17章 帝都への長い道  35

 鉱山ダンジョンの深層付近。


 盾を持ちながら先頭を歩く俺の前に、うっすらと金色に光る鱗を持つ大蛇が現れた。『オリハルコンバイパー』という、非常に硬く魔法防御力も高いAランクのモンスターだ。


 当然のように10匹以上が奥からにじりよってくるのだが、正直そこまでの迫力はない。『カオスフレアドラゴン』などと比べるとミミズが這ってくる程度のものだ。


「ソウシさんだと相手にならないだろうから、アタシらがやるよ」


 ということで、フレイニルの『神の後光』のあとにスフェーニアとシズナが魔法を放ち、あとは前衛組が暴れまわればあっという間に全滅である。戦女神という呼び名も納得というものだ。


 ドロップ品はやはりオリハルコンのインゴットだった。実際の需要が少ないとはいっても希少金属、その価値は同量の金を凌ぐ。ただ俺たちが本気で集め始めたら希少価値が減りそうだが。


 その後も『オリハルコンバイパー』や『オリハルコンゴーレム』を駆逐しながら進んでいく。さすがの俺も『アイテムボックス』の負荷が気になるくらいになった時、目の前に重厚な金属製の扉が現れた。


「ありゃ、どうやらボス部屋まで来ちまったみたいだね。強さのわりにうまみがないってんで誰も戦いたがらないらしいんだけど、ソウシさんは戦うだろ?」


「そうだな。折角だし戦うか」


 ボス部屋は非常に広い空間だった。サッカーコートくらいはあるだろうか。


 黒い靄のなかから現れたのは、全身が金属で覆われた巨大なサイのようなモンスターだ。ダンプカーほどの大きさがあり、鼻先のツノはドリルのように表面が螺旋状になっている。


 名前は『オリハルコンホーン』だったはずだが、漆黒の外殻は明らかにオリハルコンの色ではない。


「どうやらレアボスみたいだな」


「ソウシさんのスキルは絶好調みたいだねえ。まあそれならお宝も少しは期待できるかもね」


「とりあえずちゃちゃっとやっつけちゃいましょ」


 カルマが嬉しそうに大剣を構え、ラーニが刃に火属性の付与をする。


「よし、フレイニルは『後光』を。いつものように俺が正面から受け止めるからあとは頼む」


「はいソウシさま」


「了解っ!」


 俺が『不動不倒の城壁』を構えて前に出る。


『レアメタルホーン(仮)』は見た感じ突撃を得意とするボスだろう。俺とは相性がいいタイプのはずだ。


『誘引』を発動すると、レアメタルホーンの赤い目がこちらを向いた。


 と思った瞬間、漆黒の巨体が目の前に迫っていた。この巨体で高レベルの『疾駆』スキルを使った突進とは、初見殺しもいいところだ。


 ギリギリ盾を構えるのが間に合った。しかし体勢が不十分だったためか、俺の身体が10メートル以上も押し込まれた。『プリズムドラゴン』の尻尾の一撃を超える打撃力だ。間違いなくAランクのレアボスだろう。


 レアメタルホーンは動きを止めず、『不動不倒の城壁』をかちあげるようにドリルのようなツノを何度も突き込んでくる。


「『後光』いきます!」


 フレイニルが叫び、弱体化したレアメタルホーンの背中に炎の槍が雨のように降り注ぎ、地面からは炎柱が吹き上がる。


 キィィィンッ!


 金属音のような叫び声をあげるレアメタルホーンに、ラーニ、カルマ、マリアネ、サクラヒメが斬りかかる。狙いは4本の足だが、カルマの『獣王の大牙』ですら一撃では切断できない。


 キィアァァッ!


 レアメタルホーンの角が鋭い光を帯びた。危険な攻撃の予兆。俺はメイスをそのツノに叩きつけようとした。


 一瞬遅かった。光が一気に強まったかと思うと、落雷の轟音が鳴り響き、全身にビリッと衝撃がきた。ツノから強烈な電撃が発せられたようだ。


 しかし結局は少し痺れただけだった。たしかに強烈な電気ショックだが、俺にとってはそれだけだ。耐性スキルとアクセサリのおかげだろう。


「ソウシさま!?」


「問題ない!」


 俺は再度メイスを振るった。レアメタルホーン自慢のツノは圧倒的な破壊力によって液体のように爆散する。


 キエェェッ!?


 悲鳴をあげて後ずさるレアメタルホーン。


 隙を逃さずラーニたちが再度攻勢をかける。電撃は最も近かったメイスに集中したようで、他のメンバーはノーダメージだった。


「もらったよっ!」


 カルマが渾身の一撃で後ろ足を切断する。


 悲鳴とともに巨体がガクッと傾く。必死に前足で地面を掻いて攻撃を逃れようとするレアメタルホーン。その隙を逃すことなく全員で集中攻撃をかける。


 背中に炎の槍と二条の光線が突き刺さり、あえぐように前に一歩進み出てきたところでその頭にメイスを叩きこむと、短い激闘は幕を閉じた。




「勝負は一瞬じゃったが、結構な強敵だった気がするのう」


「そうですね。ソウシさんがあれだけ押されることはなかなかありませんし、普通のパーティなら最初の突撃で全滅もあり得ますね」


 シズナとスフェーニアが言う通りで、あの突進も電撃も知らなければそれだけで終わりというくらいの攻撃だった。


 俺の防御力が異常すぎるのとパーティの人数が多いので力押しで倒せたが、並のパーティだったら出会った瞬間諦めるレベルのモンスターだ。


 しばらく待っていると宝箱が現れた。


 さすがAランクレアボスと言うべきか、出てきたのは金箱だ。ラーニが尻尾をブンブン振って俺を見るので許可を出すと、踊るようにして近づいて行って蓋をあけた。


 出てきたのは黒い球だった。大きさは大玉スイカくらいだろうか。


 その表面は一切の光沢がなく、むしろ光をすべて吸収するかのように黒かった。一瞬そこに穴が開いているのではないかと錯覚するような、そんな球体である。


「『アビスメタルスフィア』というそうです。歪まず溶けず侵されず、そしてもっとも重い金属……だそうですが、恐らくこれは歴史上初めて発見された素材ではないでしょうか」


 というのがマリアネの鑑定結果だった。


 試しに持ち上げてみると、なんとスイカ大にもかかわらず『不動不倒の城壁』と同じくらいの重さがある。あのダークメタルより比重の重い金属ということだろう。


「これってさあ、ソウシのためにあるような球だよね」


「あ~そういうことかい。ラーニ冴えてるじゃないか」


 ラーニとカルマが納得しあっているが、俺も言いたいことはわかってしまった。


 しかし新発見の素材ということなら本来は帝室に献上しなければならないものな気はする。ひとまずグランドマスターに相談してみるとするか。

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