18章 帝都 ~武闘大会~  20

 大休止のあと、俺たちはさらに地下10階を目指した。


 ザコである大鬼の剣士『オーガアデプト』、巨大猪の『ティタノボア』、そして小型ドラゴンの『スモールドラゴン』を難なく蹴散らして、ボス前扉までたどり着く。


 なお『ティタノボア』の高級肉大量ドロップに獣人2人+ハイエルフ1人が喜んでいたのは言うまでもない。


 ボスの巨大氷属性トカゲ『フリージングリザード』3体も問題なく討伐。ここではスフェーニアとシズナの『火属性魔法』が猛威を振るった。


 宝箱3つはすべて『エレメンタルシルク』。先ほどの話もあって再び微妙な空気が流れ、俺は『悪運』の意地悪い笑みを見た気がしてならなかった。


 Aクラスダンジョンを1日で10階層突破という荒業を終え、セーフティゾーンで野営の準備をする。他のパーティがいないのは、帝都でもAクラスダンジョンに挑むパーティは少ないからだろう。


 テントを建てたり風呂を用意したり衝立で仕切ったりと、いつもの『ソールの導き』式野営が快適なのはいわずもがなだ。実は帝都の寝具屋に行き、高級なベッドまで買ってしまっていたりする。


 テントを覗き込んでいたシズナが、


「ダンジョンのなかでこれほど豪華なベッドで寝られるというのは素晴らしいのう。明日には完全に回復した状態でダンジョンに挑めるというのは我らの大きな優位点じゃ」


 と感心の声をもらしながら俺のところに来た。


「ソウシ殿はああいった風呂や寝具といったものにこだわっておるようじゃが、何か思う所があるのかのう」


「ただ快適に過ごしたいと思っているだけさ。リフレッシュや睡眠は翌日の体調に大きな影響を与えるからな」


 前世の生活を少しだけ思い出してそう言うと、実感がこもって聞こえたのだろうか、シズナは深くうなずいた。


「まっことその通りじゃ。オーズでも寝ることにはかなりこだわっておる。オーズの布団ももって来るべきじゃったかのう」


「シズナはやはり布団の方が落ち着くか? テントの中に畳を敷くのもいいかもしれないな。またオーズへは行く時があるだろうから、その時用意しよう」


「うむ。しかし次に母上の元に戻った時は、何を言われるか分からんのがのう……」


「もうAランクになるのは確定しているんだ。大手を振って帰れるんじゃないのか?」


「そうなのじゃが、恐らく母上はそれ以外のこともわらわに望んでいるからの。ソウシ殿はなんぞ聞いておらんか?」


 そう言いながら、シズナは俺の方をじっと見てくる。


 いまさら言うことでもないが、彼女は和風の黒髪も美しい美少女である。しかも彼女の母堂……大巫女であるミオナ様からははっきりとめとることを打診されている。さらに今の言い方だと彼女自身もそれを察しているようだ。


「……実は聞いてなくもない。もちろんそれには答えてはいないが」


「やはりのう。ソウシ殿は『精霊女王の使徒』様であるし、母上の考えも分かるの」


「まあ、それについてはシズナの意志を尊重するつもりだ。そもそも俺は『使徒』でもなんでもない。シズナが気に病むことはない。俺はパーティのリーダーだし、シズナがしたいことを後押しはできると思うぞ」


 正直彼女の気持ちについても測りかねるところがあるので、俺としてはそう答えるしかない。


 どうやらその対応でよかったらしく、シズナはホッとしたような、嬉しそうな顔をした。


「さすがソウシ殿じゃ、わらわの気持ちをわかってくれておるのう。なら安心じゃ。その時が来たなら、オーズには大手を振って帰ることとしよう」


 シズナはそう言っていきなり俺の胸に抱き着いてきたかと思うと、額のツノを思い切りグリグリと押し付けてから、テントの中に入っていってしまった。


 いや今のはいったいどちらの意味なんだろうか。俺にはやはり測りようもないので、誰かに聞いてみようと周囲を見回すと……フレイニルがなぜか悲しそうな顔をしていたので、俺は慌ててそちらのフォローに入るのだった。




 翌日は一気に地下20階までを踏破した。


 15階のボスは『エレメンタルフェニックス』という、炎が巨大な鳥の形をとったようなボスだ。王都のダンジョンではレアボスが出たが、今回は通常ボス3体だった。物理が効きづらいモンスターだが、名付きの短杖『ビフロスト』で強化されたスフェーニアと、シズナ、ゲシューラの魔導師組の氷魔法でほぼ片がついた。


 宝箱は狙ったように『エレメンタルシルク』が出たが、一つは『エリクサー』も出た。大きな戦いの前にラッキーなドロップだ。


 20階のボス戦は、やはり上半身裸の格闘家系『オーガ』の大軍だ。『オーガチャンプ』をボスにして打撃系の『オーガストライカー』、組技系の『オーガグラップラー』が全部で150体ほど現れた。


 とはいえ多分俺が『衝撃波』を放つと、それだけで半分は吹き飛ばせそうだ。


「ソウシさん、またあの戦いを見せてください」


 というスフェーニアのリクエストがあり、俺は再び『オーガチャンプ』と一対一の素手勝負を行った。赤銅色の肌の大鬼相手に素手で殴り合うという、およそダンジョン攻略中とは思えない戦いだが、俺としても嫌いではない。


 今回は打撃の応酬の後つかみ合いにはならず、ローキックで沈んだところを顔面への正拳突きで勝負がついた。


 スフェーニアはハイエルフがしてはいけない表情になって俺を見ていたが、たまにはそういう楽しみもいいだろう。


 ちなみに宝箱からは『王者のふんどし』という、大変困ったものが出てきた。『剛体+3 鋼幹+3』というかなり強力なものなのだが、さすがにこれをつける勇気は俺にもない。もしかしたらふんどしとして使わなくても効果はあるのかもしれないが……。


「これならオーズの男衆なら喜んで身に着けると思うがのう」


 というシズナの言葉によって、『王者のふんどし』はオーズにもっていくことが決定した。


「さて、2日でここまで来られるのは分かったな。これなら25階まで2日で行けそうか」


 俺が確認をすると、マリアネがうなずいた。


「1日目で15階まで行ければ可能だと思います。5階と10階のボスは物理型なので、ソウシさんが本気を出せば一瞬で片がつくでしょう。2日目も20階はさきほどの通り問題なく倒せますし、25階もデーモン系で物理攻撃が通用しますので大丈夫かと思います」


「だな。よし、今日は一旦地上に戻ろう。明日は一日休みにして、翌日またこのダンジョンに潜る。それでいいか?」


 俺が聞くと、全員が力強くうなずいてくれる。Aクラスダンジョンを一泊二日で踏破しようというのはブラックを通り越してもはや暗黒の領域だが……まあこれも『ソールの導き』としては今更か。

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