18章 帝都 ~武闘大会~ 04
ザンザギリアムを発って4日目、帝都に近づくにつれて街道をゆく人が増えてゆく。
道行く馬車の中にはかなり高級仕様のものも目に付くようになるが、このあたりはヴァーミリアン王国でも同じであった。やはり首都に富が集まるのはどの世界もどの国も同じであるらしい。
さらに広くなった街道を歩いていると、道端で休んでいる冒険者パーティがいた。
男3人女2人のパーティで、武器や盾はオリハルコン製に見える。魔導師職と思われる女性2人が持っている杖も立派なもので、一見して高ランクと分かる一団だ。
特にリーダーと思われる壮年の男性はカルマの『獣王の大牙』にも劣らない
俺たちが前を通り過ぎようとすると、そのリーダーの男性が声をかけてきた。俺より頭半分以上背の高い堂々たる
「いきなりすまん、俺たちは『ポーラードレイク』ってパーティなんだが、お前さん達も冒険者だよな? アンタがリーダーか?」
「ええそうです。我々は『ソールの導き』と申します。私がリーダーのソウシです」
「こりゃずいぶん丁寧な奴だな。オレはリーダーのジェイズ、いきなり声かけて悪いな」
「いえいえ。ジェイズさんたちも帝都へ向かうところですか?」
「ああそうさ。武術大会に出るつもりが前の仕事が長引いちまってね。急いで向かってるところなんだ。しかし『ソールの導き』ね。どこかで聞いたことあるな」
ジェイズが首をひねると、『ポーラードレイク』の魔導師、妖艶な雰囲気の女性が口を開いた。
「ジェイズ、あれじゃない? 王国の英雄で、この間ドラゴンを素手で倒したっていう噂の男」
「んあ? ああ、あの与太話か。って悪ぃな、悪口言ったつもりはないんだ。ちょっと信じられない話でよ。それよりそのソウシさんでいいのか?」
「ええ、そのソウシですね。ドラゴンを倒したのも事実ですが、信じられないというのも分かりますよ。私だって話だけ聞いたら絶対に信じないでしょうね」
「だよな。しかしその言い方だと本当みたいだな。ん? ってことはソウシも武闘大会に出るつもりなのか?」
「ええ、そういうことになってしまいました」
と答えながら、チラとドロツィッテ女史を見る。彼女はよそ見をしたが、口の端が笑っているのは隠せない。
「そうかい、そりゃ楽しみだ。しかし『ソールの導き』はずいぶんと人数が多いうえにすごいパーティだな。んん? そっちの美人はどこかで見たことあるな……ってグランドマスターじゃねえですか!?」
「おや、バレてしまったか。『ポーラードレイク』はずいぶんと頑張っているみたいだね。今回はグルファクト領で『悪魔』騒ぎにでも巻き込まれたのかい?」
ドロツィッテ女史が歩いてくると、偉丈夫のジェイズが半歩ほど後ずさった。休んでいた『ポーラードレイク』のメンバーも一斉に立ち上がる。
もしかして彼女は帝国の冒険者には恐れられてたりするのだろうか。
「その通りなんですけどね、なんでグラマスがここに?」
「例のドラゴンをちょっと確認にね。おかげでこのソウシさんが素手で倒す瞬間を見られてラッキーだったよ」
「いや、ええ、本当にマジなんですかい……。それはともかくグラマス、『悪魔』の数がだんだん増えてるのは確実ですぜ。しかも前より質も量も上がってて、Dランク以下だと被害がバカにならねえです」
「そうか、ジェイズが言うなら間違いはないだろうけど、帝都に戻ったら確認は取ろう。ただ今以上の対策は難しいな。武術大会で高ランクが帝都に集まるのはやはり良くなかったかな」
「まあでもやらねえってわけにもいかんでしょう。この日のためにやってきてる冒険者も多いですからねえ」
「そうなんだけどね。ま、『悪魔』の情報を集めて冒険者の間で共有するだけでも大分違うだろう。帝都に行ったら詳細に報告をしてくれたまえよ」
「わかりましたぜ。ところでグラマスはなんで『ソールの導き』と一緒にいるんです?」
「彼らはかなり特別なパーティだからね。ソウシさんは王国伯爵でもあるから、帝室にとっても大切なお客さんなのさ」
「貴族様なんで? うへ、そりゃ失礼しました」
「君たちだってこのまま活躍を続ければ叙爵もなくはないと思うけどね」
「そりゃちょっとガラじゃねえって話はしてるところでさ」
どうやら『ポーラードレイク』はドロツィッテ女史の信が
Aランクパーティ自体数が少ないので必然的にどのパーティも扱いは重くなりがちだろうが、やはりその中でも差はあるはずだ。
むしろFからAランクの差より、Aランク同士の差の方が大きいという可能性もある。もっともこれについては鏡を見ろと言われそうだが。
そんな感じで話をしているうちに俺たちも小休止状態になってしまったが、そろそろ切り上げて先に進もうかと思っていると、フレイニルが早足で俺のところにやって来た。
「ソウシさま、この先でなにか邪な気配を感じます。『悪魔』かもしれません」
「それはマズいな。街道には人も多い。距離はどれくらいだ?」
「あちらの森の中です。ちょうどあの大きな木があるあたりな気がします」
フレイニルが指差したのは、街道の南に広がる森の中だ。確かに背の高い木が一本だけ突き出ていて、しかもそれは森に入ってすぐのところに生えている。森自体は街道から100メートルほど離れているが、もしあそこに『異界の門』が開いたのなら、『悪魔』はすぐに街道へと迫ってくるだろう。
「分かった、ありがとう。急いで行ってみようか」
「なにか不穏な話みたいだけどどういうことかな」
俺が皆に戦闘準備の指示を出すと、ドロツィッテ女史が少し驚いたように聞いてくる。
「フレイが『悪魔』の気配を察知しましたので、現場に向かいます。グランドマスターは後から来てください」
「そういうことなら一緒に行くよ。しかしフレイ君にはそんな力があるのかい?」
「ええ。今まで外したことはありません」
「へえ……」
ドロツィッテ女史の感心したような態度を見て、フレイニルの『聖者の目』という特異スキルが地味ながら非常に有用であると再確認する。間違いなく『ソールの導き』の活動において重要な位置を占めているスキルである。
「『ポーラードレイク』も動けるかい? 『悪魔』が出るそうだよ」
ドロツィッテ女史に声をかけられると、ジェイズは怪訝な顔をした。
「それが本当ならもちろん出ますが……」
「彼らの力は本物だよ。見ておくことを勧める……いや、ジェイズたちは見ない方がいいかもしれないなあ」
などと思わせぶりなことをドロツィッテ女史が口にするので、逆にジェイズたちも行く気になったようだ。
「先に行きます」
と声をかけ、俺たちはフレイニルが指示した場所に向けて走り出した。
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