17章 帝都への長い道 14
『プリズムドラゴン』の巨体が消えていくと、『ソールの導き』のメンバー全員が俺のところに集まってきた。
真っ先に俺に声をかけてきたのは、満面に天使のような笑みを浮かべたフレイニルだ。
「ソウシさま、未踏破のAクラスダンジョン攻略おめでとうございます。これでソウシさまの行跡に、またひとつ大きな偉業が加わりましたね」
「ありがとうフレイ。でもこれはフレイを含めて皆で勝ち取った結果だから。俺からも皆におめでとうと言わせてほしい」
「ソウシさまがそのような方だからこその『ソールの導き』です。私はこれからもソウシさまについて参ります」
両手を胸の前で組み、俺に対して祈りをささげるポーズをとるフレイニル。たしかにもう依存の域を超えて、信仰になっているのかもしれない。思えば俺もフレイニルの増えていく依存心には真剣に対応をしてこなかった。彼女については彼女が望む限り共に生きてこうと心を新たにする。
「あ~、たしかに今まで会った中で最強のボスだったけど、結局はなんか一方的だったよね。相手が一体だともう私たちの敵じゃない気がするわね」
ラーニがのんきそうに言うと、シズナがしかめっ面で首を横に振った。
「それはラーニの言う通りなんじゃがのう、あのモンスターがもし地上に現れたなら、街ひとつ、下手をすると国一つくらいは簡単に滅ぶまであるじゃろう。わらわたちの力がおかしいというのはきちんと自覚をしておかんとならんのう」
「まあそうなんだけどね。ソウシの『将の器』も強まってる感じだし、異常な強さにはなってるわよね。スフェーニアとゲシューラの魔法もすごいしね」
指名されたゲシューラは、身体をゆらゆらさせながらうなずく。
「『将の器』か。このパーティに入ってから、我の魔法力も3割ほど強力になっている気がするのだ。もしそれだけの強化ができるスキルということになれば、このパーティの能力の高さも納得がいく」
「3割も強化されたらもう別人よね。ソウシから離れて戦う時は注意しなきゃってことになりそう。ま、離れなければいいだけなんだけどねっ」
そう言ってラーニが俺の腕に抱き着いてくる。こんなことをするのは初めての気がするが、なんだかんだ言ってラーニも今の戦いには緊張をしていたのだろう。
それを見て目を細めていたマリアネが、ふと気づいたように周囲を見回す。
「そういえば宝箱が現れませんね。ということはここが最下層で間違いなさそうです」
「そういえばそうだな。とするとそろそろスキルが来るか――」
言ったそばからスキル獲得の感覚が身体を走り抜けた。
俺は『神剛力』、つまり『剛力』『金剛力』のさらに上位のスキルを得たようだ。もはや俺の膂力はどこまで強まるのか想像もできなくなってきた。人がこれほどの力を得て大丈夫なのかという恐ろしさすら感じるが、しょせん力は道具にすぎないと思い直して誤魔化すしかないだろう。
フレイニルが得たのは『神気』。『神属性』や『聖属性』魔法の効果をさらに高めるスキルらしいのだが、スキルを得た瞬間フレイニルに神々しい雰囲気がたちのぼり聖女感が一気に増した。もしかしたらとんでもないスキルなのかもしれない。
ラーニは『金剛力』で、『剛力』の上位スキルだ。俺とカルマに続いての取得だが、スピード型の彼女がパワー系の上位スキルを身につけた意味は大きい。
スフェーニアは『範囲拡大』を得た。実は意外なことに彼女はまだこの魔法の攻撃範囲を広めるこのスキルを持っていなかった。これで確実に彼女の殲滅力が高まり、集団戦が楽になるだろう。
マリアネの得た『投擲・極』も言うまでもなく『投擲』の上位スキルだ。彼女はボス戦では鏢の使用率が高いため、投擲力が上がるのは非常に心強い。ちなみに今回のスキルを得たことで彼女の投げる鏢は凄まじい音を立てるようになった。もしかしたら速度が音速を超えたのかもしれない。
シズナは『先制』を覚えたが、これでウチの魔法組3人はすべて『先制』持ちになった。ただ精神集中なしで魔法を放てるこのスキルは、短期決戦のザコ戦では絶大な効果を発揮するが、次に魔法を放てるようになるまでの時間が長くかかるため、長期戦になるボス戦ではあまり出番がない。それでも強力なスキルであることに変わりはないが。
カルマはここにきて『重爆』スキルを覚えた。俺がかなりはじめの方からお世話になっているスキルで、攻撃に『重み』を加えるというスキルだが、大剣使いの彼女にも非常に有用なものだろう。すでに『ソールの導き』の中ではトップクラスの攻撃力をもつカルマだが、これでさらに頼りがいがでてくるだろう。
サクラヒメは『舞踏』というスキルを得た。初めて聞くものだが、どうやら攻撃を連続で繰り出すと、その分武器の効果が増すというもののようだ。なんとなくゲーム的なスキルだが、薙刀で距離を保って連続攻撃ができるサクラヒメとは相性がよさそうだ。
なおゲシューラは例によってスキルは得られなかった。ただ「少し魔力が強くなったような気がするな」とつぶやいていたので、なんらかの強化がされている可能性もある。
「あれ? ソウシ、そのメイスちょっと変じゃない?」
各々スキルを確認し転移部屋に移動しようとした時、ラーニが俺のメイスを見てそう言った。
「そうか?」
メイスを持ち上げて見てみるが、別段おかしなところは見つからない。
「ソウシさま、メイスが全体的にゆがんでいるような気がいたします。少し離れて見るとおわかりになるかと」
「ふむ……」
フレイニルの言葉に従ってメイスを少し離して観察する。たしかに微妙な違和感がある。言われてみれば全体的にゆがんでいるようにも見える。
ものづくりスペシャリストのゲシューラが近づいてきて、目を細めながらメイスを眺めはじめる。
「……たしかにゆがんでいるな。恐らく全体的な強度バランスが崩れ始めている。このメイスはもう使わぬほうがよい」
「相当酷使したからな。ついに、という感じか」
「言われてみれば当たり前のことじゃのう。ソウシ殿のメイスが破壊したモンスターは数知れず。しかもその中には岩より硬いものがいくつもいたことじゃろうし」
シズナの言う通りかもしれない。というより、いままで予備を用意しようとしていなかったのは明らかに失策だった。あまりに頑丈で壊れることなどないとたかをくくっていたのかもしれないな。
俺がメイスを『アイテムボックス』にしまっていると、サクラヒメが「それがしに考えが」と口を開いた。
「実はそれがしの実家があるザンザギル領にドワーフの里があるでござる。ソウシ殿に相応しいメイスならば、オリハルコンを扱えるドワーフに頼むのが一番と思うがいかがであろうか」
「ドワーフの里は行こうと思ってたところだ。オリハルコンもミスリルも大量に手に入っているし、ザンザギル領にも行く予定だったからちょうどいいな」
「さんせ~。私の剣もそこで新調してもいいかもしれないわね」
「うむ。そういうことであれば、エリクサーの恩を返すことも含めてザンザギル家で対応をいたそう。ドワーフの里とはよい関係が築けているゆえ」
「コネがあるのはありがたいな。ぜひ頼む」
「ところでソウシ、さっきのドラゴンからなんか『強奪』してたよね?」
ラーニに指摘されて思い出した。その場では奪ってすぐに『アイテムボックス』に入れてしまったので忘れていた。
取り出すと、それは片刃のショートソード……というか、いわゆる忍者刀のような、反りのない脇差しのような武器だった。
「……『竜尾断ち』という名付きの武器ですね。『切断+5』『伸刃+5』『全属性+1』の効果がある、国宝級のものです」
「は~、アタシの『獣王の大牙』に続いての国宝級武器かい。さすがソウシさん、どんどん囲っていくねえ」
カルマがバシバシと背中を叩いてくるが、「囲っていく」は冤罪だと言いたい。
「ともかくこれはマリアネ用だな。使えそうか?」
『竜尾断ち』を手にしたマリアネは、鯉口を切って刀を抜き、何度が振ってみてうなずいた。
「まるでずっと使っていたかのように馴染みますね。ありがとうございます、使わせていただきます」
マリアネは『竜尾断ち』を大事そうにひとなですると、それまでの武器と入れ替えて腰に
「さて、じゃあ地上に戻るか。マリアネ、初踏破ということになるが、やはり報告は必要だろう?」
「必要です。それとこのことはすぐに公になります。そうなると当然……」
「あ、もしかして大宴会とかやっちゃう感じ?」
「そりゃそうだろうさ!」
ラーニとカルマが肩を組んでニッと笑う。マリアネはうなずきながら言葉を続けた。
「そうなります。これで『ソールの導き』は冒険者の間では知らない者のないパーティとなるでしょう。当然国王陛下からもなんらかの沙汰があると思います。無論ギルドのグランドマスターからも」
「……すまん、また俺はよくわかってなかった。Aクラスダンジョン初踏破ってのはそのレベルの実績なんだな」
どうもそのあたりの感覚はいつになっても現地のものに追いつかない。あまりに展開が早いからという言い訳もあるにはあるが……さすがにそれを理由にするのは情けない気がするな。
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