17章 帝都への長い道 27
ほぼ工房といったたたずまいの里長の館、入り口付近に職人と思われるドワーフの男性が立っていた。
そのドワーフに侯爵の護衛騎士が声をかけると、その職人と思しきドワーフは、慌てて館の入口に入っていった。
程なくして大柄なドワーフの男性が玄関から現れた。髭で覆われた顔からは年齢がうかがい知れないが、人族でいうと50歳くらいに見える。さっきまで鍛冶をしていたような格好で、どうやらドワーフがそのあたり無頓着なのはイメージ通りらしい。
ザンザギル侯爵が前に出て、その里長と思われるドワーフに一礼をした。
「急に済まんなライアノス。今日は仕事を頼みたくて参ったのだ」
「お主が直接来て依頼とは珍しいのうカツラマル。しかし今仕事が立て込んでおってな。すぐには取りかかれんかもしれんのじゃが」
「そこをおして頼みたいのだ。相手が娘の命の恩人でな。しかも王国では『英雄』と呼ばれる冒険者たちなのだ」
「ほう? お前の娘の恩人となればたしかに無下にはできんのう。しかし『英雄』とはちと名をかたり過ぎではないのかのう」
「冒険者ギルドのグランドマスターが認める人物なのだ。かたりではござらぬよ。ソウシ殿、こちらへ」
侯爵に呼ばれ、俺は里長の前に進み出た。
「初めまして、ソウシ・オクノと申します。Aランクの冒険者で、『ソールの導き』のリーダーをしております」
「おう、ワシはライアノスじゃ。ふむ……」
里長ライアノス氏は俺を下から睨むように見上げると、フンと鼻を鳴らした。
「まあたしかにただ者ではなさそうじゃな。しかし英雄と呼ばれる証は見せてもらいたいところだの。それによってこちらも対応が変わるのでのう」
「対応というのは?」
「一番大きいのは誰がその依頼を受けるか、じゃな。ドワーフといえど職人の腕には差がある。もちろん一番はワシじゃ」
そこでニカッと笑うライアノス氏。どうも裏表とか腹芸とか、そういうのはなさそうだ。
「それは重要ですね。しかし英雄というのはあくまでも呼び名というか、形のない称号のようなものですので、証と言っても……」
「ソウシ殿、先ほど話に出たドラゴンでよいのではないか?」
侯爵の言葉にライアノス氏の目が光る。
「ドラゴン? どういうことじゃ?」
「実は先日帝国の南でドラゴンを討伐いたしまして、それをお見せすることならできます」
「ドラゴンを見せる? 魔石や素材があるということか?」
「いえそれは……お見せした方が早いでしょう。残念ながら巨大なものなので里の中では取り出すことができません。城門の外に出ていただかないとならないのですが……」
「ふむ、面白そうじゃな。よし、行くか。おい! お前らついてこい!」
ライアノス氏が工房の方に大声を張り上げると、中から10人ほどの職人ドワーフが出てきた。全員なにごとかという顔だが、特になにも言わないあたり「いつものこと」なのかもしれない。
ライアノス氏を先頭にしてぞろぞろと40人で通りを練り歩き、城門から外に出る。
里長が「面白いものが見られるそうじゃぞ」と声をかけながら歩いていたので、振り返ると200人くらいの野次馬がついてきていた。ドワーフが祭好きなのもイメージ通りなのだろうか。思ったより大事になる気配だ。
さすがに街道の近くには出せないので、少し離れた場所まで移動してもらう。
「このあたりでどうじゃ?」
ライアノス氏が立ち止まり俺の方を振り返った。
「ここなら問題ありません。では……」
俺は『アイテムボックス』を発動する。どう出そうか少し迷ったが、穴を地面に垂直に大きく開き、ドラゴンの尻尾をつかんで引き抜くことにした。
ズルズルと音を立てて姿を現す『カオスフレアドラゴン』の黒い巨体。
ザンザギル侯爵とライアノス氏の目が次第に開かれていくのが見える。
集まった野次馬たちの口がポカンと広がっていく。中には腰が抜けたように地面にへたりこむ人間もいるようだ。
ちなみに『ソールの導き』のメンバーとドロツィッテ女史は妙に誇らしそうな顔をしているのがこそばゆい。
ドラゴンの巨体を引き抜き終わると、俺は『アイテムボックス』を解除して侯爵たちのところへと戻った。
「こちらが先日討伐した『カオスフレアドラゴン』です。後ですべて皇帝陛下に献上することになっております」
「これは……なんと見事な……。しかも見たところ身体にほとんど傷がない。素手で倒したというのは本当なのだな……。いやそれ以前にこの巨大なドラゴンをまるごと運べる『アイテムボックス』とはいったい……」
侯爵は小山のようなドラゴンを見上げながら呆然と立ち尽くしている。侯爵を囲むように立っている騎士たちも同じ反応だ。
ライアノス氏の方はと見ると――
「酒だ! 酒をもてぇいっ! 今日は祭りじゃあっ!!」
「うおぉぉおぉぉぉっ!!!」
里長の怒号とそれに応じるドワーフたち。
いったいなにが始まったのかと思う間もなく、ドラゴンの周囲にはあっという間に酒樽が並び料理が並び、お祭り騒ぎがはじまったのであった。
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