16章 王都騒乱 06
その後『悪魔』や『彷徨する迷宮』、そして『冥府の燭台』などの情報をやりとりをした後、俺とゲシューラ、そしてドワイト氏は揃って会談の間を出た。
控えの間に向かって歩きはじめたところで、ドワイト氏がくくっと笑い声をもらした。
「いやいや、ソウシさんが並の冒険者でないということは分かっていましたが、まさかオーズの巫女姫に加えて『黄昏の眷族』までメンバーに加えてくるとは驚きましたね。さらにはオーズとメカリナンでの活躍。グランドマスターとも、もはや笑うしかないと意見が一致しているところですよ」
「お騒がせして申し訳ありません。どうやらトラブルに好かれているようでして、各方面で予想外のことばかりが起こります」
「トラブルに好かれる、ですか? ふふっ、どうやらそのようですね。しかしそれらトラブルを最上の形で解決するにはゆるぎない実力が必要、そうでしょう?」
「実力と運と、あとは人との縁でしょうか。それらが私の周りにあることは感じています」
「ええ、ええ、その通りですよ。トラブルに恵まれていても、そういった要素がなければそれを乗り越えて糧にはできません。それだけに多くのトラブルを糧にできた冒険者が何者になるのか非常に興味があります。もちろんグランドマスターも同じでしょう」
「ご期待に沿えるかどうかは分かりませんが、今まで通りにやっていくつもりです」
「それで結構だと思いますよ。『黄昏の眷族』が攻めてくるという話は、この大陸にとって未曾有の危機となる可能性があります。無論危機はそれだけではありません。『悪魔』に『冥府の燭台』ですか、それに『彷徨する迷宮』が現れたこともなんらか災いの前兆でしょう。それらを打破するためには国家や組織の力が必要ですが、圧倒的な個の力も必要です。要するに英雄という存在ですね」
ドワイト氏は細い目で俺のほうをちらりと見る。
「今その立場に一番近い位置にいるのはソウシさんですよ。好むと好まざるとに関わらず、そう見られてしまいます」
「……自覚しておきます」
「本来その位置には『至尊の光輝』がいるべき……とアーシュラム教会では考えていたようですがね。あのパーティも『ソールの導き』と同じだったはずなのですが、彼らはトラブルを糧にできなかったようですね」
その言葉に、俺はついドワイト氏の横顔を凝視してしまった。彼の言ったことの中に俺が以前感じたことが含まれていたからだ。
「ドワイトギルドマスター、『同じ』というのはもしかして――」
「ええ、その通りです。恐らく『至尊の光輝』のリーダーであるガルソニアは、ソウシさんと同じ『特別なスキル』を持っています。だからこそ教会も彼を『救世の冒険者』に仕立て上げたのでしょうね」
その後『ソールの導き』は、ゲシューラを含め指定された宿へ入った。
それぞれ一休みした後、一部屋に集まって今後のことなどを話し合うことにした。
まずは褒賞の件である。
「今回の『悪魔』の討伐と『黄昏の眷族』3人の討伐に関して褒賞がいただけるらしいんだが、陛下から希望はないかと聞かれてしまった。何もなければまた勲章と賞金だとは思うんだが、なにか希望はあるか?」
「ソウシさまは貴族におなりになる気はないのですね?」
フレイニルの言葉に俺はうなずいて見せる。
「ああ、爵位や領地の話は出たが、それを受けるつもりはない。フレイは受けた方がいいと思うか?」
「いえ、私はソウシさまのお考えが正しいと思います。ソウシさまは一貴族に収まる方ではありません」
フレイニルの付与する属性がだんだん大きくなってきている気もするが、俺はあいまいにうなずいておく。
そのやりとりを見てニヤケていたラーニが手をあげた。
「『王家の礎』に入る権利をもらうっていうのはどう?」
「『王家の礎』というのはヴァーミリアン王家が管理しているダンジョンのことじゃな。冒険者としては一度入ってみたいのう」
「ソウシさんの盾もそこで手に入れたって話だよね。いいんじゃないのかい」
シズナとカルマが賛同すると、スフェーニアとマリアネも「異議ありません」と付け足した。
『王家の礎』は難度が高いかわりに強力なアイテムが得られるダンジョンだ。王家の許可がなければ入れないダンジョンであり、その入場許可を褒賞としてもらうというのはいいアイデアだろう。
「じゃあそれで決定だ。恐らく一回のみとか制限はつくだろうが、一度入れてもらったことがあるから断られることはないだろう」
「やった! やっぱり冒険者として一度は入ってみたいダンジョンだし、いいアイテムも手に入りそうだしすごく楽しみねっ!」
ラーニがフレイニルの肩を叩いて喜ぶ。
「それじゃ次だ。『ソールの導き』として次はどこに向かうかという話になるんだが、とりあえずこの王都のダンジョンはAクラスまで踏破するとして、その後の話だな」
「グランドマスターが最優先で帝都まで来てほしいと言っていました」
予想通りギルド職員のマリアネが即答する。
「まあそうなるだろうな。『黄昏の眷族』侵攻の話は王家やギルド経由ですぐに帝国にも伝わるはずだから、帝都に行くと皇帝にも呼び出されそうな気がするが……」
「それは仕方がないかと。現皇帝はヴァーミリアン王家と同じく冒険者ギルドに対しては一線を引いて対応をしていますので、おかしなことにはならないかと思います。そこはグランドマスターも強調していました」
「ならいいんだが。ゲシューラ、今回と同じような会見が入ると思うんだがいいか?」
「我は別に構わぬ。ニンゲンの王に会うこと自体いい経験となる」
「そうか。ならまあ王都でのいろいろが終わったらそのまま北の帝国に向かうことにするか」
「私はどこまでもソウシさまに付いてまいります」
「さんせ~。帝国には闘技大会とかもあるみたいだし、それも楽しみかも」
「オーズから見ると帝国は遠い国じゃからのう。恐らくオーズの人間としては初めて行くことになるかもしれんのう」
ひとまず話がまとまったところで、部屋のドアがノックされた。
俺が出ていくと、宿の従業員が「ソウシ様に教会の使者の方がいらっしゃっております」と伝えてくる。
「教会」と聞いて、後ろでフレイニルが緊張したのが分かる。
従業員の案内で、俺一人ロビーへと向かう。
そこで待っていたのは、白い神官風の衣装をまとった壮年の男性だった。後ろに同じく神官風の青年二人が控えている。
「お待たせいたしました。私がソウシです」
俺が挨拶をすると、壮年の男性は一礼をした。
「これはソウシ殿、お休みのところ申し訳ありません。私アーシュラム教王都大聖堂で司教をしておりますカナリーと申します。この度はホロウッド枢機卿より、ソウシ殿に宛てた書状を預かって参りました」
「それは御足労さまです。しかし枢機卿閣下より書状をいただく理由が分からないのですが……」
「それについてもこちらの書状にしたためてあるとのことです。まずはこの場にてご確認ください」
神官が差し出してきた書状を受けとり、その場で開封する。この場で確認させるのは、もし俺が文字を読めなかった場合に神官が代わりに読むということだろう。
中身を確認すると「先日サクラヒメを助けてくれて大変感謝している。ついては礼をしたいので2日後午前に大聖堂に来られたし」ということが、多少もったいぶった文章でつづられていた。
「……ふむ」
「ご確認いただけたでしょうか? それとこちらは口頭でのお願いとなりますが、大聖堂にいらっしゃる際には、フレイニル様を同行させることはなきようお願い申し上げます」
「フレイニルを……?」
聞き返そうと思ったが、確かフレイニルは教会を追いだされた身である。恐らく向こうでは破門とかそういう扱いなのだろうが……
「つかぬことをうかがいますが、フレイニルは教会ではどのような扱いとなっているのでしょうか?」
「……それは私からはお答えいたしかねます」
そう言った時のカナリー氏の顔は、微妙に苦しそうだった。
どうやらフレイニルに関する事情を知っている感じである。しかも彼自身、それを後ろ暗いところと感じている、そんな雰囲気もある。
しかしさすがにそれ以上は踏み込めない。
「分かりました、余計なことをお聞きして申し訳ありません。こちらの書状の件に関しては、2日後の午前に大聖堂のほうにうかがわせていただきます。そのようにお伝えください」
「ありがとうございます。ではお待ちしております」
神官は慇懃に一礼して去って行った。
しかし避けておきたかった面倒が現実のものなってしまったようだ。
こちらは別に信者でもなんでもないのだが、大陸全土に広がる組織のナンバー2から呼ばれたとなれば無視はできない。言い方は悪いが、向こうは有形無形の圧力をかけることができる組織なのだ。
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