16章 王都騒乱 04
バルバドザを出発して4日目の昼、俺たちは王都を望める丘の上にいた。
丘の手前で激しい音が聞こえていたので予想はできていたが、まさに今、王都は『悪魔』の襲撃を受けている真っ最中であった。
情報では「断続的に襲撃を受けている」とのことだったが、ちょうど当たりのタイミングで来てしまったらしい。
「ソウシさま、あの『悪魔』はオーズで出てきたものと同じですね」
フレイニルが指差す先には、大型の高速移動型『悪魔』がいた。タンクローリーほどの大きさの円筒形の胴体、その先に巨大な人間の顔がついていて、胴体の下には無数の足が生えている。
その巨体が城壁にぶつかるたびに、衝撃音が丘の上まで響いてくる。なお城壁の前には堀があるのだが、その堀の中に小型の悪魔が積み重なっていて足場を作っているようだ。
問題はその大型悪魔が3体いることで、それ以外にも6本足に頭が2つの虫型『悪魔』が30体ほどいて城壁に向けて魔法の氷槍を射出している。
一方で城壁の上には冒険者らしき者が大勢いて、魔法や矢を放って応戦している。
見ているうちに大型『悪魔』が再度城壁に突っ込み大きな音を立てた。城壁はまだもちそうではあるが、それでもあちこちがへこんだりくずれたりとかなりのダメージを受けていることが分かる。
「どうするソウシ、討伐されるまで待ってる? それとも援護する?」
ラーニが俺の隣に来る。耳をピクピクさせてるのは戦いたいということだろう。
「こっちは護衛任務中だからとりあえず様子を見よう」
「でもあの大きいのはソウシじゃないと難しくない?」
「王都ならAランクも多いし魔法で集中攻撃すれば大丈夫だろう」
言っているそばから一体の大型『悪魔』に100本を超える炎の槍が突き刺さった。ダメージを受けて動きが止まったところに、さらに追加で100本の炎の槍が降り注ぐ。さすがの大型『悪魔』も高ランク冒険者の集中攻撃には抗えず、横倒しになって消滅し始めた。
戦いを見ていたゲシューラが興味深そうな顔で腕を組んだ。
「あのようなモンスターは我も見たことがない。見たところかなり頑丈そうだが、どのようなものなのだ?」
「ここ数か月で急に現れ始めたモンスターなんだ。別の世界からやってきているらしいんだが、いまだ正体は分かってない」
「別の世界……? 神の世界か?」
「いや、多分違うと思うが……なぜ神の世界だと思うんだ?」
「我らの間ではこことは別の世界が存在して、そこに神がいるということになっているのだ。もっとも誰かが神を見たというわけでもないが」
「神話みたいなものか。そのレベルであれば人間にも話は伝わっているな」
フレイニルによるとアーシュラム教の経典には記述があったらしい。まあ俺自身が実際に『異界』に行っているのだから、『悪魔』が別世界産なのは確定ではある。
話をしているうちに、さらにもう1体の大型『悪魔』が討伐される。
さすが王都の守りは固いなと安心していると、トロント氏が急に声をあげた。
「あちらの森からさらに同じ『悪魔』が現れましたぞ。しかも3体……いや、5体いますな。これはさすがに危険ではありませんか」
王都の左方に広がる森から、大型『悪魔』が次々と出てきた。そのまますごい勢いで走っていくと、迷いなく城壁へと突っ込んでいって大きな音と衝撃を発生させる。
しかも羽の生えた小型『悪魔』を100体ほど従えていて、そいつらが城壁の上の冒険者に向けて魔法を放ち始めた。冒険者たちはそちらの迎撃に切り替えたようだが、そうすると大型『悪魔』がフリーな状態で城壁に突っ込み始める。さすがにこれはちょっとマズいかもしれない。
「大型のものはこちらで倒そう。俺が引き付けて体当たりで転がすから、ラーニとスフェーニア、カルマはとどめを頼む。フレイニルとマリアネとシズナとゲシューラはトロントさんの護衛を続けてくれ」
「了解っ!」
「わかりました」
「任せなっ!」
「ソウシさま、お気をつけて」
メンバーの返事を聞いて、俺はラーニたち3人を引き連れて『悪魔』の群に向かって走っていく。200メートルくらいまで近づいたところで『誘引』スキルを発動すると、城壁に体当たりを繰り返していた大型『悪魔』が反応してこちらに向きを変えた。
その数6体、まるで列車のように一列になってこちらに突進してくる。
「ラーニたちは少し離れてくれ!」
叫びつつ、俺は立ち止まって総オリハルコン製の巨大盾『不動不倒の城壁』を構える。
時速50キロを超えるスピードで大型『悪魔』のタンクローリー並の巨体が迫ってくる。正面に能面のような巨大な顔、その目は俺のことを無感情に見据えている。
グシャァッ!!
最初の一体が、『不動不倒の城壁』を顔にめり込ませてぶち当たる。
しかし前回より強化されたスキル群のおかげで、その極大の衝撃にも俺は一歩も下がることはない。
完全固定・破壊不可能なオブジェクトと化した俺。それに正面から突っ込んだ『悪魔』は、自らのエネルギーで顔面を潰しつつ、宙返りして俺の後方に背中から落下する。
もちろん間髪を入れず、残りの5体も同じ運命をたどる。次々と俺の後ろに吹き飛んでいく『悪魔』たち。
「ナイスソウシっ!! 後は任せてっ!」
「ソウシさんやっぱりすごいねえっ! おらっ、首おいてきなっ!」
地面の上でもがいている6体の大型『悪魔』の首を、ラーニとカルマが『大切断』『伸刃』スキルを全開にして斬り落としていく。スフェーニアも『二重魔法』『混合魔法』によって炎と岩の属性をもつ魔法の槍を多数出現させ、それを『悪魔』の横腹に撃ち込んでいる。
6体の大型『悪魔』が消滅するころには、城壁の方も小型飛行『悪魔』と虫型『悪魔』の殲滅を完了していた。
城壁の上で歓声を上げている冒険者たちの中に、王家の親衛騎士のハーシヴィル青年とメルドーザ女史の姿が見える。なるほど思ったより決着が早かったのは2人の力もあったからのようだ。手を振る彼らにこちらも手を振って見せ、俺はトロント氏たちの方へと戻っていった。
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