17章 帝都への長い道  09

「ソウシさん、先ほどの戦いは素晴らしかったです。私見とれてしまいました」


 セーフティゾーンにて皆と食事をしていると、そんなことを言いながらスフェーニアが隣に座ってきた。


 どうも俺がオーガチャンプを素手で倒してから、スフェーニアの様子が一段とおかしくなった気がする。俺を見る目が妙に熱っぽいのだ。


「ちょっと遊びがすぎたかもな。まあ勝てると分かっていたし、負けそうになっても助けてもらえることは分かっていたからやっただけなんだ」


「ふふっ、ソウシさんが負けるなんて、私たちは誰も思ってませんよ。むしろいつも静かなソウシさんがああいう一面を見せてくれるとホッとします」


「ホッとする……そうか?」


 フレイニルは明らかに心配そうな顔をしていた。ラーニとかカルマとかシズナは楽しがっていたが、サクラヒメはかなり驚いていたようだ。


「男の人の強さに惹かれる女性は少なくないと思います。冒険者に限っていえばかなり多いと思いますよ」


「それはアタシも同じ意見だねえ。特に獣人族の女は強い男には一も二もなく惚れるからね。ソウシさん、そこは覚えといてくれないと困るよ」


 カルマがそんなことを言ってニカッと笑う。ラーニも隣でコクコクとうなずいているから嘘とかではないのだろうが……だからって2人が俺に惚れてるとか、そういう話なんだと確認しないほうが身のためだろう。


「ふむ……『黄昏の眷族』の女も力ある男にはなびく性質は強いかもしれぬ。もっとも我らは女も強いからな。そう簡単にはなびかぬが」


 ゲシューラが蛇の下半身をよじらせて反応すると、ラーニが興味深そうな顔をした。


「ねえゲシューラ、『黄昏の眷族』も普通に男と女で子どもを作るのよね?」


「む? もちろんだ。そこはニンゲンと変わらぬ」


「じゃあ恋をしたりとか、結婚をしたりとか、そういうのもあるの?」


「恋か……この男と子をなしたいというような感情を恋と言うならもちろんある。ただ結婚という制度はないな。子どもができたら男を追いだす女なども少なくないからな」


「えぇ、一緒に育てたりしない人もいるんだ。面白いわね」


「『黄昏の眷族』は個体によって性質が大きく違うのでな。そもそも同じ姿形をした者が少ないのだ。それに比べたらニンゲンは全部同じに見えるくらいだ」


「そういえばゲシューラと、この間のアーギとかいう奴もその前に会ったザイカルって奴も全然似てないもんね」


「うむ。そこが『黄昏の眷族』とニンゲンとの一番大きな違いだろうな」


「でも、姿形が違っても、男女で結ばれることはあるのでしょう?」


 そこでスフェーニアが身を乗り出してくる。


「うむ。姿形がある程度似ていれば問題はない。我とソウシくらいの差が境界線といったところか」


「そうなんですね。それならエルフと人族の違いなどあってないようなものですね。ソウシさんもそう思いませんか?」


「え? あ、ああ、そうだな。人族もエルフも獣人族も、俺は同じだと思っているが……」


 俺を下からじっと見上げてくるスフェーニアの瞳には有無を言わさぬ威圧感がある。そんなに迫力をださなくても、もとより俺に差別するような気持ちはないのだが。


 俺がたじろいでいるとシズナが横からつついてきた。


「ソウシ殿、それなら鬼人族も同じということでいいのかのう?」


「ああすまない、もちろん鬼人族も同じに考えているさ」


「ならいいのじゃ。ソウシ殿にはわらわのこともきちんと見て欲しいからのう」


 意味を含めた視線を投げかけ、元居たところに戻っていくシズナ。


 彼女に関しては、母親で大巫女であるミオナ様にめとらないかとほのめかされているのでどうしても意識をしてしまう。


「ソウシさまは種族は気にされないとおっしゃっていましたが、その……年齢差などはいかがでしょうか? 気にされますか?」


 その次はフレイニルがすがるような目を向けてくる。質問の内容からいって明らかに異性として受け入れるかどうかの話だとは分かるのだが、どう答えるべきなのかが難しい。


 見るとスフェーニアがじっとこちらに視線を向けているほか、ラーニやシズナも気にしているような雰囲気だ。これはますます下手に答えられない気がするが……。


「……そこまでは気にしない、かな。冒険者は年齢についてはかなり曖昧なようだし……」


 実際自分自身見た目が多少若返ったりしているので、おかしな答えでもないはずだ。どうやら気にしていた4人はその答えで満足だったらしく、フレイニルも嬉しそうな顔をして「うれしいです」と言ってそれ以上つっこんではこなかった。


 俺はその時マリアネがずっと黙っているのに気付いてそちらに目をむけたのだが、なんとマリアネは口もとでフッと笑ってうなずいて見せた。


 それがなにを意味するのかはまったく分からないが……なんとなく堀が埋まっていくような、そんな感覚を覚えたのは気のせいではないだろう。




 翌日は地下21階からだ。『ソールの導き』としては初めての深さになる。


 16~19階は各階が広い空間一つだけという特殊な造りだったが、21階は白い石壁で造られた普通の通路にもどった。といっても幅10メートル、高さ5メートルくらいはありかなり広い。


 ちなみに昨日のボス戦で宝箱は一つだけで、中身は『王者の腰布』という防具だった。明らかにオーガチャンプに関わる防具だが、見た目は普通の黒い美しい布の帯である。なんと『剛力+5』という強力なもので、誰がつけるかはかなり悩んだ(というか俺がつけるべきという意見が強かった)のだが、現状一番力が不足しているサクラヒメにつけてもらうことにした。


 さてザコ戦だが、21階~22階に出現するのは『ミスリルゴーレム』、名前の通りミスリル製の鎧がそのまま動いているようなモンスターだ。身長が3メートルとオーガチャンプ並みにあり、物理魔法どちらに対しても防御力が高く、手にしたミスリル製の剣の攻撃力も高い。特殊なスキルこそないが真正面からぶつかると苦戦必至な敵である。


 倒し方としては身体の中央にある核を破壊することだが……ここは俺のメイスで押しとおることにした。一度に6~7体出てくるのだが、メイスの一振りですべて紙細工のように潰れていく。一応1~2体は残してメンバーにも経験を積んでもらうが、数に勝れば危なげはない。


 言うまでもなくドロップ品として『ミスリル』が大量に手に入った。


 23~24階は『ナイトストーカー』という、四本足の獣の形をした影のようなモンスターが出現する。大きさはライオンほどだが、動きが速い上に物理攻撃が効きづらいモンスターで、幻覚や混乱など状態異常も仕掛けてくる面倒な相手だ。


 だがアンデッド属性のためフレイニルの神属性魔法『神の後光』に非常に弱く、一度魔法が決まると行動不能になっているところを叩くだけになる。


 25階では再度ゴーレムが登場するが、こちらは『オリハルコンゴーレム』である。『ミスリルゴーレム』に比べて防御力も攻撃力も格段にアップするが、残念ながら俺のメイスの前では焼け石に水である。大量の『オリハルコン』が手に入ったため、いよいよ俺の武器もオリハルコン化か……という夢が広がる。

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