17章 帝都への長い道 11
さて、最終日を控えての野営である。
セーフティゾーンは貸し切りなので、ラーニとカルマの要望によりかなり派手に焼肉パーティを行った。
地下30階ではいよいよ未知のボスとの対面になるはずで、リーダーの俺としてもメンバーの状態には気を使うところである。しかし見た感じ、パーティ加入順で考えてカルマまでのメンバーに特に問題はなさそうだ。
ゲシューラはいつもの無表情なので分からりづらいが、実力からいくと彼女は『ソールの導き』内でも上位にくるはずなので大丈夫だろう。
問題はやはり日が浅いサクラヒメだ。『ソールの導き』に入ってから普段のスキル上げ鍛錬を地道にこなし、戦いの経験も率先して積もうとしている彼女だが、もとのステータスがまだAランクに達しているとはいえないため不安は大きいだろう。
俺は少し帝国の話を聞きたいという風を装って、サクラヒメの隣に座った。
「サクラヒメ、寝た後はきちんと疲れは取れているか?」
「ソウシ殿。うむ、疲れが翌日に残っているということはない。今それがしは非常に充実していて、日に日に自分が強くなっていくことが実感できているでござる」
「なら気分も乗るかもしれないな。そういえば『至尊の光輝』ではあまりダンジョンに潜らなかったと言っていたな」
その質問には、サクラヒメは整った眉を少し寄せ、黒の瞳を少し閉じてから答えた。
「ガルソニア達3人はダンジョンに入るのをあまり好んでいなかったのだ。それがしが何度もスキルを得ることが大切だと言ってようやく入っていた感じだったのであるが……」
「なにかあったのか?」
「どうも妙にダンジョンボスでイレギュラーな事態に遭遇することが多く、ガルソニア達はそれも非常に嫌がってな。強力なレアボスに会っては魔道具を使って逃げるを繰り返していたので、スキルもなかなか手に入らなかったのでござる」
「そういうことか……」
ガルソニア少年は悪運こと『天運』スキルを持っていたので、俺と同じようにダンジョンではレアボスなどに多く出会うことになったのか。俺たちはそれでも戦って勝ってきたが、ガルソニア少年たちは逃げてしまったというなら、彼らは強力なスキルを得るチャンスを逃し続けたということでもある。俺たちと彼らの間においてそれが決定的な違いとなったのは間違いなさそうだ。
「あそこで逃げなければ『至尊の光輝』ももう少し違う今もあったかもしれぬ。が、それはいまさら言っても詮無きこと。それがしとしても悔いは残るものではあるが……」
「外から見れば、サクラヒメは命を賭してまで仲間を救おうとしていたくらいだから全力を尽くしていたと思うし、サクラヒメが責任を感じるものでもないとは言っておこう。ただ自分自身が納得するかどうかは別だからな」
「かたじけないソウシ殿。それがしも、ソウシ殿のパーティに入れたこれからが冒険者として真に活動する時と心を改めているところでござる。それに『ソールの導き』はとても居心地がよく……ラーニ殿が『逃げられない』と言っていたのも納得でござるな」
そう言って、サクラヒメは口元に笑みを浮かべた。そういえば彼女が笑ったのは初めて見た気がするが、それくらい心が穏やかになっているならリーダーとしては嬉しいかぎりだ。
「そうでしょそうでしょ! 戦って強くなれて、ご飯も美味しくてお風呂も入れて寝るのも気持ちよくて、こんないいパーティなんて世界中どこにもないわよ。野宿なのに下手な宿より快適だからねっ」
耳聡いラーニが尻尾を激しくふりながら話に加わってくる。
「うむ、まっことそれがしもそう思う。いままでの旅とは天と地の差があるでござるよ。戦いも始めモンスターの多さに腰が抜けるかと思ったが、皆平然と戦うのでいつの間にか当たり前になってしまっていたでござるし」
「それはアタシも同じだねぇ。これだけ人数が多いパーティだから楽をしてるのかと思ったらとんでもない話だったからね。ボスが3体出てくるなんて普通に考えたらそれだけで終りみたいなもんだよ」
カルマが少し酔ったようにサクラヒメに絡んでくる。いや、彼女は実際少し飲んでるのだ。俺も前は少し酒をもらっていたが、どうもあまり酔わない体になってしまったようなので今は飲んでいない。
「今回もレアボス1体と普通のボス2体でござるからなあ。しかしあの強力そうなボスをソウシ殿はまるで羽虫でも潰すがごとくに倒すのでござるから、それがしも精進をせねばと感じる次第」
「あはは、サクラヒメって真面目よね。でもね、そのソウシの強さに慣れると、もう完全に逃げられなくなるからね。まあうちのパーティに入った時点で手遅れなんだけど」
「そうそう。こんな甲斐性のあるリーダーはそうはいないからねえ。まあ将来性はバッチリだし、逃げられなくなっても問題はないから安心していいよ。あとはソウシさんがどこで手を出してくるかだけど、これは狩りみたいなもんだからタイミングが重要さね」
「狩り、でござるか? よく分からぬが、モンスターを倒すのに適切な間合いが重要なのは理解できぬでもない」
どうも帝国の話を聞こうとする前に女子トークに入ってしまったようだ。女子トークというには少し物騒な気もするが……。
まあサクラヒメの状態に問題がなければリーダーとしては安心だ。あとは明日、未知のボスとどう戦うか。油断をせずに行くとしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます