17章 帝都への長い道  34

 翌日は予定通り、フレイニルとマリアネを連れて鉱山街へと出向いた。


 ゲシューラは魔道具の製作を続けたいとのことで、しばらくはログハウスに籠るとのことだった。万一他の『黄昏の眷族』が例の情報を聞いて来ないとも限らないので、一応ログハウスは街道から見えない場所に移動をした。

 

 ドロツィッテ女史もドワーフの里にとどまり、冒険者ギルドで本部とやりとりをするようだ。


 今更ながらギルドのトップがそんな奔放なことで大丈夫なのか聞くと、


「ギルドを実質切り盛りしてるのはサブマスターだからいいんだよ。私はどちらかというと半分名誉職的に今の位置にいるだけなんだ」


 と笑いながら返された。


 もっともその答えを聞いて、側にいたマリアネは深いため息をついていたが。


 さて、昼過ぎに鉱山街に着くと、ちょうどカルマたちが冒険者ギルドへと入って行くことろだった。心配はそれほどしていなかったが、5人とも元気そうなので少し安心する。


「カルマ、調子はどうだ?」


「あれ、ソウシさんじゃないか。こっちは結構稼いでるしいい鍛錬になってるよ。硬いモンスターが多いから、『切断』スキルとか『貫通』スキルが上がり易くていいね。ただ素材が大量に取れるんだけど重くてね。一日二回ギルドに売りに来てるんだ」


『アイテムボックス』があるとはいっても、さすがにサクラヒメは俺ほどの重さは持てない。ラーニの『疫病神』とカルマの『相乗』で素材の出現数も相当に多いはずだ。


「ところでソウシさんの方は上手くいったのかい?」


「ああ、昨日『黄昏の眷族』が来て討伐できた。この間の奴と同じ種族だったみたいだ」


「なんの心配もしてなかったけど、そんな簡単に討伐したとか言われるとねえ。また宴会になったのかい?」


「いや、里長には伝わってるだろうけど今回は大げさにはしないでもらうようにグランドマスターにはお願いした。ドワーフもこれ以上仕事を遅らせるわけにもいかないだろうしな」


「まあそうだねえ」


 そんな話をしながら一緒にギルドへ入っていく。


 何人かのドワーフの冒険者がロビーで休んでいたが、カルマたちの姿を見て「おお、戦女神じゃねえか。今日はどれだけ掘ってきたんでぇ」「またミスリル山ほど取ってきたんか? まったく信じられねえ腕だわな」などと声をかけられている。


「さすがだな。もうそんな有名になっているのか。しかし戦女神ってのはなんだ? パーティ名でもつけたのか?」


 聞くと、スフェーニアが寄ってきて答えてくれた。


「いつのまにか冒険者の方から自然とそう呼ばれるようになってしまったようです。『ソールの導き』だと言ってはあるのですが」


「自然発生的な二つ名ってところか。まあ5人の姿を見れば戦女神と呼びたくなるのも分からなくはないな」


「ふふっ、ありがとうございます。そういえば『黄昏の眷族』はまた素手で倒されたのですか?」


「相手が素手だったからな。今回は今までで一番早く勝負がついてしまったよ」


「それはぜひ見たかったですね。ソウシさんの猛々しいお姿はめったに見られませんから」


 スフェーニアの熱を帯びた目が俺に向けられると、それを見ていた冒険者が小さくヒュウと口笛を吹いて仲間と話し始める。


「やっぱりあれだけ強いと集まる女もケタが違うわなあ。命の恩人じゃなけりゃやっかむところだぜ」


「そりゃな。お前もモテたければ『黄昏の眷族』を殴って倒すしかねえな」


「あれはマリシエール殿下でも無理だろ。まさかあの『玲瓏れいろう』の上がいるとは思わなかったわ」


「今年の帝都武闘大会は観客席に入るだけでも大変らしいな。すでに席の権利がとんでもねえ値段で取引されてるって話だ」


「そりゃそうだろうな。しかしこれで殿下が『英雄』に負けることがあったらどうなるんだ?」


「あのパーティに入るんじゃねえか?」


 少し穏やかでない話が聞こえてきたな。


 ラーニがニヤニヤしているので、俺は聞こえないふりをしてギルドの外に出ることにした。




 さて、カルマたちがもう一度鉱山ダンジョンに入るというので、俺とフレイニル、マリアネも合流することにした。


 リーダーはカルマのままでいいと言ったのだが、「落ち着かないからそれはやめとくれよ」と断られた。


 さてその鉱山ダンジョンだが、内部はいかにも坑道といった感じの、くりぬかれた岩の中を進むようなものであった。


「基本的には表皮が金属になっているモンスターばかりじゃの。ソウシ殿ならすべてメイス一発で片がつく程度じゃ」


 鬼人巫女のシズナがそう言うと、サクラヒメもうなずいた。


「それがしだとミスリルリザードはともかく、ミスリルゴーレムになるとまだ切断力が足りぬようだ。あらためてソウシ殿の力には感服いたす」


「力だけはあるからな。それとオリハルコン系のモンスターはいないのか?」


「奥まで行けばいるようじゃが、その前に持ちきれぬくらいに素材が集まってしまうからのう。途中のものを諦めればいいのじゃが、どちらかというと鉄やミスリルの方が需要が多いと言われてのう」


「鉄は分かるが、オリハルコンよりミスリルの方が需要があるというのは不思議だな」


 その疑問にはマリアネが答えてくれた。


「オリハルコンはドワーフしか加工できず、しかも値段が高い上に重量もあるので買い手が限られてしまうのです。市場としてはミスリルの方が圧倒的に流通してますし需要も多くなります」


「なるほど、言われてみれば納得だな」


 話をしている最中にも、メタルリザードやキラーワームなどの金属素材をドロップするモンスターが次々と湧くようにして出てくる。


 まだスキルレベルの低いシズナやサクラヒメが率先して倒していくが、いつもの通り数が多いので結局は全員で倒すことになる。


「やっぱりソウシがいると全然違うわね。ゲシューラが言ってたとおり3割くらい力が上がる感じ」


「まっこと凄まじいスキルでござるな、『将の器』というものは。しかしそれに頼らぬように己を鍛えねば、足をすくわれることもあろう」


 ラーニとサクラヒメはモンスターの群れを切り払いながらそんなことを言っている。


 俺はしばらく出番がなさそうなので、ひたすらドロップした金属素材を『アイテムボックス』に入れていく。


 ダンジョンのなかは他にも多くの冒険者がいて、それぞれモンスターと戦い素材を集めている。これがこの世界の鉱山での採掘なのだと思うとなんとも奇妙な感覚に襲われる。しかしこれもそのうち慣れてしまうのだろう。


 しばらく進んでいくと、出現するモンスターがミスリルリザードやミスリルゴーレムといった強力なものになる。ランクとしてはBに近いだろうか。


 ちなみにこの鉱山ダンジョンは階層といったものはなく、とにかく網の目状に通路が広がっていて、奥に行くにつれて難度があがるという特殊なタイプらしい。一応最奥部にはボスモンスターらしきものはいるが、倒してもスキルは手に入らず、希少な金属が手に入るだけらしい。


 硬いモンスターが数十体と現れるので、フレイニルに『神の後光』を使ってもらい弱体化させておく。


「フレイの『後光』は強力だねえ。ミスリルゴーレムがまるでスライムみたいに切れちまうよ」


 カルマが『獣王の大牙』を振るうとゴーレムが数体まとめて両断される。ラーニとサクラヒメ、マリアネも『疾駆』で動き回り次々とモンスターを解体していく。


 俺はひたすら素材を拾っていくが、間に合わなくなってきたのでシズナの使役する『精霊』の鉄人形に手伝ってもらうことにした。


「ここから先はアタシたちも初めて入る場所だね。気をつけていこうかソウシさん」


「分かった。警戒は必要だな」


 カルマに答えて一応『不動不倒の城壁』を用意する。とはいえザコ相手には出番はほぼないだろう。

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