17章 帝都への長い道 15
地上に戻ってギルドに報告をし、『プリズムドラゴン』の魔石と素材を提示すると、Aクラスダンジョン初踏破の実績は翌日には正式に認められた。
マリアネの予想通り、その報は王都中に一瞬にして知らされ、娯楽に飢える冒険者や市民が騒ぐ格好の材料とされた。
先日の『聖女交代の儀』での一件や、その前の城門前の『暴走悪魔』撃退のこともあって『ソールの導き』は完全に王都でも英雄扱いとなってしまったようだ。
俺はなるべく宿から出ないようにしたかったのだが、さすがにそういうわけにもいかずあちこち引っ張りまわされた。当然王城にも呼ばれ、国王陛下には苦笑いされつつ賞賛の言葉を賜った。もちろん『プリズムドラゴン』の魔石は王家への献上品となり、代わりに色々と恩賞の品をいただいた。
その中でも想定外だったのは……いや予想はしていたのだが、
「ソウシ殿、貴殿が望んでいないのは重々に承知をしているが、どうか爵位を受け取ってはくれまいか」
いつもの会談の間で、国王陛下が頭を下げんばかりの勢いでそう言われてしまったことだ。
「さすがに未踏破のAランクダンジョン攻略、そして先日の『聖女交代の儀』での対応、加えて先のエリクサー献上の件を勘案すると、もはや貴殿に爵位を与えぬというわけにはいかぬのだ。なにしろ我が妻も余に毎晩文句を言うくらいでな」
「やはり宮廷でも取り沙汰されているのでしょうか?」
「無論だ。卿とは正式な形でつながりをつくるべきという声が圧倒的に多い。それに加えて、これだけの功績をあげたものに爵位を与えることがないとなれば、国王の義務をないがしろにするとまで言われる始末よ」
いくぶん疲れた顔の国王陛下には、普段の覇気が多少失われているように見える。それだけ突き上げられているということだろう。
「いただけるのはどのようなものなのでしょうか」
「うむ、それなのだがな、ジュリオス」
代わりに宰相のジュリオス氏が書類を読み上げる形で報告をする。
「ソウシ殿に賜る爵位は『名誉伯爵』とする。一、この爵位はヴァーミリアン王国伯爵位と同等とする。一、この爵位は一代限りのものとする。一、この爵位により、当人は王国に対していかなる義務も負わない。一、この爵位には領地が付随しない。一、この爵位を持つ者には、年間3000万ロムを与える。以上です」
「つまり伯爵同等でありながら義務はなく、代わりに領地は与えられないというものですね」
確認すると、国王陛下は重々しくうなずいた。
「できる限り卿が納得できる条件にしたつもりだ。もちろんこの爵位によって卿は正式に王国の後ろ盾を得る。そしてこれが重要な話であるのだが、伯爵であれば、公爵であっても王家の了承なしに卿にいかなる干渉もできなくなる」
「……なるほど」
「公爵」という言葉強調した理由はあきらかだ。
俺が叙爵されてしまえば、事実上聖女となったフレイニルに対して彼女の元実家であるアルマンド公爵家が手を伸ばしてきても、それを正式につっぱねることができるということである。
もとより貴族階級になることにはまったく興味はないが、メリットが多いならそれを断る理由もない。
そもそも叙爵を避けていたのは無用の義務を負うこと、領地に封ぜられることを避けたかったからだ。それらが一切なく、さらにメンバーを権力から守ることができるとなれば、むしろ受けない方がおかしいということになるだろう。
「さらに言えばな、ソウシ殿」
「なんでしょうか?」
「王国では……いや、これはオーズ以外どこも同じだが、貴族には一夫多妻が認められる。貴殿が責任を取る上で、爵位は絶対に必要だと思うのだ」
そう言って、国王陛下はニヤリと笑った。
ジュリオス宰相も顔を背けつつ含み笑いをし、陛下の後ろに立つ親衛騎士のハーシヴィル青年とメルドーザ女史も微妙に口元を引きつらせているようだ。
さすがに陛下の言わんとしてるところも分からなくはない。のだが、素直に首肯するのも色々とためらわれるところだ。
「その責任については自覚が足りていないところですが、叙爵については謹んでお受けいたします。どうかよろしくお願いいたします」
「うむ、ありがたい。これからもよろしく頼む。王国のためとは言わぬ。卿の信念に従って今後も冒険者を続けられよ」
ホッとした顔の国王陛下と握手を交わし、俺は新たに加わった己の肩書きをメンバーにどう伝えようかと頭を悩ますのであった。
さて、そんなわけで色々とやっているうちに一週間が経ってしまった。
俺のメイスについては代替品を武器屋で作ってもらったが、さすがにあのレベルのものはできなかった。話によるとあのメイスは並の職人では作れないらしかった。実はエウロンのあのドワーフの親父は腕利きだったというオチである。
ともかく自分自身驚くほどに手元が寂しく感じるので、早急にドワーフの里に行って満足できる武器を得たいところだ。
『叙爵の儀』がつつがなく終わり、遂に『名誉伯爵』となってしまったその翌日朝、俺たちは宿の食堂で次の予定を話し合っていた。
「う~ん、本当なら『王家の礎』に入りたいんだけど、ソウシが万全じゃないのは気になるわよね」
ラーニが言うと、シズナが相づちをうつ。
「そうじゃのう。Aランクを超えるほどのダンジョンとなれば慎重に慎重を期したほうがよいと思うの。それにわらわもまだそこまでの自信がないというのもあるしのう」
「それについてはそれがしも同じ。まだAランクのダンジョンでも力不足を感じる次第。噂に聞く『王家の礎』に挑むには時期尚早と感ずるところにござる」
「入れる回数が決まってるんだから、やっぱり万全でいった方がいいんじゃないかねえ」
サクラヒメとカルマも賛成をし、スフェーニアとマリアネもうなずいているので大勢は決した。
「わかった。『王家の礎』についてはまたの機会に入ることにしよう。俺自身、仮のメイスだと心細い。できればドワーフの里に行くことを優先したい」
「じゃあ帝国に向かうってことでいいんだよね。それはそれで楽しみねっ」
ラーニが尻尾をぶんぶんと振る。
「最終的な目的地は帝都ということになるが、マリアネ、そこまでのルートはどういう感じになるんだ?」
「そうですね。北に向かうとカルマン辺境伯の治めるカッシーナという城塞都市があります。そこを抜けるとすぐ帝国領となり、関を抜けると帝国南端のガッシェラという大きな交易都市があります。ガッシェラを経由し、さらに北東に向かってザンザギル侯爵領に入ります。そこでドワーフの里に寄り、さらに北北西に向かって帝都プレイオーネに到着ということになります」
「単純に歩いていくだけでどのくらいかかる?」
「普通の人間なら3か月はかかるでしょうか。冒険者が休まず歩けば1か月ですむかと思います」
「そのくらいは当然かかるか。むしろ意外に近いくらいなのかもしれないな。ところで例の黄昏の眷族の話は帝都には伝わっているんだな?」
「グランドマスターにも確認を取りましたが、国王陛下から皇帝へはすでに情報は行っているとのことです。一応ゲシューラにも話を聞きたいとは言っているようですが、必要な情報は伝わっているので、そこまで急いではいないそうです」
「国王陛下がおっしゃったとおりだな。ならばあまり急がずに帝国に向かうとするか」
「それでは途中のダンジョンにも入るのですね、ソウシさま?」
「今後のことを考えてもスキルはできるだけ増やしておかないといけないからな」
北のアルデバロン帝国は、話によると『黄昏の眷族』が襲来することも多いらしい。『悪運』改め『天運』……いや、やはり『悪運』でいいな……のおかげで、俺たちは間違いなく遭遇することになるだろう。彼らの王とも言うべきレンドゥルムなる者の強さも未知数である以上、俺たちはひたすらに強さを求めなければならない。
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