17章 帝都への長い道 30
ドワーフたちが岩の周りから移動したのを見計らって、俺はメンバーに声をかけた。
「よし、一仕事してこよう。皆は待機しててくれ」
「お気を付けくださいソウシさま」
「早く鉱山ダンジョンも入ってみたいよね~」
「さすがにすぐには入る許可はでないんじゃないのかねえ」
フレイニルは真面目に気づかってくれるが、ラーニとカルマはもう撤去できた気でいるようだ。
まず『アイテムボックス』を空にしようと、俺が大岩の左の空き地に向かおうとすると、珍しくゲシューラが近づいてきた。
「ソウシ、ちょっと待て」
「どうした?」
「崖を部分を見よ。人為的に崩落させられたような跡がある」
「なに……?」
ゲシューラが指さす先は、崖の崩落した部分だ。俺が見ても自然に崩落した跡にしか見えないが……。
「上の方に5つ、魔法を撃ち込んだ跡のようなものがある。等間隔に開いた破壊跡が見えるであろう?」
言われてみれば確かに、崩落した場所の上の方に外部からの力によってえぐられたような跡が、ほぼ等間隔に並んでいるのがかすかに確認できる。
「私にも見えますね。あきらかに不自然な痕跡です」
スフェーニアまで言うのだから間違いないだろう。どうやら思った通り事故ではすまない話になりそうだ。
この事故が人為的に起こされたのなら、当然それは誰がやったのかという話になる。
そしてもし俺があの大岩を撤去したならその『誰か』の思惑を潰すことになるわけで、もしこの場にその『誰か』がいるのであれば、当然なんらかのアクションがあるはずだ。
しかし優先すべきは閉じ込められた冒険者の救出だ。
「わかった、この事故が人為的に引き起こされたという前提で対処しよう。といっても俺はこのまま作業を行う。皆は周囲に気を配ってくれ。もしかしたらその犯人がこの場にいる可能性もある。それからグランドマスター、ゴステラ氏に今の件を伝えてもらっていいでしょうか?」
「了解した。しかしこれが『天運』というものなんだね。どうなるか楽しみ……いや、それは少々不謹慎かな、ふふっ」
含み笑いをしながら、ドロツィッテ女史はゴステラ氏のほうに歩いていった。
メンバーがそれぞれの武器を気にしながら周囲に目を走らせ始めたので、俺は空き地のほうに向かった。
さて、まずは荷物をすべて出さねばならない。さすがにあの巨岩を追加で入れるのは無理だろう。
俺は『アイテムボックス』を開き、ゲシューラのログハウスや、オーズ国で入れたままの大木、そしてパーティの野営装備などを広場に並べていった。その時点ですでにドワーフたちが驚きの声を上げているのが聞こえる。
そして本命の『カオスフレアドラゴン』だ。やたらと出し入れしているような気がするが、強靭な鱗のおかげで傷はついていないようだ。
ドラゴンの巨体を穴から引きずり出すとドワーフたちの方からどよめきが聞こえてきた。こっちに来ようとしているドワーフが何人かでてくるが、ゴステラ氏がそれを一喝して止めてくれている。兄のライアノス氏と違ってゴステラ氏は落ち着いているようだ。
俺はというと、久々に『アイテムボックス』を空にしたことによって恐ろしく身体が楽になったことに驚いていた。『アイテムボックス』は入れたものの重さによって多少の体力消費を求めてくるスキルだが、俺は思った以上に大きな負荷を与えられていたらしい。
さて問題はあの巨岩が入るかどうかだが、まあやってみるしかない。
俺は岩の前に立ち『アイテムボックス』の穴を岩の下に展開する。どうなるかと思っていたら、目の前の岩がストンと穴の中に落ちた。
「ぐっ……これは……結構くるな」
俺の全身に一気に凄まじい負荷がかかってくる。
だが歩けないほどではない。20メートルほどをなんとか移動して、再度『アイテムボックス』を開く。さすがにあの岩は俺でも引き出すことはできないので、空中に地面に斜めになるように穴を開くと、穴から巨岩がズズッと滑り落ちてきて、地震のような衝撃を発した。
場が一瞬静まり返った。
その直後、見守っていたドワーフたちから一斉に「うおおおおぉっ!!」と歓喜とも驚嘆ともつかない声が上がる。
崖の方を見ると、ダンジョンの穴がしっかり露出していた。周囲は地面がへこんだり大小の岩が散らばったりしているが、とりあえずこれで中の冒険者たちは出られるはずだ。
俺が一息ついていると、ゴステラ氏をはじめ、多くのドワーフたちが俺を囲んできた。
「アンタ! いやソウシさんって言ったか。ソウシさんよ、アンタ一体何者なんだ!? あんな岩を『アイテムボックス』に入れられる冒険者なんて見たことも聞いたこともねえぞ! とんでもねえバケモンだな!」
バンバンと背中を叩くのは兄と同じなのかドワーフの風習なのか。
さらに歓声が上がったかと思ったら、どうやらダンジョンから冒険者たちが出てきたようだ。
冒険者たちは一様に疲れた顔をしていたが、それでも全員が笑ったりホッとした顔をしている。話によると丸一日以上は閉じ込められていたようなので、精神的な疲労はかなりのものだろう。
俺はドワーフたちにもみくちゃにされながらも、周囲の警戒は続けていた。もちろん岩を落とした犯人の動きを警戒してだ。
今この場はお祭り騒ぎになっているので、それとは無関係に動いている人間がいればその人物が怪しいということになる。しかしすでにこの場は300人以上の人間がいる。見分けをつけるのは難しかった。普通に考えれば、犯人がいない可能性の方が高いのも確かである。
『ソールの導き』のメンバーたちの方を見る。
彼女たちはちょっと離れたところにいて、とりあえずこの騒ぎには巻き込まれていないようだ。フレイニルは俺の方を祈るようにして見ているが、ラーニやスフェーニアたちは周囲を見回してくれている。
「ああ~? ナンで岩がどけられテンだぁ?」
その場違いな言葉は、喧騒の中でもなぜか俺の耳に届いた。
「たしかめに来てよかっタなあ。半端やるとローヴェがうるセエかんなぁ」
人間味を感じない、どこか壊れたようなイントネーション。
声の方を振り返ると、そこには崖を見上げる冒険者風の人間が立っていた。フルフェイスの兜を装着しているので顔は見えないが、体格からいって男だろう。
「とりあえずまた岩を落とスかぁ。今度はイッパイなぁ。ついでにココにいるニンゲンも潰していいヨなぁ。せっかく集まってルンだしヨォ」
そのセリフで、そいつか今回の下手人だということが分かる。しかし問題は、見た目通りの人間なのかということだ。
ともあれ今はあの男がなにかしようとしているのを止めるが先だ。俺はドワーフたちをかき分け、男のところに向かった。
周囲に注意喚起はできない。今俺が騒いだら男がいきなり暴れ出す危険があるからだ。
落ち着いて、しかし早足で冒険者風の男に近づいていく。
「ソウシ~っ、どうしたの~っ?」
俺の動きを怪しんだのか、ラーニがなにか叫んでいるのが聞こえた。
それに反応してメンバー全員がこちらに視線を向ける。
「その者は……!」
激しく反応したのはゲシューラだった。『黄昏の眷族』である彼女が真っ先に気づいたというなら、男の正体は推して知るべし、か。
---------------------------------------------------
告知
いつもお読みいただきありがとうございます
次回12日(月)は所用により更新をお休みさせていただきます
14日から更新再開いたします
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます