16章 王都騒乱 09
宿に戻った俺たちは、またもや全員集合で今回の教会の件を話し合っていた。
俺が一通りの話をすると、まず反応があったのはフレイニルだった。
「そのようなお話が……。それでソウシさまは依頼をお受けになったのですね?」
「断る理由のない話ではあったからな。気が乗らないのは確かなんだが、相手が教会の枢機卿、それも礼がわりの依頼と言われたら断るにはそれなりの理由が必要なんだ」
「それは分かります。しかし本当にただの依頼なのでしょうか……」
フレイニルがそう言うのは、教会に対して思う所が大きいからか。もっともその疑問は俺も同じだし、他のメンバーも同じだろう。
理屈でいえば、俺たちは別に教会と直接対立をしているわけではない。
ただ教会が追放したフレイニルがAランクにまでなったこと、そして『ソールの導き』が『至尊の光輝』のお株を奪ったということについて逆恨みされる可能性があるというだけだ。ただ組織というのは時に己の面子に異常に執着するので、実は逆恨みというのが一番厄介だったりするのだが……
「明らかになにか裏で考えている感じではあったな。考えすぎかもしれないが」
「あの感じじゃどう考えてもなにかあるわよ。あの男すごく嫌な臭いがしたし」
「そうですね。間違いなく言葉通りには取れない話だったと思います。『至尊の光輝』の件で揉めるように仕向ける可能性も示唆していましたし、こちらを誘導しようという意図も見えました」
ラーニの臭いに対する感覚はかなり信用できるし、スフェーニアの分析もその通りだ。枢機卿は明かにこちらのルートを限定するように話を進めていた。そう考えれば、明らかに裏のある話である。
そこで少し話が止まると、カルマが声を上げた。
「まあ受けちまったもんは仕方ないんじゃないのかい。それでどうするのさ。その依頼には全員で参加するのかい?」
「全員でと言いたいところだが、人前に出る依頼なのでさすがにゲシューラを参加させるのはやめたほうがいいだろう。悪いがしばらく王家にかくまってもらうか……」
「いやソウシよ、近くの森の中にでも家を出してもらえば我はそちらでしばらく時を過ごそう。この街を出る時にまた迎えにきてくれればよい」
「それでいいならそうしよう」
ゲシューラの意見は渡りに船だな。王家に預けるのも、宿に一人で待たせるのもどちらもできれば避けたいところだ。
懸案が一つ解決したところで、ラーニが耳をピクッと動かす。
「ところでソウシ、あの時部屋に来たゲイカって呼ばれてた人、すごく変なニオイがしたんだけど。なんていうか、ちょっとアンデッドっぽいっていうか、そんな感じのニオイ」
「アンデッド……? それは穏やかな話じゃないが、確かに見た感じ普通の状態ではなかったな」
「そうですね。意識が薄いように見えました。教皇があのような状態であれば噂になってもいいと思うのですが、ギルドでも話はでていなかったと思います」
マリアネの言う通りなら、対外的には教皇は普通通りということになっているのだろう。いよいよキナ臭い感じがするのは俺だけだろうか。
教会の依頼の開始は4日後だったので、それまでに未踏破だった王都周辺のD、Cクラスのダンジョンを攻略しておいた。
Dクラスでは全員それぞれ耐性スキルのレベルアップをした。
Cクラスでは俺は『貫通』を得たが、これはもしかしたら先日のアーギ戦で貫手で心臓を貫いたからだろうか。メイス攻撃に『貫通』の意味があるかどうかは現状オーバーキルすぎて体感できない。
フレイニルとスフェーニアは『鋼幹』で、彼女たちにとっては防御力の強化につながるだろうか。
ラーニとカルマも『貫通』で、これは剣による突き攻撃が強化されるようだ。
マリアネは『湧力』で体力回復が早まるスキルだが、彼女のようにスキルを連発して機動力を確保するタイプの冒険者には有用かもしれない。
シズナも『鋼幹』だったが、こちらは精霊の岩人形の強化になるだろう。
メンバー間で同じスキルを取得するようになってきているが、これは恐らくCクラスまでで取れるスキルが各自揃ってきているということだろう。もっとも同じスキルを持っていても、もともとの資質や戦い方でレベルアップのスピードは変わる。ゆえに同じスキルを持っていても得手不得手はでてしまうはずだ。
宝箱については『塩』や『砂糖』といった調味料がなぜか多くでた。塩はともかくダンジョン産の白い砂糖は高級品らしいのだが、もちろん野営料理用に取っておく。個人的には醤油や味噌が欲しいが、そもそもこの世界にあるのかどうか不明である。
有用な装備品としては、『精霊の巫女服』というシズナ専用のような防具が出てきた。『精霊進化+1』の効果を持つものである。
また『大鳳の弓』という短弓が手に入りスフェーニアの弓を久々に更新できた。『白鷺の弓』の『行動停止』効果も強力だったのだがさすがに威力不足は否めなかったので、『貫通+2』のついた正統派の高ランク短弓はありがたい。
そして教会の護衛依頼の初日を迎えた。
輸送隊の護衛ということだったが、正確には『聖女交代の儀』に必要な聖遺物を王都西にある遺跡まで取りに行くという、どちらかというと儀式に関わる一連のイベントの護衛であった。
護衛対象は教会の神官4名と1台の馬車。もちろん護衛は俺たちだけでなく、神官騎士(教会所属の元冒険者らしい)12名も随行する。
ちなみに馬車の中には、『至尊の光輝』のメンバーの一人である神官服の少女が乗っている。彼女は美しい銀髪をもった一見して非常な美少女ではあるのだが、その目元にはどうにも軽薄というか狡猾というか、計算高そうな性格がにじみでていた。彼女には申し訳ないが、ホロウッド枢機卿から彼女が『聖女候補』であると紹介された時はちょっと驚いてしまったくらいである。ちなみに名前をミランネラ・アルマンドというそうで、姓からしてフレイニルの実家であるアルマンド公爵家の一員であることは間違いない。
先日『彷徨する迷宮』ですれ違っていた時にフレイニルのことをじっと見ていたのが気になっていたのだが、彼女がアルマンド公爵家の関係者で『聖女候補』だというなら納得ではあった。
さて、街道をぞろぞろと歩くこと半日、遠くに石造りの大きな遺跡が見えてきた。形としては上部が平らになった台形のピラミッドだ。正面から上部にかけて階段があり登れるようになっている。上部には崩れかけた柱が何本か立っているので、もしかしたら巨大な祭壇なのかもしれない。
その遺跡の前に到着したときには、時刻はすでに夕方にさしかかっていた。今日はここで一泊し、明日早朝に遺跡に登って遺物を取り出して、そのまま王都まで戻る日程である。
護衛騎士の中に『アイテムボックス』持ちが2人いて、『聖女候補』や神官についての野営はそちら任せである。向こうにも『結界魔法』が使える者がいて『結界』も張っているようだ。
俺たちは俺たちでいつもの通り野営を行うが、こちらの方が圧倒的に装備が充実しているので神官騎士たちが時々こちらを気にする様子が見られた。
日が暮れる前に夕食を終え、焚火の周りで7人で車座になって、お茶で一服する。
もちろん『気配感知』は働かせたままだ。『ソールの導き』にはラーニとカルマという知覚に優れた獣人族がいる上に、邪悪な気配に敏感なフレイニル、視覚にすぐれたスフェーニアがいるので索敵に関しても非常に秀でている。
遺跡の周囲は平地で、離れたところに森があるが、感知できる範囲にモンスターらしき気配はない。
少しすると、馬車の方に動きがあった。
それに気づいたフレイニルが、不安そうな顔で俺に身を寄せてくる。
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