚は生まれや育ちはでは変わらないのかもしれないな。

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