17章 帝都への長い道 10
『オリハルコンゴーレム』を倒しながら進むと、やがてボス部屋の扉が見えてくる。
小休止の後ボス部屋に入る。
現れたのは『ダークデーモン』だ。頭部はヤギ、身体は人間、背中に蝙蝠の羽、そしてネズミの尻尾、指先には血のように赤い爪が光っている。頭部のねじれた角はまさに悪魔といった趣だ。身長は角を抜いて2メートルといったところか。
格闘戦も魔法戦もハイレベルでこなし、知能も高い強敵であるが、目の前にはその『ダークデーモン』が2体いる上に、その奥にはさらに位の高そうな黒ヤギ頭の『デーモン』がいる。レアボスと思われるが、仮に『サタン』としておこう。その名をつけたくなるくらいの迫力はある。
「魔法攻撃は基本的に俺が受ける。接近戦になったら奥のレアボスは俺が相手をするから、皆は前の2体をやってくれ」
「はいソウシさま」「了解っ!」「分かりました」「承りました」「了解じゃ」「任せな!」「範囲魔法は我が妨害しよう」「承った」
なんとも頼もしい仲間だと思いながら、俺は『不動不倒の城壁』を構えながら前に出る。
2体のダークデーモンが反応して左右に広がり、魔法を使うそぶりを見せる。その前にフレイニルの『神の後光』が輝きその魔法をキャンセル、同時にスフェーニアとシズナが放った炎の槍が1体に襲い掛かる。
その1体は回避するものの、『必中』スキルもちのスフェーニアの魔法は避けられず、結局ほとんどの炎槍を食らって燃えながら吹き飛ぶ。
もう1体は魔法を諦めたのか、俺の方に滑るように突っ込んできて真紅の爪を閃かせた。
盾を切り裂こうとして歯が立たないと分かるや横に回り込もうとするダークデーモン、しかしそこをラーニのミスリルソードがとらえて深い傷を負わせた。
斬られたダークデーモンは素早く体勢を立て直すが、そこにラーニとマリアネが突っ込んでいって2対1の戦いが始まる。
一方で魔法を食らって吹き飛んだダークデーモンのもとにはカルマとサクラヒメが走っていき、こちらも2対1の戦いとなる。
残るは悠然と構えていたサタンだが、いきなり片腕を天に突き出して魔法を使う様子を見せた。どうやらかなり高位の魔法を溜めていたようだ。
「止めると言ったのだが」
しかしその高位魔法が放たれるより早く、ゲシューラの雷魔法が激しくサタンの身体を打った。サタンは大きくよろけ、魔法は見事に妨害された。ゲシューラの魔法妨害は戦術としてはかなり強力だ。
俺はその隙を逃さずにサタンに肉薄する。サタンは逃げようと下がるが、その後ろに二条の光線が水平に発生し自らそこに飛び込む形になる。フレイニルが『聖光』の新しい使い方を編み出したようだ。
『聖光』に押し戻される形になったサタンは、一転して俺に突っ込んできた。『翻身』にプラスして『疾駆』まで加わった動き。並の冒険者ではついていくのも厳しい機動だが、俺の目は問題なくその動作をとらえる。
正面から、と見せかけて左に回り込むサタン。なるほど武器のない方に行くか。しかし……
ゴシャッ!
左から真紅の爪を伸ばしてくるサタンに、裏拳の要領で『不動不倒の盾』を叩きつける。ハエ叩きに潰されたハエのごとく、全身をひしゃげさせて吹き飛ぶサタン。
だがまだ息はあるようだ。俺はダークデーモン2体の戦いに問題がないことを確認し、虫の息のサタンに近づく。まずは『強奪』。そしてメイスでとどめ。これでは俺の方が
見るとラーニ・マリアネ組は、マリアネの状態異常が効いてダークデーモンの動きが止まったところをミスリルソードが一閃、首を落として勝利していた。
カルマ・サクラヒメ組は、カルマが大剣の一振りで押し込み、そこをサクラヒメが『幻刃』スキルを連続使用して滅多斬りにして止めをさしていた。
Aクラスダンジョン、深層のボスもどうやら完勝のようだ。いつも思うが、『ソールの導き』は本当に強いパーティだ。
現れた宝箱は3つ。2つは銀だが1つは金だ。金箱は俺以外は見るのは初めてなので、集まってきて皆の目は心なしか輝いている。というかラーニは踊り出しそうな感じさえある。
銀箱2つからは『エリクサー』と『ミスリルシールド』が出た。『ミスリルシールド』は今のところ装備するものがいない……と思ったら、ゲシューラが使いたいというので渡すことになった。
問題は金箱だが……
「ねえねえソウシ、私が開けていい!?」
とラーニが目を輝かせているので承諾をした。
ウヒョーとか聞いたことのない歓声をあげて金箱を開く。
「うわ、すごっ!」
現れたのは、薄く黄金色の輝きを放つ、刃渡りだけで1メートル半以上はありそうな大剣だった。柄頭には獅子の彫刻が施されている、工芸品としても価値の高そうな大業物である。
『鑑定』をしたマリアネが、溜息とともに報告をする。
「『獣王の大牙』という名前付きの武器です。オリハルコン製で『剛力+3』『切断+3』『翻身+3』の効果があります。これも国宝級の武具ですね」
「これは魅入られるような逸品じゃのう。見ただけで恐ろしい力を秘めているのが分かるようじゃ」
「まさに天下の大業物でござるな。これほどの武具は帝国にもそうはないであろう。このようなものが手に入る瞬間を見られるとは、なんたる僥倖」
シズナとサクラヒメが感じいっている横で、カルマが俺のほうをじっと見ているのに気づく。
「もちろんこれはカルマのものだ。持ってみてくれ」
「本当にいいのかい? なんていうか……嬉しいねえ!」
虎獣人の美女は破顔して俺の肩を叩いてから、床に横たわる大剣を手にとった。刀身をじっと見つめ、握りを確認してから、ニヤリと笑う。
「いいね、しっくりくるよ。アタシ用にしつらえられたみたいな感じまでする。皆悪いね、これは使わせてもらうよ」
カルマはそれまで背負っていたミスリルの大剣をはずし、『獣王の大牙』を代わりに背負った。
その嬉しそうな様子を見て、ラーニは拗ねたように口をとがらせる。
「ちぇ~、カルマに先越されちゃったわね」
「悪いねラーニ。これでアタシもリーダーからの予約済みってことで」
「ふ~んだ。本命は最後なんだから、私が一番いいものもらうわよ。ところでソウシ、さっき『強奪』もしてたよね? なんだったの?」
「ああそれは――」
俺は手に持ったものを皆に見せた。頭蓋骨があしらわれた、赤く輝く禍々しいペンダントだ。
「見た目と違って神聖な力を感じます。しかも非常に強い力です」
フレイニルが目を細める横で、マリアネがじっと『鑑定』をする。
「……『堕天使の悔恨』という名付きのアクセサリです。『全状態異常耐性+5』『全属性魔法耐性+5』、これも国宝級ですね」
「それもすさまじい効果だな。つけるのは……」
「守りの力を上げるものはソウシさまが身につけるべきと思います」
「賛成じゃ。それに効果が素晴らしいのは分かるのじゃが、見た目が少しのう……」
他のメンバーもうなずくが、フレイニルとシズナ、どちらの意見に共感したのかは不明である。まあたしかに見た目のクセが強すぎて、女子は身につけるのに抵抗があるのは分かる。
ともあれパーティの総意なので俺がつけることにした。しかしこのアクセサリは、むしろ王族などが欲しがりそうなものかもしれないな。
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