18章 帝都 ~武闘大会~  06

「いやソウシさん、さっきは失礼な態度をとって済まなかったな。まさか噂以上の人とは思わなかったわ」


 戦いのあと、『悪魔』の魔石を回収して街道を歩きはじめると、ジェイズはそんな風に頭を下げてきた。


 彼らもAランクとしてプライドがあるのだろうが、俺が知っている高ランクの冒険者は人格者が多い気がする。


「さっきも言いましたが信じられないのは当然ですよ。自分だってあの力はと思いますから」


「そんなレベルじゃねえと思うんだがなあ。しかもあのメイスと盾、なんだあれ。あんなの俺じゃ持つことすらできるかどうか怪しいぜ」


「確かに人を選ぶでしょうね」


「ああいうのは人を選ぶって言わないんじゃねえか」


 頭をかきながら苦笑するジェイズには、先ほどまでのいぶかしげな様子はみじんもない。百聞は一見に如かずとはよく言ったものだが、あの二つの武具の見た目の説得力もあるのだろう。。


「しかしソウシさんが出るとなると、これはもう武闘大会の決勝は決まったようなもんだなあ。どう考えても勝てる気がしねえってのは、マリシエール殿下以外じゃ初めてだぜ」


「それは光栄ですね。しかしマリシエール殿下もそれほど隔絶した力をお持ちなんですね」


「まあな。その辺はグラマスの方が詳しいと思うぜ。あの人のためにAランクの上を作ろうなんて話もあるくらいだからよ」


 その話は以前にも出ていたような気がするな。


 しかしマリシエール殿下もそれほど強いとなると、自分との近似性を感じなくもない。もしかしたら彼女も『天運』スキルの持ち主、などということがあるのだろうか。


「グランドマスター、もしやマリシエール殿下も……」


「ああいや、彼女は違うよ。別の特異スキル持ちなんだ。詳しくは言えないが非常に強力な奴でね。もちろん彼女自身も努力家だし、その相乗効果で彼女は帝国最強の冒険者と言われているのさ」


「なるほど。そういった有名な方がどのくらいの力を持つのかが見られるのは楽しみですね。武闘大会にはほかにも高名な方が複数出場されるでしょうし」


「『ソールの導き』のメンバーで上位を独占してもおかしくないんだけどね」


 ドロツィッテ女史の口元に浮かぶのは皮肉か苦笑か、そこは判然としなかった。


 自分たちが強いというのは自覚はしているところだが、それでもいろいろと特殊過ぎて正当な評価が難しい。帝都でそれが知れるのはありがたいことかもしれない。




『ポーラードレイク』と共に歩くこと更に3日、街道はさらに道幅を増し、石畳の上を行き交う人の量も非常に多くなった。この世界に来てから車道と歩道が分かれている道を初めて見た。


 街道が緩やかにカーブし北へと針路を変え、そこから歩くこと2時間ほど。街道の先に、遂に壮大な規模の城塞都市が姿を現した。


『帝都プレイオーネ』、それが眼前に横たわる都市の名前である。


 まず目に入るのは、東西に連なった長大な城壁。遠くから見ても端が見えないというのだから驚きだ。


 その高い城壁の向こうには多くの建物が並んでいる。城壁自体が高さ10メートルはありそうなので、それより高い建物が無数にあるわけだ。初めて上京して高層ビル群に腰を抜かした前世を思い出す。


 都市の中心あたりは土地が盛り上がっているらしく、緩やかな丘に多くの白い建物が連なっている。それらはいずれも大邸宅と見え、いわゆる帝国の貴族が住む場所なのだろうと見てとれた。


 そして当然ながらその中心には、白亜の巨城が燦然さんぜんとそびえていた。周囲の建物を圧してたたずむその城は、まるで翼を広げる鳥のように左右対称で、計算されつくされた美を誇っている。天をすいくつかの尖塔は前衛芸術を思わせる特異な形状をなしており、帝国の建築技術のすいがそこにあるのだと見るものに強烈な印象を与えるものであった。


「これは息を飲むような景色だな。さすが大陸一の都市だ」


「すばらしい街ですねソウシさま。あのように立派なお城は見たことがありません」


「まったくだ。どれだけの時間と手間と金と力と人口があればこの都市ができるのか。それを思うと気が遠くなるな」


「ソウシさまならきっと同じくらいの街を治められるようになると思います」


「ははは……。まあ無理という以前にそんな気もないけどな」


 フレイニルの言葉は好意から発せられているのだろうがさすがに無茶が過ぎる。


 俺がその頭をなでながら苦笑いをしていると、ラーニが尻尾を振りながら後ろからやってきた。


「ところでソウシ、帝都に入ったらとりあえずなにをするの? 武闘大会ってまだ先でしょ」


「まずは皇帝陛下に挨拶に行かないとならない。帝都に来た一番の目的は皇帝陛下にゲシューラを会わせることだからな。それからドラゴンを献上をする話もあるし、恐らくその件でまた褒賞をいただくことになるだろう。それらの合間に帝都の観光をして、Aランクダンジョンにも挑戦して、それから武闘大会という感じかな」


「う~ん、なんか色々あるわね。どっちにしろ最初は自由に動けないってことか」


「俺たちが普通の冒険者ならよかったんだけどな」


「伝説の冒険者になるのも簡単じゃないわね」


 ラーニの冗談はともかく、俺たちが普通の冒険者でない以上、多少の面倒はもうどうしようもない。


 しかし遠くに見えるあの絶大な権力の象徴みたいなところに行かなくてはならないというのは、どうにも下腹に悪くて困る。


 ヴァーミリアン王国の王城に入る時も相当なストレスを感じたが、ここではその数倍のストレスを感じることになりそうだ。


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